ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

異議あり! 新国立競技場―2020年オリンピックを市民の手に

『異議あり! 新国立競技場―2020年オリンピックを市民の手に』

編者:森まゆみ

出版社:岩波書店

価格:¥562

 

 

 副題に「2020年オリンピックを市民の手に」とある。市民が気付かないうちに、市民の声、ニーズをくみ取らず進む新国立競技場建設に異議を唱えている建築家らの論議集。4人の建築家と弁護士、作家が指摘しているのは、まったく変貌してしまう神宮外苑の景観や不透明なデザインコンペのプロセス、失われる防災上の都市機能、莫大な費用など表面上の疑問点だけではない。山本想太郎氏(建築家)は、この問題は建築という「専門性」に対し「総合性」を担うべき政治、その主体である市民が「専門性」の理解を放棄してしまった近代文明の結果だと述べている。また、都市計画と個々の建築の関係性の希薄さ、本来、クライアントとしての市民が自覚と責任を持たなければならないこと、都市計画に対し実質、裁判では争えない日本の司法制度など、建築、都市計画を中心に、この新国立建設の奥に潜む社会的、政治的問題点をも指摘している。もう一つくみ取られていないことは新国立競技場が建つ土地の歴史。神宮外苑は明治天皇の大喪の礼が行われた場所であり、そのためシンボルである聖徳記念絵画館を中心とする景観、環境を損なわないよう競技場や野球場は外側に配置された。その後、二度のオリンピック開催計画(1940年(返上)、1964年)の競技場改修においても、外苑の風致を害すべきではないという議論が起こっていたという。スポーツそのものもそうだが、歴史的文脈を無視した競技場が市民にどれだけの恩恵を与えるのか、またどれだけの弊害をもたらすのか、もう一度考えるべきだろう。
 本書は62頁の薄い本ではあるが、この新国立問題をあぶり出すには十分な内容である。建築家としてはじめに問題提起をした槇文彦氏編集の「新国立競技場、何が問題かーオリンピックの17日間と神宮の杜の100年」も合わせて読みたい。

 

『2020東京五輪成功のために!新国立競技場神宮外苑建設は今すぐ見直すべきでは!?』(玉木正之)
『新国立競技場は本当に出来るのか?建設の責任者は誰?』(玉木正之)参照