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力道山(ヨクトサン) デラックス・コレクターズ・エディション

 東京・赤坂のナイトクラブ「ニューラテンクォーター」で、暴力団員に腹部をナイフで刺されたことがもとで死去。2013年12月15日で、没後50年となった日本プロレス界の祖・力道山。
  戦後復興の象徴、昭和最大のスーパースターなどと語り継がれる彼が、朝鮮半島の出身であることは、現在でこそ周知の事実だ。が、ある時期までは不可触にされており、自伝『空手チョップ世界を行く』(ベースボール・ マガジン社、1962年)や、映画『力道山物語 怒涛の男』(森永健次郎監督、55年)では、長崎県大村市生まれと‘表向きの’プロフィールが綴られている。
  日韓合作で、04年に制作されたこの映画では、死期の迫った病室での「日本に来てから笑うことがなかった。いや、笑ってはいけなかった。笑うためには成功しよう。日本で一番たくさん笑う人間になろう。それまでは笑うまい。泣くまい」との独白に象徴される、朝鮮に出自を持ちながら日本の英雄であり続けるほかなかった力道山の、挫折や孤独、不信に苦悩、祖国への愛憎といった内面に焦点があてられている。
  ただでさえ虚実皮膜のプロレスの世界。真相やリング外の真実として流布している‘歴史’ですら、レスラーを輝かせるための、お伽話であることが珍しくない。映画ともなれば、なおさらだ。だが、それを踏まえて観ていても、力道山役のソル・ギョングが全身全霊を注いで放つ凄まじい存在感には、惹き込まれずいられない。
「ソル・ギョングの演技を見て、僕はこう決めた。たとえどんな結果になろうと、この映画は彼のための映画に仕上げたいと。ギョングのおかげで成り立っている映画と言われても構わない。それくらい俳優としての彼に、僕は惚れ込んだんだ」(ソン・ヘウン監督)
  リング上の攻防で、ラリアートやプランチャといった力道山時代ではあり得なかった現代的な大技が登場してしまう点を除けば、昭和20~30年代の日本の街並みや空気感を、CGの駆使で巧みに再現。郷愁を誘う。また橋本真也、武藤敬司、船木誠勝など、日本の人気プロレスラーが多数出演している。

  2013年12月16日、力道山の孫の百田力(リングネームは「力・ちから」)が、後楽園ホールで開かれた「力道山没50年追悼記念興行」でプロレスデビューした。力の父で、力道山の次男である光雄も、かつて「6時半の男」として前座戦線を湧かした、大ベテランの現役レスラー。これで親子孫3世に渡るプロレスラー誕生となった。