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インビクタス ~ 負けざる者たち

 少数の白人支配層が、多数の非白人を抑圧するアパルトヘイト(人種隔離)に反対する運動に従事。27年半に渡る獄中生活を強いられながら、釈放後の94年には南アフリカ共和国初の黒人大統領に就任。多様な人種の共存に尽力した指導者ネルソン・マンデラ。
  2013年12月5日、95歳で亡くなった彼が、大統領就任直後に施行した「ラグビーによる国民融和」の物語。
  南アフリカでは1948年に国民党政権が誕生し、人種隔離政策が法制化されて以来、ラグビーはヨーロッパ系白人のスポーツ、サッカーは黒人のスポーツ、との棲み分けがなされていた。白人たちの憧れと誇りであるラグビー代表チーム‘スプリングボクス(Springboks※)’の緑と金色のユニフォームも、黒人にとっては差別の象徴であり憎しみの対象でしかない。代表同士の対抗戦であるテストマッチになれば、黒人たちは相手チームに声援を送り、自国代表の‘スプリングボクス’にブーイングを浴びせていた。
  95年にラグビーW杯の自国開催を控えながら「ベスト16がせいぜい」と国民の期待は低調ななか、マンデラは突如、代表チームの主将フランソワ・ピナールを大統領官邸に招き、こう説くのだった。
「この国は誇れるものを求めている――」
強い使命感を抱いたピナールのもと、‘スプリングボクス’はW杯の初戦で前回王者オーストラリアを撃破。そのまま快進撃をくり広げていく。
  マンデラを演じるのはモーガン・フリーマン。フランソワ・ピナール役にはマット・デイモン。ふたりの国民的英雄に導かれ変わりゆく南アフリカの姿を、クリント・イーストウッドが史実に基づき描いた力作。
  マンデラ自身、学生時代からジム通いを続けるなどボクシングに熱中。スポーツへの愛情が深く、この物語の原作本を執筆したジョン・カーリンによれば「スポーツは政治家にはない力で人の心を動かせる」と語っていたそうだ。「インビクタス(Invictus)」 とは、投獄中のマンデラが心の支えにしていた古い英詩の題名で、「征服されない」「不屈」といった意味のラテン語だ。
  実際の95年W杯メンバーがテクニカルアドバイザーとして、ラグビーのプレイ・シーンを指導。DVDの特典映像では、彼らが撮影の舞台裏だけでなく、W杯の思い出やミーティングの様子、決勝戦のゲームプランなどについても振り返っている。それだけで充分に、スポーツドキュメンタリーとしても成立している。

※スプリングボク(springbok)とは、南アフリカに分布するウシ科の動物。体長120~130cm程度で、カモシカに似た頭部の2本の角と、背中に筋状に生える白い長い毛が特徴。南アフリカの「国の動物」に指定されており、ラグビー代表チームの愛称として定着している。