新国立競技場は本当に出来るのか?建設の責任者は誰?(玉木正之)
今月18日発売の『新潮45』4月号に掲載された森山高至氏(建築家・建築エコノミスト)のレポート『「新国立競技場」に断固反対する』を読んで驚いた。
2019年に日本で開催されるラグビー・ワールドカップと2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、現在の国立競技場は役割を終えて取り壊され、新たに「新国立競技場」が建設されることは、多くの人が御存知だろう。
そして、その新国立競技場の「設計デザイン」が、コンペによって選ばれ、選ばれた設計者がイラク人女性でイギリスを拠点に活躍している建築家のザハ・ハディド氏(63歳)であるとは知らなくても、巨大なUFOが空から舞い降りたような形状のデザインは、多くの人々の目に焼き付いていることと思う。
『新潮45』の森山氏のレポートを読むまで、私はハディド氏のデザインした新国立競技場に大賛成していた。
大きすぎるとか、神宮の森の周囲の景観に合わないとか、建設費がかかりすぎるとか、五輪後の使用の目処が立たない……等々、反対意見は少なくなかったが、どうせ新しい建物を建設するなら、「巨大なUFO」のような設計は未来への希望の象徴のようでもあり、これくらい斬新なパワーにあふれているほうが面白い、と私は思っていた。
現在の競技場も、建設当初は7万1715人の観客収容数で、8万人収容の新国立はけっして大きくない。また、サッカー、ラグビーの試合やコンサートだけでなく、スポーツをいつでも誰でも楽しめる施設が観客席の下や広い遊歩道に作られ、ディズニーランドに並ぶほどのアミューズメントパークとなれば、経営的にも維持運営管理ができるはず、と考えていた。
ところが森山氏のレポートによると、この建築物は《陸上に建設しようとする巨大な橋梁》であり、建築物の部材の運送、現地での吊り上げ、そのための敷地の周辺の余地、交通網や周辺への影響……等々、問題が山積みで、そもそもハディド氏のデザイン通りに造れるか、大いに疑問だという。
しかもこの設計コンペはデザインだけのコンペで、本格的な設計図はこれから作成されるという。予算の関係で既にデザインが一部見直され、規模が縮小され、その結果ハディド氏の狙い(私が面白いと思った点)も、既に消えてしまったともいう。
おまけにハディド氏のデザインが選ばれた理由や審査経過は、なぜか一切公表が拒否されているのだ(審査委員長の安藤忠雄氏は、何故か、この件についての取材を一切拒否。コンペの主催者であるJSC=日本スポーツ振興センターは、《審査の過程を公表しないとし、その理由を「公表すると、、今後の意志決定の中立性が損なわれる可能性がある》というまったく《不可解な》発言をしている)。
このコンペそのものにも森山氏は、多くの疑義を書き連ねている。
たとえば……審査員の人選や審査方法(海外の審査員である建築界の大御所、ロジャース、フォスター両氏が《実際の審査会に出席していない》)、そして審査基準(設計ではなくデザインのみを選び、選ばれた《案を実施者の方で自由に変更していくことを可とする条件を付帯させている》ことは《現在世界中で標準化されつつある公共案件におけるコンペ制度そのものに相反する》)、さらにコンペへの応募資格(《世界でも十数名と非常に限られる》)……などなど。
建築について門外漢の小生には、詳しいことはわからない(ひょっとして、東京オリンピック・パラリンピック招致のために、イギリスとイラクのIOC委員の票がほしかったのか……とも邪推してしまうが)。
それ以上に、はたして新国立競技場は、本当に建設できるのか? ……ということが心配になる。
新国立競技場の建設は、オリンピック・パラリンピック組織委員会(森喜朗会長)のどの部署が担当するのか、あるいはJSCが担当するのか知らないが、今は、新国立競技場の建設のための設計図を、早く仕上げてほしいものだ。
あるいは、その設計建設は根本的に無理で、その場合、森山氏が書いているように、現在の競技場を改修維持する事が得策なのだろうか?
いずれにしろ、昔からの日本的な「責任者が見えない」やり方で、物事が進行しているということか……。
(毎日新聞2/22「時評点描」 + NBSオリジナル)