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マネー・ボール〔完全版〕

『マネー・ボール〔完全版〕』

著者:マイケル・ルイス

訳者:中山宥

出版社:早川書房

価格:¥1,015

 

 

 球団運営戦略に「セイバーメトリクス」を取り入れたオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMの物語。セイバーメトリクスとは、野球における従来の分析基準(打率、打点、防御率など)ではなく、統計学的観点に基づく指標(出塁率+長打率、(与四球+被安打数)/回など)で戦略、評価を与える手法。この手法を駆使し、低予算でチームをプレーオフの常連へと導いたビリー・ビーンを主人公に据えた本書は、アメリカ野球界に衝撃を与えた。しかしセイバーメトリクスは70年代に提唱され、90年代には野球界全体に知られてはいた。ビーンの成功は皆が知っていることを実践に移したということである。「ビーンは実行するという勇気を持っていたのだ」(あとがきより)単なるサクセス・ストーリーというだけではなく、伝統的概念に囚われた守旧派との戦いの物語とも言える(著者は「ベースボール宗教戦争」と書いている)。
 本書は映画化もされ、日本の野球界にも大きな影響を与えたと言われている。しかしビーン同様、セイバーメトリクス支持者であるセオ・エプスタイン(シカゴ・カブス)やアンドリュー・フリードマン(タンパベイ・レイズ)など、新しい観点から球団経営をするGM(エプスタインは弁護士、フリードマンは投資家)は、日本にはなかなかあらわれない(GMの権限がメジャーとは違うようだが)。また、セイバーメトリクスの提唱者ビル・ジェイムスはもともと趣味で野球データの分析を行っていた。すなわちその指標には野球の楽しみがつまっている。MLBやアメリカのメディアは新指標をファンに提供しているが、日本においてはほとんど見ることはない。この点においても日本ではまだまだ守旧派が全盛ということだ。


『来季の巨人vs阪神・アメリカ開幕戦は「日本球界消滅」への第一歩か!?』(玉木正之)参照