星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(24) 3.5~3.10
今回は冬季パラリンピックが行われている現地ソチからのレポートです。
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトした「パラスポーツ・ピックアップ」シリーズ。ロシアによるウクライナ問題などで揺れた、ソチ冬季パラリンピックも無事開幕。日本選手団(全20選手)は競技初日から金を含むメダルラッシュ。ソチ大会全体としても盛り上がりを見せています。
【ソチ・パラリンピック】
6日: ソチ冬季パラリンピック開幕に向けて、各地で聖火リレーが行われ、パラリンピアンの佐藤真海さんがランナーとして参加した。アルペンスキーとノルディックスキーが行われる山側エリアのメイン会場近くの約300mのコースを走りきり、「すごく楽しかった」と笑顔。また、2020年東京大会招致成功の立役者らしく、「日本でもパラリンピック・ムーブメントをもっと広げて大きくして、(2020年の大会では世界各地から集まる)聖火ランナーや選手たちを歓迎したいと思った」と話した
[caption id="attachment_19738" align="alignnone" width="620"] 聖火ランナーを務める佐藤真海さん[/caption]
7日: 午後1時半過ぎから、ウクライナ・パラリンピック委員会(UPC)は、ロシアによる同国南部クリミア半島への軍事的圧力に抗議するため大会ボイコットも示唆していたが、開会式数時間前に会見を開き、正式に同国代表団の大会参加を表明した。ただし、情勢が悪化した場合は直ちに選手を撤退させる意向も明言した。
ワレリー・スシュケビッチUPC(ウクライナ・パラリンピック委員会)会長は大会参加の理由について「平和への思い」を強調しながら、「31名の選手団はウクライナという国と民族の代表であり、独立国として選手団を派遣したことを忘れないために大会に残ることを決めた。国民のためにいい成績を残したい」と話した。
また、選手を代表して会見に同席したグレゴリー・ボブチンスキー選手は、「インターネットなどを通して多くの国の人からウクライナの平和を応援するメッセージをもらい、本当に感謝する。私たちは平均22歳と若いチームだが、強い気持ちで競技に臨むつもりだ」と力強く話した。
この日午後8時すぎには予定通り、開会式が黒海沿岸の五輪パーク内で開かれ、冬季大会としては最多となる45カ国から約550選手が参加して、第11回冬季パラリンピック・ソチ大会が開幕した。プーチン大統領も見守る中、ロシア語のキリル文字順に選手団の入場行進がスタート。36番目に登場したウクライナは31選手中、たった一人での行進。会見でも「何らかのメッセージを込めたパフォーマンスを考えている」と予告していた通り、ロシアへの無言の抗議を示した形だ。
日本は開催国ロシアの直前、44番目に登場。旗手の太田渉子選手(ノルディックスキー代表)を先頭に20選手中、17名が笑顔で行進した。大会は16日まで、5競技72種目が行われる。
8日: 各競技がスタート、日本勢はメダルラッシュとなった。バイアスロンの男子7.5㎞座位で久保恒造(日立ソリューションズ)が最後まで粘り、日本勢メダル第1号となる銅メダルを獲得した。前回バンクーバー大会で6位と敗れた悔しさがバネになった。「この4年間、1日も欠かすことなくメダル獲得を頭に描いて練習してきた。今日、ようやく叶って感無量。地元ロシアの雰囲気にのみ込まれることなく、自分の理想のレースができた」と振り返り、自身初のパラリンピックのメダル獲得にも、「今日は少しだけ喜ぶが、また気を引き締めて残りのレースに臨みたい」と意気込んだ。
[caption id="attachment_19740" align="alignnone" width="620"] 久保恒造選手銅メダル獲得の表彰式では、日の丸の横に、1位ロシア、2位ウクライナの旗が並んだ。[/caption]
さらに、アルペンスキーの男子滑降座位は荒れた雪面で途中棄権者が続出するなか、狩野亮(マルハン)が金メダルを、鈴木猛史(駿河台大学職員)が銅メダルを獲得した。狩野は前回バンクーバー大会のスーパー大回転でも優勝しており、自身2個目の金メダル獲得となった。
「4年前とちがい、金メダルを目指して練習してきて獲れたことはすごく意味がある。表彰式で『君が代』が流れるなか、日の丸があがるのを見ていたら、『君が代』をもう一度流したい、明日もまた頑張ろうという気持ちになった」
鈴木も前回バンクーバーで大回転の銀メダルを手にしており、2大会連続のメダル獲得。「初日に、苦手な種目でメダルを獲れてホッとしたが、これで満足せず、明日からの種目では銀や金を狙って行きたい」と話した。
9日: アルペンスキーは男女スーパー大回転が行われ、男子座位で狩野亮が金メダル、森井大輝(富士通セミコンダクター)が銀メダルを獲得。狩野は今大会2個目となる金メダル獲得に、「すごく嬉しい。特に大輝さんと表彰台に上がれてよかった」
前日、メダル獲得を期待されながら、荒れたコースに転倒し、途中棄権に終わった森井は、「(転倒の)痛みを今日のレースにぶつけた」と話した。
クロスカントリースキーでは、男子15㎞座位に久保恒造(日立ソリューションズ)が出場したが、14位に終わった。スタート後に、前日に銅メダルを獲得したレースの疲労を強く感じ、後半は次のレースにつながる滑りを心がけたという。
金メダルはロシアのロマン・ペトゥシコフ。前日のレースでも久保に先行し金メダルを獲得。久保とはここ数年、よきライバルとして競ってきた。明後日のバイアスロンが久保との3度目の勝負になる。「久保とはいい友だち。彼はいい選手だが、我々(ロシア選手)もがんばる」と再戦への抱負を語った。
[caption id="attachment_19741" align="alignnone" width="620"] ミックスゾーンでは通訳ボランティアが大活躍。ソチ近く出身のマリアさんは、ロシア語と日本語、英語の3か国語を操る。[/caption]
競技2日目を終えて、日本のメダルは金2、銀1、銅2の計5個となり、メダル獲得ランキングで、ロシア17個(金5、銀7、銅5)、ウクライナ6個(金2、銀1、銅3)につづいて第3位。
IPCはこの日、チケット売り上げ枚数が開幕後から48時間で、28万7千枚に達し、2010年バンクーバーの5万7千枚を大きく上回る伸びを見せていること、大会公式サイト(www.paralympic.org)へのアクセス数も前回の実績を圧倒していることを発表した。同サイトでは大会情報や試合結果などの情報提供のほか、5競技のライブ中継なども視聴できる。
10日: クロスカントリースキーは男女クラシカルが行われ、男子20km立位の新田佳浩(日立ソリューションズ)が4位、同女子15km立位では阿部友里香(岩手県立盛岡南高)が8位に入賞した。33歳で、前回バンクーバーでもクラシカル10kmで金メダルを手にし、今大会でもメダル獲得が期待されていた。「メダル争いに絡めず悔しい。準備もしっかりできて、やってきたことも出せたが、(世界の強豪に比べ)実力不足ということ。まだパラリンピックは終わったわけではない。切り替えて、次は狙っていく」
今大会がパラリンピック初出場の阿部は最初のレースを終え、「自分の力を出し切れたレース。スキーを大きくグライドさせて、大きく滑るという目標を、15㎞の最後までしっかりできた」と達成感溢れる笑顔を見せた。
なお、ウクライナチームがメダルを量産しているが、選手は表彰式で首にかけられたメダルを手で隠すことで、クリミア半島問題に対するロシアへの抗議を示すパフォーマンスを続けている。
■ロシア発
5日: 国際パラリンピック委員会(IPC)はロシア・ソチでIPC理事会を開き、2020年東京パラリンピックで新規に採用される候補競技・種目として、パラ・バドミントンとパラ・テコンドーの2競技に絞ったと発表した。IPCは今年1月下旬、事前に申請されたなかから、同2競技を含む6競技3種目を第一次候補として発表していた。
今後は、同2競技と現在実施されている22競技(陸上競技、アーチェリー、ボッチャ、自転車、乗馬、視覚障害者5人制サッカー、脳性まひ者7人制サッカー、ゴールボール、柔道、パワーリフ ティング、ボート、ヨッ ト、射撃、シッティングバレーボール、水泳、卓球、車椅子バスケットボール、車椅子フェンシング、車椅子ラグビー、車椅子テニスの 20競技と、2016年リオデジャネイロ大会から新採 用になるカヌーとトライアスロンの2競技)と合わせて協議されることになり、正式な実施種目は今年11月に発表される予定。
■候補から外れた4競技
電動車椅子サッカー/3オン3 知的障害者バスケットボール/電動車椅子ホッケー/アンプティサッカー
■同3種目
ヨット競技:一人乗りマルチハル(*1)/ヨット競技:視覚障害者マッチレース(*2)/車椅子バスケットボール(3オン3)
(*1)マルチハル:モノハルと呼ばれる普通の形の船体に対し、双胴のカタマランなど複数の多数のハル(船体)からなるヨットのこと。幅が広いので安定性が高いといった長所がある。
(*2)視覚障害者マッチレース: 視覚障害のある3選手(男女混成で、舵を取るスキッパーは必ず全盲者)と、安全確保のため、大会主催者が指名する晴眼者が同乗するヨットで、1対1で競うレース。
(カンパラプレス配信+NBSオリジナル)
(写真:星野恭子)