星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(27)4.5~4.11
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトした「パラスポーツ・ピックアップ」シリーズ。今年は多くの競技で世界選手権が行われます。2016年のリオ・パラリンピック出場への第一歩となる大会も多く、海外選手の動向も含め、注目の大会が目白押しです。日本選手の活躍にも期待です。
■陸上競技
・11日: 13日に開催されるロンドンマラソンに出場する視覚障害女子の部日本代表4選手と伴走者らが、羽田空港からロンドンに向けて出発した。同大会は昨年から視覚障害者マラソンのワールドカップも兼ねるようになっており、昨年度の世界ランク上位に名を連ねた日本女子選手が初めて招待された。初めて日の丸をつけての国際大会出場となる4選手は、同様に招待されたスペインとアメリカの選手をまじえた6人で女王の座を争うことになる。
T12(弱視)クラスの日本記録保持者(3時間6分32秒)であり、同クラスの昨年度世界ランク1位の道下美里(37)選手は、「ロンドンでは今まで練習してきたことを出すだけなので、意外とリラックスした気持ち。誰かと競いあうレースの経験はこれまでほとんどないので、(外国選手が参加する)今大会はいい経験になると思う。次につながるレースがしたい」と抱負を語った。
同じくT12クラスで、自己ベスト3時間11分台の西島美保子(58)選手は、「(日本代表という)プレッシャーはあるが、今大会に向けて故障なく練習ができたので、3時間15分は切りたい」と意気込みを語り、同3時間28分台の藤井由美子選手(49)は「海外マラソンどころか、海外旅行も初めてで、招待されたと知った時は、『なんで私が!?』と驚いた。きっと日本とはレース環境なども違うと思うが、いつものように自分のペースを守って最後まで崩れないように走りたい」と話した。
ただ一人T11(全盲)クラスの代表、金野由美子選手(52)は、「最近、あまり調子がよくないが、せっかくいただいたチャンスは大事にしたいので、今できる限り精一杯で走り、自己ベスト(3時間18分台)に少しでも近づけるようがんばりたい」と目標を掲げた。
実は、女子の視覚障害者マラソンはパラリンピックではこれまで実施されたことはない。2016年のブラジル・リオデジャネイロ大会では実施候補種目にはなっているが、パラリンピックの陸上競技では「種目ごとに3カ国6名以上の参加者」という条件が満たされないと種目不成立のルールがある。今回のロンドンマラソンの視覚障害者女子の部の参加者は3カ国6名のみで、そのうち4名が日本選手。競技人口が極めて少ないのが現状だ。
そんななか、日本盲人マラソン協会(JBMA)では昨年度から男子に加えて女子にも強化選手制度を立ち上げ、いち早く強化に着手している。今回ロンドンに派遣される4選手もみな強化指定選手だ。JBMAの安田享平強化担当理事は、「今回の招待は願ってもない朗報。チームジャパンとしては上位独占を目標に、(女子の視覚障害ランナーという)存在を世界にアピールできることを期待している」と意気込む。
また、JBMAの泉富夫事務局長も、「合宿を重ねるごとに強化選手の意識に変化が感じられた。それが招待につながったと思う。ロンドンのレースは視覚障害者の女子マラソンの門戸を開くきっかけになると思う。さらに海外の選手にも刺激となり、リオデジャネイロ・パラリンピックでの実施、そして(2020年)東京へとつながることを目指して、選手にはベストな走りをしてほしい」と期待を寄せた。
なお、ロンドンマラソンは男女エリート部門や市民の部のほか、車椅子マラソンの部もあり、今年2月の東京マラソンで優勝した山本浩之選手と土田和歌子選手などもエントリーしている。
[caption id="attachment_20300" align="alignnone" width="620"]ロンドンマラソン女子視覚障害の部日本代表選手団:前列左から、伴走者の堀内規孝さん、樋口敬洋さんと道下美里選手、JBMA事務局の木之下仁さん、後列左から、伴走者の松浦幸雄さんと金野由美子選手、伴走者の溝渕学さんと西島美保子選手、藤井由美子選手と伴走者の大八木和佳子さん[/caption]
■パラ・サイクリング
・10日: トラック世界選手権がメキシコ・アグアスカリエンテスで開幕した。28カ国から約120選手がエントリーしており、日本からも北京パラリンピックのメダリスト、石井雅史ら4選手が出場する。初日に行われたタンデム女子B(視覚障害)(⇒註)の3キロパシュートで鹿沼由理恵と田中まい(パイロット)組が日本新記録となる3分30秒998をマークし、銅メダルを獲得した。大会は13日までで、29種目が行われる。
(⇒註)タンデム: 2人乗り自転車のことで、前席にはパイロット呼ばれる晴眼の選手が乗り、後席にはストーカー(機関車の「火手=石炭を燃やす役割の人」の意)と呼ばれる視覚障害選手が乗り、互いに助け合って競技を行う。
■パワーリフティング
・11日: UAEのドバイで5日から行われていた「IPCパワーリフティング世界選手権」が閉幕した。約60カ国から330選手以上が出場し、史上最大規模での開催となった今大会では、男女とも世界新記録が続出。ハイレベルな戦いが繰り広げられた。日本からは8選手が出場し、男子80キロ級の宇城元が182キロで7位に入賞したのが最高位だった。
(カンパラプレス配信+NBSオリジナル)
(写真撮影:星野恭子)