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「7イニング制野球」の「五輪正式競技復活」はなくなったのか?!(玉木正之)

 日本のプロ野球界(コミッショナー&事務局)は、いったいどういう神経をしているのか!?……と言いたくなる事態が、またまた勃発した。今シーズン使われている公認統一球が、規定以上の反発力を示した、というのだ。しかも、コミッショナー事務局長が、その発表の記者会見を、公式戦の行われている真っ最中の4月10日午後7時から行ったとは……。

 そもそも今シーズンも「ボールが飛ぶ」ことくらい、試合を見ていれば誰にでもわかる事実であり、何を今更……である。いや、飛ぶボールだけではない。プロ野球界だけでなく、アマ球界もふくめて、日本の野球界は野球というスポーツのことを、まったく真剣に考えていないのではないか……というほかない事態まで起きている。

 それは、他でもない。野球とソフトボールのオリンピック正式競技復活に関する話題だ。2020年の東京五輪開催をきっかけに、野球とソフトボールがオリンピックの正式競技として復活する可能性は、大きく高まっていたはずだった。いや、今もその可能性は大いに高いはずだ。

 昨年11月、国際オリンピック委員会(IOC)の新委員長に就任したトーマス・バッハ氏は、日本を訪れ、「オリンピックは開催国の文化や社会を反映するべきだ」と発言。野球とソフトボールの人気が高い日本社会への理解を示し、「28競技」と定められている五輪の競技数についても「参加選手の総数さえ増えなければ、競技数は増えてもかまわない」と明言した。

 さらに、実施競技は開催の7年前(東京五輪の場合は2013年)に決定というルールも「IOC委員の同意で変更が可能」とまで断言したバッハ委員長は、「ソチ冬季五輪でのIOC総会で議題に取りあげたい」と断言。

 ソチで記者会見を開いたバッハ会長は、<五輪での実施競技を7年前までに決めると定めた五輪憲章の条文について、「私は変えたいと思っている。IOC、組織委員会、国際競技連盟が同意し、準備に支障が出なければ、変えられない理由はない」と話した。2020年東京五輪で野球、ソフトボールが復活するためには、五輪憲章のこの条文が障害となっており、バッハ会長はこれまでも変更に柔軟な姿勢を見せていたが、さらに踏み込んだ格好だ>(朝日新聞デジタルより)と報道もされた。

 もっとも、この話題はソチのIOC総会で議題に取りあげられることもなく、どうも芳しい進展は見なかったようだ。が、<実施競技の選定など五輪改革を進める臨時総会はことし12月に開催予定>(MSN産経ニュース)で、IOC会長が(たとえそれが、日本の野球人気に便乗した放送権料の引き上げを狙うモノだとしても)やる気満々なのだから、まだまだ野球とソフトボールの五輪正式競技復活は、可能性がある(大きい)はずだ。


 昨年(2013年)には、国際野球連盟(IBAF=International Baseball Federation)と国際ソフトボール連盟(ISF=International Softball Federatin)が合体して世界野球ソフトボール連盟(WBSC=World Baseball Softball Confederation) を発足させ、オリンピック正式競技化への意欲と受け入れ態勢は、十分整えているのだ。

 が、それに対して、日本のプロ野球やアマチュア野球の運動(マスメディアの動き)は、まったく冷たいもの、と言うほかない。

 そもそも野球が五輪の正式競技となったのは1992年のバルセルナ大会。当時はすべての競技でアマチュア選手が中心だったが、やがてプロ化が進み、IOCもアメリカ・メジャーリーグ(MLB)に対して選手の出場を要請するようになった(世界最高レベルの人気選手の出場で、放送権料の値上げを期待した?)。

 しかしMLBは、ペナントレースの佳境で有力選手を1か月近くもナショナル・チームに奪われることを拒否し、アメリカは、マイナーや学生の選手がチームを結成し、五輪に出場。これでは野球人気の低いヨーロッパ・西アジア・アフリカ諸国の注目を喚起するまでには至らず(放映権料の値上げも期待できず)、08年北京大会を最後に正式競技から外された。

 そして20年東京五輪開催が決定したブエノスアイレスでのIOC総会で、野球とソフトボールは、最後の1競技を決める得票争いを演じ、レスリングに敗れたことは今も多くの人々の記憶に新しい(このときプロ野球の加藤コミッショナー=当時は、野球の五輪正式競技化を応援するため、ブエノスアイレス入りしていたが、どこまで本気だったか……?)。

 ただ、このとき敗れたとはいえ、野球とソフトボールは五輪正式競技復活のために、様々な「改革案」を提示した。

 IOCは男女間に差別の存在することを徹底的に排除しているため、先に書いたように、野球とソフトボールが一緒になった国際団体WBSC(World Baseball Softball Confederation 世界野球ソフトボール連盟)を立ちあげ、フィールドの呼び名(ダイヤモンド)から、両者を「ダイヤモンド・スポーツ」という統一名称を採用。男女が参加する1種類のスポーツとして扱うことを宣言した。

 さらに準決勝と決勝戦にはメジャー選手も出場することを約束し、試合時間短縮のため、野球の7イニング制導入の積極的検討を約束した。この「野球7イニング制」の導入は、大いに注目すべきだろう。


 1960年代(前の東京五輪の頃)の野球は、平均試合時間が約2時間半。2時間以内に終わる試合も珍しくなかった。が、最近のプロ野球は3時間を超えるのが当たり前。2013年の平均時間は3時間22分。

 この長さが現代の娯楽として適切かどうか。1854年、野球のルールが整えられたときは21点を先に取ったチームが勝ちで、100イニングを超えて2日に渡る試合もあった。それが(12進法に従って)1試合12イニングと短くなり、1857年には今日と同じ9イニングとなった。

 以来、このルールは、150年間変わっていない。

 すべてがスピードアップする時代に、野球もオリンピックをきっかけに、スピードアップに転じるのか? それともスピードアップの世知辛い時代だからこそ、野球だけはのんびりと長々と楽しむほうがいいのか? 

 採用・不採用はともかく、これは、日本のプロ野球もアマチュア野球も検討に値する「ルール変更」と言えるはずで、五輪正式競技復活キャンペーンとともに、メディアは、野球ファンを巻き込んで、大いに討論を開始すべきだろう。

 が、そんな動きは、まったく見られない。早い話が、日本の野球界は、プロもアマも、そもそも「オリンピック正式競技復活」を望んでないのだろう。

 また、オリンピックとパラリンピックの間に開催される甲子園大会を主催する朝日新聞も、オリンピックに野球の話題を奪われるのを嫌ううえ、野球が、ユース・オリンピック(18歳以下の選手によるオリンピック大会)の正式競技に選ばれる道が開かれる(夏の甲子園とユース五輪はスケジュールが重なる)のを危惧しているのかも知れない。

 それらは、小生の憶測ではあるが、メディアが野球のステークホルダー(利害関係者)として、真っ当な意見を述べられない(と思われる)事態が存在していることこそ異常事態と言うべきだろう。

 読売も朝日も、それに毎日も産経も日経も、それに系列のテレビ局も、日本のメディアはすべて、今年12月までに野球とソフトボールのオリンピック正式競技復活に賛成なんか反対なのか、はっきりと意思表示を示し、賛成ならば世論を喚起してバッハ会長を後押しし、IOCを動かすべくキャンペーンを開始するべきだろう。

 曖昧な態度で賛成のふりはするが本音では反対……というのでは、女子ソフトボールの選手たちが可哀想だ。

(YANASE LIFE PPESIR +Camerata di Tamaki ナンヤラカンヤラ + NBSオリジナル)