アイス・プリンセス
大学でフェミニズムを教える堅物の母親のもと、女手ひとつで育てられた女子高生ケイシー(ミシェル・トラクテンバーグ)は、学校の成績オールA+の物理学オタク。卒業間近のいまの願いは、ハーバード大進学のための奨学金で、何よりそれは母親の望みでもあった。
奨学金審査のために、ケイシーが自由研究のテーマに選んだのは、フィギュアスケート。同世代の少女たちが練習する様子を、ときに邪魔者、ときに変わり者、ときにスパイ扱いされながら、ビデオカメラで撮影。お得意の物理学でジャンプやスピンを解析していく。
だけど、それだけでは、論文にいまひとつインパクトがない。思い立ったケイシーは、初心者クラスのちびっ子スケーターたちに混じって、自分でのフィギュアに挑戦。みずからの身体で理論を実践しようとする。
少しでも論文を良いものにするため、何度も何度もくり返し氷上を滑るうち、ケイシーは鮮やかな2回転ジャンプを成功させてしまう。
いままでは、フィギュアを観ながら「あんな派手なミニのコスチュームをあなたが着たら、私は泣くわよ」と嘆くような母親が敷いたレールの上を、真っ直ぐに歩いてきた。だけど、心に芽生えた「輝きたい」気持ちは、もう抑えきれない。母親の反対を無視して、ケイシーは地区大会のリンクに立った。ところが…。
少女の夢がふんだんに詰まって、すべてがかなう。いかにもディズニー映画といった甘口のファンタジーだが、もっともらしい科学的分析、華やかな舞台の裏で渦巻く嫉妬やエゴ、駆け引きといった、ちょっとしたスパイスが利かせてある。
大会を中継するテレビコメンテーターとして、ブライアン・ボイタノ(1988年カルガリー五輪金メダリスト)と、ミシェル・クワン(98年長野五輪銀、02年ソルトレイクシティ五輪銅メダリスト)が、本人役で登場して「演技の前半で失敗しながら、こんなに見事に立ち直ったのは、92年のオリンピックの伊藤みどり以来だよ!」なんていう、日本のファンの心をくすぐる解説をしてくれる。
2005年3月にアメリカで公開された映画だが、日本では劇場未公開。荒川静香が日本人で初めてフィギュアで金メダルを獲得したトリノ五輪が、その翌年だっただけに、もしも映画の完成があと1年遅かったら、フィギュアブームに乗っかって、日本でも間違いなくヒットしたような気がするのだが…。