「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(254) 2月も各地で、パラアスリートが躍動! 主な大会結果をリポート
2月も毎週末、多くのパラスポーツ大会が開催されました。今号では直近の大会から遡る形で、主な大会結果をまとめてリポートします。
■2月23日(土)
【ブラインドサッカー】 さいたま市ノーマライゼーションカップ2019 @サイデン化学アリーナ (さいたま市)
日本代表の強化を目的に実施され、今年で7回目を迎えた国際親善大会で、昨年から女子代表の試合として行われている。今年は国際視覚障害者スポーツ連盟(IBSA)世界選抜チームと対戦し、菊島宙(そら)が9点、工藤綾乃が代表初ゴールを挙げ10-0で圧勝した。MVPには菊島が、MIPには世界選抜のカタリナ・クーンライン(ドイツ)が選ばれた。前年を上回る1,033名の観客が熱戦を見守った。
“トリプルハットトリック”となる9得点で、MVPにも選ばれた菊島宙(きくしま・そら)選手(左)。豪快なシュートは何度も観客をどよめかせた(撮影:星野恭子)
日本代表はフィールドプレーヤー(FP)6名、ゴールキーパー(GK)1名で構成され、IBSA世界選抜は2月21日~22日に行われた「IBSA 女子トレーニングキャンプ supported by 田中貴金属グループ」に参加した8カ国13名(FP11名、GK2名)から編成された。
試合は序盤から菊島が積極的にドリブルで持ち込んで鋭いシュートを放ち、世界選抜のクーンラインやGKのタニヤ・ヘンゲルらが必死に守る展開に。
フィールプレーヤーは全員アイマスクを着けて行うブラインドサッカー。女子選手はまだ少ないが、日本から7名、海外8カ国から13名が出場し、観客を魅了した(撮影:星野恭子)
前半6分、菊島がようやく先制点を挙げると、さらに9分、13分にも連続ゴールを決め、前半でハットトリックを達成。後半に入っても菊島の勢いは止まらず、9分、10分、12分にも立て続けに世界選抜のゴールネットを揺らした。
14分には工藤がペナルティエリアの外から放ったロングシュートが決まって7-0。さらに、終盤の18分、19分、20分に菊島が連続得点して“トリプルハットトリック”の離れ業を達成、大勝に華を添えた。
工藤綾乃選手(左)はこの後、ディフェンスを振り切ってロングシュートを放ち、自身代表初ゴールを決めた (撮影:星野恭子)
菊島は、「3点取りたいと思っていたが、(9点)取れてしまった。カタリナさんとは2017年のオーストリアでやった時は当たられて転んでしまったが、今回は踏ん張れた」と、自身の成長への手ごたえを笑顔で語った。
菊島選手は都内の盲学校に通う16歳。「代表の10番は本当にプレーがうまくて、得点してチームを引っ張らなければいけないと思っている。今より、もっとうまくなりたい」
また、村上重雄女子代表監督は、「菊島が点は取ってくれるとは思っていたが、こんなに(点差が)開くとは予想しなかった。タイムアウトで、『菊島以外の選手もいるんだぞとアピールしよう』と話し、その後に工藤が(点を)取ってくれたのもうれしかった」と強化の成果を話した。
なお、ブラインドサッカーの女子選手はまだ世界的にも少なく、2017年5月に初めてIBSAが女子だけのトレーニングキャンプと試合をオーストラリア・ウィーンで実施したが、単独でチームを編成できる国はほとんどない。日本ではクラブチームで男子に混ざってプレーする女子の中から、同年4月に代表チームを初結成し、定期的に合宿を実施して強化してきた。今大会でも、ボールに寄せる速さやパスによる連係など練習の成果を垣間見せた。
視覚を遮断して行うブラインドサッカーでは「音声」が頼りであるため、わずか2日間の合同練習だけで「多国籍軍」として編成された世界選抜チームには連係面で少し不利な状況にはあったが、MIP獲得のクーンラインなど体格もよく個人技の高い選手も見られた。
多国籍軍を主将として率い、高い個人技で日本のゴールを脅かした、カタリナ・クーンライン(ドイツ)がMIPを受賞 (撮影:星野恭子)
パラリンピックや世界選手権は男子のみが対象であり、今後も女子の国際大会の実施は未定となっているが、ポテンシャルの高さも示した今大会。今後の発展に期待したい。
■2月16日(土)~17日(日)
【スノーボード】 第5回全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ @白馬乗鞍温泉スキー場 (長野県北安曇郡小谷村)
障害のある選手のレースと、サポートする健常の選手のレースを同時開催することで、互いの親睦や交流を図ることも目的にした大会。クラス別の優勝者は下記の通り。
上肢障害男子: 大岩根正隆
下腿障害女子: 小林はま江
下腿障害男子: 市川貴仁
大腿障害男子: 小須田潤太
健常者一般女子: 森 恵美
健常者一般男子: 阪 勇斗
(参考:日本障害者スキー連盟)
■2月15日(金)~17日(日)
【車いすバスケットボール】 2019国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会 @大阪市中央体育館
車いすバスケットボールの普及と日本女子代表の強化などを目的に、長く開催されている国際親善大会で、今年は2018年世界選手権1位のオランダ、同2位のイギリスに、日本とはアジア・パシフィック地域でライバルに当たるオーストラリアが来日。3日間にわたる熱戦の末、日本は最終日の3位決定戦でオーストラリアに72-37で圧勝。また、決勝ではオランダがイギリスを52-37で下し、予選から全勝で優勝した。なお、3日間で12,000人以上が来場し、世界トップレベルのパフォーマンスに声援を送った。
優勝: オランダ/準優勝: イギリス/3位: 日本/4位: オーストラリア
<個人賞>オランダ #15 マリスカ・ベイエル(4.0)
(カッコ内は、選手ごとに障害の内容や程度に応じて与えられた持ち点。障害の重い方から1.0点から4.5点まで8段階に分かれる)
<ベスト5>
オランダ #6 イェッケ・フェサー (1.0)
オーストラリア#6 ハナ・ドッド (1.0)
イギリス#15 ロビン・ラブ (3.5)
日本#12 藤井郁美 (4.0)
イギリス#7 ヘレン・フリーマン (4.0)
<フレンドシップ賞> オランダ ゼネラルマネージャー トワン・クラーク
<2月15日=予選ラウンドの結果>
日本 56 対 43 オーストラリア
オランダ 63 対 44 イギリス
イギリス 60 対 54 日本
オーストラリア 27 対 72 オランダ
<2月16日=準決勝の結果>
オーストラリア 27 対 37 イギリス
日本 54 対 64 オランダ
<2月17日の結果>
オランダ 52 対 37 イギリス
日本 72 対 37 オーストラリア
(参考:日本車いすバスケットボール連盟)
■2月16日
【パラテコンドー】第 12 回全日本テコンドー選手権大会/パラ・キョルギ(組手)の部 @千葉ポートアリーナ
パラテコンドーのキョルギは上肢に障害のある選手を対象とし、2020年東京大会で初めてパラリンピックに正式競技として実施される。ルールは健常者のテコンドーとほぼ同じだが、頭部の攻撃は禁止。また、パンチもポイントにならない。男女とも体重別に3階級と障害の程度により4つのクラスが設定されている。
男子61キロ級を制した伊藤力(左)。豪快な技が観客を魅了 (撮影:星野恭子)
今大会では男子は2階級が行われ、61キロ級決勝は伊藤力が重水浩次を30-11で、61キロ超級は工藤俊介が石原和樹を18-0で下し、それぞれ優勝した。工藤は、2月上旬にトルコで行われた世界選手権の男子75キロ級で銅メダルを獲得している。 男子61キロ超級で優勝した、工藤俊介選手(右) (撮影:星野恭子)
女子は体重無差別で行われ、トルコ世界選手権女子58キロ超級銅メダルの太田渉子が、決勝で杉本江美に58-14で圧勝した。女子で優勝した太田渉子選手(左)。ノルディックスキーから転向し、2020年東京パラリンピックで夏冬パラリンピアンを目指す (撮影:星野恭子)
<男子61キロ級>
優勝: 伊藤 力/準優勝: 重水浩次/3位:田中俊佑、鴨脚知永
<男子+61キロ超>
優勝: 工藤俊介/準優勝: 石原和樹/3位: 阿部正太
<女子(無差別)>
優勝: 太田渉子/準優勝: 杉本江美/3位: 伊藤幸枝
■2月1日~3日
【ゴールボール】 2019ジャパンパラゴールボール競技大会 @千葉ポートアリーナ (千葉市)
<2月の見逃せない一戦!>にもピックアップした今大会。日本女子代表(世界ランキング4位*)の強化を目的に、今年はブラジル(同1位)、トルコ(同2位)、アメリカ(同6位)による4カ国対抗で行われ、予選ラウンドを経て決勝戦に駒を進めた日本だったが、世界屈指の攻撃力を誇るトルコに0-3と完封負けを喫した。(*2018年12月現在)ゴールボールの女子の強豪国が集まり、開催された2019ジャパンパラゴールボール競技大会 (撮影:星野恭子)
トルコの長身エース、セブダ・アルトノロクに3得点されたが、スコアが動いたのは前半6分まで。残り18分は両チーム互いに譲らず、緊迫感あふれる攻防が繰り広げられた。今大会全7試合で33点を挙げたトルコのエース、セブダ・アルトノロク選手。世界ナンバーワン選手の呼び声も高い (撮影:星野恭子)
市川喬一ヘッドコーチ(HC)は、今回来日した4カ国と、2018年世界選手権優勝のロシアを加えた5カ国が、東京パラリンピックの有力なメダル候補とみていると言う。そのうち4カ国が集った今大会で、「準優勝に終わったのは残念だが、一定の手ごたえもあった。2020年に立派なメダルがかけられるよう、もう一度チームを立て直したい」と大会を振り返った。日本はセンター浦田理恵(左)を中心に世界の猛攻に耐え、準優勝。奥は、チーム最多となる11点を挙げた欠端瑛子
■2月3日(日)
【陸上競技】 第68回別府大分毎日マラソン大会 兼 第19回日本視覚障がい男子マラソン選手権大会 @大分県大分市、別府市内
視覚障害者部門も設定され、日本ブラインドマラソン協会の強化指定選手たちが出走した。男子は日本選手権も兼ねて行われ、リオパラリンピック4位入賞の堀越信司が自己新となる2時間26分28秒で初優勝を飾った。
この記録は後日、国際パラリンピック委員会(IPC)より、T12クラス(重度弱視)のアジア新記録にも認定された。ただし、T12の日本記録は、岡村正広が2011年に福岡国際マラソンでマークした2時間24分42秒(同大会がIPCの公認大会ではなかったため)。岡村はリオ大会銅メダリスト。
女子は、リオ銀メダルの道下美里が3時間7分34秒で制した。なお、完走した全選手の結果は以下の通り。[カッコ]内は伴走者。T11(全盲)は必ず伴走者をつけなければならず、T12は選手が選択でき、単独で走る選手もいる。
<男子>
1位 堀越信司(T12) 2:26:28(アジア新、自己新) NTT西日本
2位 熊谷豊(T12) 2:34:47 三井住友海上
3位 山下慎治(T12) 2:43:30(自己新) シーズアスリート [伴走前半:浦川和幸/後半:坂梨史典]
4位 唐澤剣也(T11) 2:52:36 (自己新) 群馬社福事業団 [伴走前半:茂木洋晃/後半:阿部有希]
5位 米岡聡(T11) 2:52:56 三井住友海上 [前半:後藤壱/後半:宗形淳史]
6位 福永智洋(T11) 3:24:57 長居わーわーず [前半:久一清志/後半:服部努]
<女子>
1位 道下美里(T12) 3:07:34 三井住友海上 [前半:青山由佳/後半:河口恵]
2位 近藤寛子(T12) 3:15:29 滋賀銀行 [前半:金子太郎/後半:川嶋久一] 自己新
3位 西島美保子(T12) 3:15:42 JBMA [前半:溝渕学/後半:鍵修一]
4位 青木洋子(T12) 3:17:19 NTTクラルティ [高田裕之]
5位 藤井由美子(T12) 3:18:18 びわこタイマーズ [前半:上島学/後半:武田浩志]
6位 西村千香(T12) 3:23:00 岸和田健康クラブ [前半:住谷卓也/後半:庄司彰義]
7位 井内菜津美(T11) 3:27:26 わかさ生活 [前半:鈴木洋平/後半:吉川晋治]
(参考:日本ブラインドマラソン協会)
■2月2日(土)~3日(日)
【パワーリフティング】 第29回全日本パラ・パワーリフティング 国際招待選手権大会 @日本工学院八王子専門学校 片柳記念ホール (東京都八王子市)
下半身に障害のある選手が台上に仰向けに寝て、上半身の力だけでバーベルを挙げて競うパラ・パワーリフティング。今大会は男女体重別の日本一決定戦でるとともに、東京2020大会出場への必須用件である2019世界選手権(7月/カザフスタン)への代表選考会も兼ねて行われた。
海外選手(ラオス、ベトナム、韓国)も含め、約50選手がそれぞれの目標に挑戦し、107㎏級の中辻克仁選手が日本選手初となる200㎏をクリアするなど、全10個の日本新記録が誕生した。男子は80㎏級で176㎏を挙上して優勝した、宇城元(ウジロ・ハジメ)選手、女子は45㎏級で57㎏をクリアして1位となった小林浩美選手がそれぞれ優秀選手賞を獲得した。
▼試合結果 (PDF)
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(参考:日本パラ・パワーリフティング連盟)
(取材・文:星野恭子)