「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(256) 視覚障害のある柔道家が世界各地から柔道の聖地・講道館に! 日本勢は5階級で優勝!
開幕まで1年半に迫った東京パラリンピックでは、全部で22競技が実施されます。それぞれパラリンピック特有のルールや見どころなどがあります。こちらのコラムでも大会リポートなどと合わせ、できるだけご紹介していきたいと思います。2020年大会の観戦が少しでも面白くなりますように!
見えない、見えないなか、道着をつかんだままの接近戦!
今回は「柔道」です。パラリンピックでは「視覚障害者を対象とする柔道」が実施されます。基本的なルールはオリンピックと同様なので、観戦しやすい競技の一つでしょう。10メートル四方の畳の上で行われ、立ち技や寝技による「一本」や「技あり」と、「指導」の累積3回による「反則負け」などにより勝敗が決まります。試合時間4分間以内で勝敗が決しない場合は、ゴールデンスコア形式の延長戦が行われ、時間無制限で「一本」または「技あり」が決まった時点で勝敗が決まります。男女別体重階級別に競うのもオリンピックと同じです。ただし、大きく異なるルールが一つあります。視覚や視野に障害のある選手が行うので、最初から互いの襟と袖を持ち、「組み合った状態から開始される」点です。つまり、オリンピックの柔道ではよく見られる「組み手争い」の時間がなく、試合開始から技の応酬となります。両選手が離れると「マテ」がかかり、もう一度組みなおして再開されるルールです。休みなく繰り広げられる技の掛け合いが見どころです。 「東京国際視覚障害者柔道選手権大会」で女子57キロ級を制した廣瀬順子選手(左)。「組み合った状態での試合開始」は視覚障害者柔道の大きな特徴。廣瀬選手はこのあと、開始9秒で一本勝ちを収めた (撮影:星野恭子)
選手は相手との接近戦のなか、息遣いや道着をつかむ手の感触などから相手の出方を探り、防御態勢をとったり、あるいは相手のスキを見て技を仕掛けたりします。見えない、または見えにくいなかで組み合う中で、相手の重心を崩したり、裏をかくような攻撃を仕掛けたり、あるいはかけられた技を返したり、多様な駆け引きや多彩な動きを見せるのが特徴です。
視覚障害者対象の競技では主に「音」を頼りに競技を行うので、観客は「黙って見守る」のマナーですが、柔道の場合は違います。大きな声援や掛け声で、選手たちを力づけ、ぜひ会場を盛り上げてください。こんな豪快な技の掛け合いが何度も! 「東京国際視覚障害者柔道選手権大会」の男子66キロ決勝で藤本聰選手(右)の投げをかわす瀬戸勇次郎選手。延長戦の末、瀬戸選手が技ありで勝利した (撮影:星野恭子)
柔道の聖地で、28年ぶりの国際大会。日本勢は5階級を制覇!
さて、3月10日(日)には柔道の聖地、講道館(東京・文京区)で、世界15カ国から男女合わせて60名以上の選手が集い、第1回目となる「東京国際視覚障害者柔道選手権大会2019」が開催されました。視覚障害者を対象とした柔道の国際大会が日本で行われるのは28年ぶりのことで、2020年の東京パラリンピックを見据え、日本人選手にも海外選手にもよいシミュレーションとなりました。女子48キロ級の決勝は、世界ランク2位のトルコの選手と4位のフランスの選手が激突。高い技の掛け合いで両者一歩も引かない熱戦は延長3分56秒でフランスの選手に軍配 (撮影:星野恭子)日本からは昨年12月に行われた日本選手権の上位進出者たちから、男子7階級中6階級に10選手、女子は全6階級に9選手が出場しました。約80試合の熱戦が繰り広げられるなか、女子52キロ級で昨年のアジアパラ大会(ジャカルタ)銀メダルの石井亜弧選手(あゆみ/東京)が、男子73キロ級で同大会銅メダルの永井崇匡選手(たかまさ/東京)ら日本勢が5階級で優勝しました。
3選手が出場した女子52キロ級は総当たり戦で行われ、石井選手は1試合目のトルコの選手を合わせ技1本で勝利、2試合目のカナダ選手とは延長戦までもつれる熱戦となりましたが、9分57秒に抑え込み1本で勝利を納め、優勝しました。
永井選手は6選手によるトーナメント戦を勝ち抜きました。1回戦は不戦勝で、2回戦ではカザフスタンの選手を延長戦3分14秒で得意の巴投げで、決勝でフランスの選手を開始1分過ぎに倒し崩れ上四方固めで、ともに1本勝ちで快勝しました。
他に、女子57キロ級は欠場者が出て2選手のみの出場となったなか、昨年の世界選手権(ポルトガル)で銀、2016年リオパラリンピックで銅の廣瀬順子選手(愛媛)がインドネシアの選手を大外刈りによる1本で優勝。試合開始9秒での早業でした。
男子66キロ級は7選手によるトーナメントで競われ、日本人同士となった決勝戦で、19歳の大学生、瀬戸勇次郎選手(福岡)がパラリンピック5大会出場で金3つ、銀1、銅1獲得のレジェンド、43歳の藤本聰選手(さとし/徳島)を延長戦にもつれる熱戦の末、2分58秒で隅落(すみおとし)による技ありを奪い、ゴールデンスコアを奪って制しました。日本人対決を制した瀬戸勇次郎選手(右)は「戦っていて楽しかった。自信になった」とコメント。2位の藤本聰選手は「一緒に強くなれる気がする」と若手の台頭を歓迎 (撮影:星野恭子)
同100キロ超級は欠場者が出て日本人2人の一騎打ちとなりましたが、ロンドンパラリンピック金、リオ大会銅の第一人者正木健人選手(まさき・けんと/奈良)が3分30秒で佐藤和樹選手(北海道)に3つ目の指導が与えられ反則負けとなり、勝利しました。男子100キロ超級は正木健人選手(左)が佐藤和樹選手に競り勝った (撮影:星野恭子)今大会で世界の強豪たちに挑んだ日本選手たちはこの後、夏から秋に行われるワールドカップ戦などを転戦し、2020年東京パラリンピックに向け、さらなる強化を図っていく予定です。
(文・写真:星野恭子)