ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

2020東京五輪成功のために!新国立競技場神宮外苑建設は今すぐ見直すべきでは!?(玉木正之)

 3月18日発売の『新潮45』4月号に掲載された森山高至氏(建築家・建築エコノミスト)の『「新国立競技場」に断固反対する』という記事を読んで驚いた。

 この記事を読むまで、私はコンペで選ばれたザハ・ハディド氏のデザインした新国立競技場に、大賛成していた(ザハ・ハディド氏は現在63歳。イギリスを拠点に活動する現在売れっ子のイラク人女性建築家)。

 ハディド氏のデザインは常に人目を引く奇抜なことで有名で、新国立競技場も、大きすぎるとか、神宮の森の周囲の景観に合わないとか、建設費がかかりすぎるとか、五輪後の使用の目処が立たない……等々、建築家の槇文彦氏をはじめ、反対意見は少なくなかった。が、どうせ新しい建物を建設するなら、巨大なUFOが舞い降りたような設計は未来への希望の象徴のようでもあり、これくらい斬新なパワーにあふれているほうが面白い、と私は思っていた。

 現在の競技場も創建当初は7万1715人の観客収容数で、8万人収容の新国立は決して大きくない。また、サッカー、ラグビーの試合やコンサートだけでなく、スポーツをいつでも誰でも楽しめ、ディズニーランドに並ぶほどのスポーツ・アミューズメントパークを作れば、五輪後の経営的維持管理もできるはず、とも思っていた。

 ところが森山氏のレポートによると、この建築物は《陸上に建設しようとする巨大な橋梁》であり、建築物の部材の運送、現地での吊り上げ、敷地の周辺の余地、交通網や周辺への影響……等、問題が山積みなのだ。

 しかもこの設計コンペはデザインだけのコンペで、本格的な設計図はこれから作成されるという(その設計図は今年3月中に完成され、発表されるはずだったが、まだ完成していないらしく、発表されてない。おまけにこれほど巨大な建築物にもかかわらず、審査時には模型もなく、デザイン画だけで審査されたという)。

 予算の関係で既にデザインが一部見直され、規模が縮小され、その結果ハディド氏の狙い(私が面白いと思った点)は、既にかなり消えてしまったらしい(だったら、中途半端な建築物が出来るだけで、意味ないじゃん!)。

 おまけにハディド氏のデザインが選ばれた理由や審査経過は、なぜか一切公表が拒否されているのだ。審査委員長の安藤忠雄氏も、この審査の件に関して一切の取材を拒否している。

 外苑の緑を伐採し、日本青年館も取り壊し、現在の国立競技場の照明灯の最上部よりも20メートル以上高い屋根が東京ドームの約3個分の大きさで出来る(だから、私がカッコイイと思ったデザインも、ヘリコプターで空に飛んで見ないとわからない!)。その屋根の下には戦艦大和もクイーンエリザベス3世号もスッポリと収まるという巨大建築は、おそらくオリンピックが済んだあと、サッカー、ラグビー、コンサート等に利用されることもほとんどないだろう(だから私は、スポーツ総合アミューズメントパークにするほかないと思ったのだが……)。


 サッカー・ジャーナリストの後藤健生氏は、航空機=空母が主役の第二次大戦中に戦艦大和を作った「大艦巨砲主義」と同じだと言う。要するに、いま「日本」は、とんでもないナンセンスな事業に莫大な国費をつぎ込もうとしているのだ。

 はたして新国立競技場は、本当に建設できるのか? どう考えても、森山氏が書いたように、現在の競技場を改修維持する事が得策で、2020年のオリンピック・パラリンピックのためにも、日本のスポーツのためにも、東京という都市のためにも、神宮外苑という公園のためにもイイコトのように思えるのだが……。

 あるいは、ザハ・ハディドのデザインによる巨大建築物は、東大教授で柔道部長の松原隆一郎氏が4月11日の東京新聞夕刊に書かれたように、神宮外苑でなく湾岸地域へ移して建設したほうがいいのではないか……。

 にもかかわらず、最近になって国の重要文化財である神宮外苑絵画館前の銀杏並木を潰し、仮設のサブトラックの建設計画が発表されたり(新国立競技場には、サブトラックがないのだ! それでも陸上競技施設と言えるのか?)……、7月には現国立競技場の解体工事が始まるとか……(現国立競技場の再利用計画があるというのに!)。

 しかも新国立競技場建設の「推進者」が誰かも判然としないまま……。これは、エライコトですよ……ということに、今頃気づいた小生も情けない気持ちでいっぱいですが、ここは勇気を持って、関係者は、ザハ・ハディド案を見直す決定を下すべきではないだろうか。

追記
 IOC(国際オリンピック委員会)は2年に1度「スポーツと環境世界会議」を開催し、「オリンピック・ムーヴメンツ・アジェンダ21」を採択。それによるとオリンピックの施設は「既存の競技施設を最大限活用」し、「地域状況に調和して溶け込むように建築、改装されるべき」で、「まわりの自然や景観を損なうことなく設計されねばならない」とある。
 ザハ・ハディドがデザインした競技場を神宮外苑に建設することが、このIOCのアジェンダにそぐわないことは明白と言えるだろう。

追記
 新国立競技場問題を考えるうえでの推薦図書:森まゆみ編『異議あり!新国立競技場 2020年オリンピックを市民の手に』岩波ブックレット/槇文彦・大野秀敏編著『新国立競技場、何が問題か・オリンピックの17日間と神宮の杜の100年』平凡社

追記
 5月12日(月)に千駄ヶ谷・津田ホールで『新国立競技場のもう1つの可能性』というシンポジウムが行われます。パネラーは、中沢新一(人類学者)、伊東豊雄(建築家)、森山高至(建築エコノミスト)、松隈洋(建築史家)の各氏です。http://2020-tokyo.sakura.ne.jp/shinkokuritsu.html

(毎日新聞「時評点描」+Camerata di Tamakiナンヤラカンヤラ+NBSオリジナル)