誰も書かないマスターズの勝因(小林一人)
2014年のマスターズはバッバ・ワトソンの勝利で幕を閉じたが、これでレフティの勝利はこの10年で4回。2003年にマイク・ウィアーがレフティ史上初の優勝を果たしてからだと過去12年で6勝を挙げたことになる。夢の舞台オーガスタナショナルはレフティに有利なことがはっきりしているわけだが、その理由はというと、左に曲がる球に有利なレイアウトであることに加え、最近のクラブのつかまりがすこぶる良いという事実がある。
もともとオーガスタは右打ちのドローボールが有利だとされていたが、それはつかまりの良くない昔の道具での話。イマドキのギアでドローを完璧にコントロールするのは、世界のトップ選手にとってもやさしいことではないのだ。カットイメージで打って、ひっかけを防ぎながらプレーするのがモダンゴルフのスタイル。つまり、右へのリスクなしにフェードを打つことはたやすいが、左へのリスクなしにドローを打つことは難しいのである。その点レフティなら、左へのリスクなしにフェードで攻められるので、オーガスタではスコアを作りやすいというわけである。
2番、9番、10番、14番など、左に曲がるボールで距離を稼ぎたいホールがオーガスタには多いが、ワトソンは随所でドスライスとも呼ぶべき弾道でフェアウエイをキャッチし、バーディやイーグルを奪って見せたのである。この攻め方はワトソンがただの飛ばし屋だったからできたわけではなく、「レフティの飛ばし屋」だったからこそ可能だったといえよう。
さて、ワトソンのもう1つの勝因は「ピン使い」だということだが、これはあまり語られていない。「ピン使い」とは業界用語で「PING社のクラブ契約選手」という意味なのだが、マスターズでは最近、ピン契約選手の強さが目立つのである。2009年のチャンピオンで、昨年アダム・スコットにプレーオフで敗れたアンヘル・カブレラも「ピン使い」なら、ワトソンが初めてグリーンジャケットに袖を通した一昨年も、2位ルイ・ウーストハイゼン、3位タイ、リー・ウエストウッドとピン社契約選手が上位を占めたのである。今年のリーダーボードを見ても、単独3位に入ったベテランのミゲル・アンヘル・ヒメネスもピン使いだし、ウエストウッドもベストテン入りしているなど、やはりピンのクラブはオーガスタでしっかりと結果を残しているといえそうだ。
ピン社の契約プロに聞いた話だと、最近のめざましいゴルフギアのイノベーションにあって、ピン社は重心設計を変えていないところが、安定した成績を残せる要因だという。どういうことかというと、ここにきて、ウッドクラブの重心をフェース面に近づけた浅重心化が一気に進んだが、ピン社はそのトレンドに乗らなかったということだ。重心をフェースに近づけるとバックスピン量が減り、打ち出し角度を確保できれば劇的な飛びが期待できるが、その反面で、重心設計の変更はそのクラブに慣れるまでの時間が必要になってくる。つまり浅重心化に舵を切ったメーカーのクラブを使う選手が、スイングとタイミングを微調整しながらニューウェポンの慣らし運転をしている間に、ピン使いたちは以前と変わらぬスタイルで戦い結果を残している、という仮説も成り立つわけだ。
ドライバーとマシンが揃わないと勝てないモータースポーツと同様、ゴルフもギアの占める割合が非常に多いのが現実だ。力のある選手が質の高い道具を使ってこそ結果を残せるのであり、コースが難しいほどその傾向は顕著になるといっていいだろう。力が均衡している現在においては、「どこのメーカーのクラブを使うか」は選手にとって死活問題であり、単純に契約金の額だけでは決められない。目先のカネに目がくらんで1~2シーズンを棒に振ることがままあるのがプロゴルフの世界なのだ。
ゴルフメディアは主にメーカーの広告費で成り立っているので、ギアのパフォーマンスについての突っ込んだ記事は書けないという事情はあるが、どのメーカーのクラブがイケているかをトーナメントの結果から読み解くのは楽しいし、業界の活性化につながると思うのは私だけだろうか。
※内容に一部誤りがありました。訂正してお詫びいたします。