星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(33) 5.17~5.20
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトした「パラスポーツ・ピックアップ」シリーズ。今回は先週末に各地で開催されたビッグイベントの模様を中心にリポート。パラリンピアンの待遇改善のニュースも届いています。
■東京発
・20日: 日本障がい者スポーツ協会は臨時理事会を開き、パラリンピックのメダリストへの報奨金の規定を改定し、増額を決めた。金メダルは従来の100万円から150万円に、銀は70万円から100万円に、銅は50万円から70万円になる。今年3月に開かれたソチ大会まで遡って適用される。
2008年北京大会から始まったパラリンピックの報奨金制度は企業の協賛金や個人からの寄付金が主な財源。同協会では今後、財源の確保に努め、日本オリンピック委員会が五輪メダリストに贈る報奨金(金300万円、銀200万円、銅100万円)と同額にすることが目標という。
■パラトライアスロン
・17日: 国際トライアスロン連合(ITU)主催のITU世界トライアスロン大会シリーズ横浜大会が開催され、パラトライアスロンの部が全5クラス(⇒註)に国内外から約60選手が出場する過去最大規模で実施された。レースはスプリントディスタンス(スイム0.75キロ、バイク10キロ、ラン5キロの計15.75キロ)で行われ、全クラス(⇒註)を通して海外勢の強さが目立った。3位入賞を果たし、メダルを獲得した日本人選手は以下の4名。
【男子】
PT1(シッティング)クラス3位:木村潤平(東京都連合)1時間11分59秒
PT2(シッティング重度) 3位:橋本健児(宮城県協会)1時間25分22秒
PT3(シッティング中程度)3位:濱田美穂(大阪府協会)1時間42分44秒
【女子】
PT2 1位:秦由加子(千葉県連合)1時間36分25秒(出場1名)
また、昨年、TRI5(中程度の脚の障害)で銅メダルを獲得した古畑俊男(右膝下義足/チームトライオン所属)は今大会ではPT4(同)クラスで出走。1時間08分56秒と全クラスを通して日本人最速タイムでフィニッシュしたが、PT4クラスは出場者数も最も多く、ハイレベルの戦いとなり、古畑は5位にとどまった。優勝はフランスのヤニック・ボルソーでタイムは1時間4分27秒だった。
[caption id="attachment_21525" align="alignnone" width="474"] 競技歴27年の52才、古畑。痛みに耐え、フィニッシュ後に倒れ込むほどの激走だった。[/caption]
古畑はレース後、4月下旬の2連戦で義足側の断端に痛みが出て、3日前には肋骨にひびが入ったことを明かした。「最悪のコンディションだったにしては、よく頑張れた。スイムは遭難者がでなくてよかったと思うほどひどい波だったし、バイクもケガの痛みで苦しかったが、ランでは少し調子が上向き、沿道の応援の後押しもあって『苦しい中でもベストを尽くそう』と粘れた。横浜は3度目の出場になるが、年々規模が大きくなり、海外選手の出場が増えるのも、地元日本の選手としては嬉しい」
古畑は東京都の公務員で現在52歳。今季最大の目標は8月にカナダ・エドモントンで行われる世界シリーズ最終戦に出場し、昨年(TRI5で4位)を上回る結果を出すこと。その先に、2年後のリオ・パラリンピック出場も見据える。「トライアスロンをやっていなかったら、ただのオッサン。これがあるから、日々、目標に向かっていける。リオへのカウントダウンはもう始まっている。生活から見直してしっかり準備したい」
(⇒註)パラトライアスロンのクラス: 2014年2月のITU競技ルール改正に伴い、パラトライアスロンのクラス分けもPT1(シッティング/座位)、PT2-4(スタンディング/立位)、PT5(ビジュアリー・インペアード/視覚障害)の5クラス制に変更された。
■車いすバスケットボール
・17日~18日: 地区予選を勝ち抜いた全16チームが集い、第42回日本車椅子バスケットボール選手権大会が東京体育館で開催された。決勝戦は宮城MAXが千葉ホークスを52-49で下し、大会6連覇を達成した。昨年の5連覇達成から連勝記録を更新中。
試合は千葉が前半を26-23とリードして折り返したが、リズムを取り戻した宮城が第3クオーターで逆転。最終クオーターは1点を争う攻防になったが、宮城が終盤、連続得点で先行。試合終了間際、千葉はエース土子大輔の3ポインターで追いすがったが、宮城が逃げ切った。3位は埼玉ライオンズを63-42で下したNOEXCUSE(東京)。
[caption id="attachment_21526" align="alignnone" width="620"] 6連覇を達成した、宮城MAXチーム[/caption]
宮城MAXの岩佐義明ヘッドコーチ(HC)の話。「苦しい試合だったが、千葉ホークスとはチームスタイルが似ているので、競ることは覚悟していた。前半リードされたが、第3クオーターのディフェンスでリズムをつくり、4クオーター勝負と考えていた。勝因は終盤のディフェンス。相手のエース土子選手のマークを豊島英に変えたことで、土子選手のシュート率を落とすことに成功した。来年は7連覇?全国のチームが狙ってくるから大変だが、今までやってきたことに磨きをかけ、1ランク上のバスケットを目指す。うちの選手たちは常に向上心があり、自主性も強く、自分のチームながら素晴らしい。また来年も頑張りたい」
また、今大会の得点王(150点)でMVPにも選ばれた宮城のエース、藤本怜央は6連覇の喜びよりも、苦しんだ決勝戦を「反省」と振り返った。「いちばん大事な決勝で、シュートアベレージも低く、自分はテクニックやメンタルなどあらゆる面で欠落していた。エースとして反省する部分。相手がうちを研究し戦略を練っていることは分かっていたが、かなりトランジション(編集部註・攻守の切り替え)の速いチームで、背の高い選手も多かった。今後はうちも走り負けしない圧倒的な強さをつけなければと思う。終盤はファウルトラブルもなく、千葉よりもうちのメンタルのほうが安定していたと思うし、リズムの良さは手ごたえがあった。個人としても、前半は(千葉の)高いディフェンスに自分のシュートがほとんど打てなかった。後半は高さにも慣れたが、海外ではああいう(高さの)プレッシャーは当たり前。国内でこんな質の高い試合が経験できたのは収穫。今後はもっとチームに貢献できるよう、強さを身につけたい」
[caption id="attachment_21527" align="alignnone" width="412"] 埼玉ライオンズとの準決勝戦でシュートを狙う、宮城のエース藤本怜央選手(白)。得点王は9大会連続受賞[/caption]
惜しくも準優勝に終わった千葉は過去、何度も優勝した名門だが、昨年は地区予選で敗れ、選手権出場権を逃していた。今季は杉山浩ヘッドコーチが就任し、今大会での雪辱を期していたが、あと一歩及ばなかった。杉山HCの話。「今は悔しさと、『しっかりできた』という複雑な思いがある。去年はこの会場にすら来られなかったので、(HC就任1年目の)今季はチームを1回リセットして、『上を目指す基礎練習』にこの1年、真剣に取り組んできた。やってきたことは間違っていないと思う。あと1ゴールが取れなかったのはオフェンスの詰めの甘さ。これからの1年は若手選手の育成が課題。宮城マックスは強い。でも、早く倒さなくては」
[caption id="attachment_21528" align="alignnone" width="480"] 宮城の豊島英選手(白)の激しいディフェンスをかわしてシュートに入った千葉のエース土子大輔選手[/caption]
■車いすテニス
・17日: 13日に開幕したジャパン・オープンは大会5日目を迎え、ダブルス決勝が行われ、男子は国枝慎吾/マリパ・エヴァンス(南アフリカ)組が斎田悟司/真田卓ペアを6-3、6-3のストレートで下し、優勝。女子はイースケ・グリフォン/アニーク・バンクートのオランダペアが上地結衣/マーホレン・ブイス(オランダ)組を6-2、4-6、10-7で退け、優勝した。
・18日: ジャパン・オープンは大会最終日を迎え、シングルス決勝が行われ、男子は世界ランク1位の国枝が同2位のステファン・ウデ(フランス)を6-0、6-3のストレートで下し、大会通算7勝目をあげた。女子は同2位の上地が同4位のグリフォンを6-2、6-4で破り、初優勝だった昨年につづき、2連覇を達成した。
ジャパン・オープンで日本人選手がシングルスでアベック優勝を果たしたのは史上初。また、上地は今大会の結果、自身初のシングルス世界ランク1位となり、男子の国枝とともに、日本人選手が男女で世界の頂点に立った。
(写真: 星野恭子)