どすこい土俵“外”批評:協会No.2九重親方の理事落選は、貴乃花長期政権への第一歩!?(荒井太郎)
前代未聞の事態だ。公益財団法人に移行した日本相撲協会は先月31日、新法人の理事候補を決める選挙で97人の親方衆による投票を実施し、協会ナンバー2の事業部長である九重親方(元横綱千代の富士)が落選した。現役時代は優勝31回、国民栄誉賞にも輝いた大横綱。定員10名に対し11名が立候補したが、わずか5票しか集まらず「不徳の致すところ」と終始、苦渋に満ちた表情を浮かべていた。事業部長の落選は旧法人時代を含めても例がない。
先の初場所では体調不良の北の湖理事長に代わって、初日と千秋楽は協会挨拶を行った九重親方。世間的には現役時代の数々の偉業を背景に、“次期理事長候補”として格好のアピールの場となったはずだったが、協会内の地盤は決して盤石ではなかった。2年前の理事選では7票でギリギリの当選。今回も所属する高砂一門では八角親方(元横綱北勝海)を推す声が大勢を占めて苦戦し、前回の選挙のように時津風一門の協力を仰ぐこともできなかった。
かつての大横綱の敗因について、「周囲への配慮に欠けがちで強引な手法が目立った」、「あからさまな“反北の湖”の姿勢をうかがわせ、理事長の座に意欲を燃やしていた」などと囁かれている。ある元横綱は「現役時代は横綱として立ててくれるけど、あまり度が過ぎると、引退したら『そうはいくか』ってなるのがこの世界なんだ」と語っていた。「横綱」という肩書きも、協会内では必ずしも絶対ではないということだ。“力による支配”が通用するのもどうやら土俵上だけであって、協会運営に関しては一般社会同様、組織論が優先されるようだ。
ところで、当選した理事候補は3月24日の評議員会で正式に選任され、その後の新理事会で職務分担が決定される。新法人における理事長は現理事長の北の湖親方が互選されることが濃厚。事業部長には八角親方、貴乃花親方の名前が取り沙汰されている。理事長へ上り詰めるためには事業部長を何期か経てからというのが既定路線。こうした流れを見ると“ポスト北の湖”は一気に若返ることになりそうだ。
新法人下での理事は規定により、5~7人の外部有識者からなる評議員会からの選任によって決定されることになっている。“外部”と言ってもそのほぼ半数は親方衆が一定期間、協会の職務を離れてその任に就く。すでに評議員に決定している3人の親方衆は、いずれも“親北の湖”ともいうべき陣営。つまり停年まであと6年余となる九重親方の理事長の芽は、完全に絶たれたと言っていい。今後は途中で“ショートリリーフ”を挟むかどうかは別にして、いずれは年齢的にもまだ若い貴乃花親方が長期政権を敷くのではという見方が有力だ。
優勝回数22回は歴代6位に甘んじる記録ながら、現役時代の真摯な相撲態度から、協会内では若手や中堅親方を中心に“隠れ信者”も含め、多くの支持者がいると言われている。理事選がこの先、行われることはないが、貴乃花親方の協会内外における影響力はジワジワと増していくのではないだろうか。
公益財団法人の資格を取得した相撲協会には、その前に課題が山積している。一番のネックであった年寄名跡は協会の一括管理となり、これまでの慣習となっていた金銭による売買を禁じた。ただし、親方が後継者を推薦する権利を持ち、先代親方へ顧問料などの名目での金銭の支払いは認められることになった。しかし、その金額の上限などに明確な線引きはされておらず、これが“抜け道”に利用される可能性は否定できない。
何よりも透明性、公益性が求められる新公益財団法人。北の湖理事長には次期政権にその座を禅譲する前に、良くも悪くも曖昧にやり過ごしてきた様々な問題に先鞭をつける責務を負っている。