緑園の天使(原題:National Velvet)
舞台は1920年代のイギリス南部の田舎町。精肉店を営むブラウン夫婦の間に産まれたヴェルヴェット(エリザベス・テイラー)は、寝ても覚めても馬のことばかり考えている少女。いつかの日か自分の馬を飼うことを夢見ている。
ある日の学校帰り、ヴェルヴェットは、亡き父の残した住所録を頼りに一人旅を続ける青年マイ(ミッキー・ルーニー)と出会う。すると、ふたりの眼の前に、一頭の栗毛馬が驚異的な跳躍力で柵を飛び越え、牧場から逃げ出してくる。
あまりの暴走癖のため、飼い主が手放したその馬を、くじ引きで手に入れたヴェルヴェットは、かつて騎手だったマイの指導のもと、リヴァプールで開催される世界最高峰の障害レース「グランド・ナショナル」出場を目指して調教していく。
ところが、幼いふたりが片田舎から連れてきた無名の馬に、真面目に乗ろうとする騎手はいない。レースに出場しないまま帰ることも考えた二人だったが、どうしてもあきらめ切れない。意を決したヴェルヴェットは長い髪をバッサリ切り落とすと、男のフリをして愛馬に跨り「グランド・ナショナル」のスタートラインに向かうのだった。
撮影当時12歳だったエリザベス・テイラーのチャーミングさを、余すことなくフィルムに焼き付けるのが目的のような映画だ(実際彼女はこの作品で、一躍アメリカを代表する子役スターになった)が、あまりに自然な馬たちの‘演技’には驚かされる。さほど特撮技術の発達していなかったはずの時代に、どうやって撮影したのか。落馬を交えた過酷なレースシーンは、迫力とスピード感に満ち溢れ、名うての競馬ファンたちも高く評価する一本。
この作品に登場する「グランド・ナショナル」とは、毎年4月の第2土曜日にリヴァプール郊外のエイントリー競馬場で開かれる。距離約7,190m、左周り。生垣や水濠(すいごう)など計30の障害を跳ぶ。完走も難しく、出走の半数以上が落馬することも珍しくない。1839年に初めて行われた伝統のレースで、イギリスでは馬券売り上げやテレビ視聴率でダービーを上回る人気を誇る。JRAのG1レース中山大障害は、このレースをモデルにしている。
日本馬では1966年にフジノオーが初出走。95年には、田中剛騎手(現調教師)が日本人ジョッキーとして初騎乗。いずれも落馬、競走中止に終わっている。