ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

ジンガ ~ The soul of Brasilian football

「僕のドリブルは‘ジンガ’と呼ばれる身体の動きを使うのが特徴なんだ。土のグラウンドを裸足で練習して、僕は自分のドリブルを身に付けたのさ」。Jリーグでプレーした、あるブラジル人FWの言葉だ。
 ジンガ(ginga)とは「揺れる、ふらふら歩く」といった意味のポルトガル語で、サッカー用語としては「しなやかに揺れるようなリズムの動き、ステップ。そうした動きによるフェイント」などと説明される。だが、この映画を観ると、ブラジル人がジンガと言うとき、それは単なる肉体の動作のみを指しているのではないことが分かる。
 ある人は「ブラジル人はみんな生まれたときから、それぞれ独自のジンガを持っている」と言い、またある人は「ジンガは苦境を気楽に生きるための手段」だと話す。「ジンガを止めるな」とは「時間を無駄にするな」という意味で用いられる慣用句だ。
 格闘技とダンスを融合したようなブラジル発祥の「カポエイラ」の基本動作もジンガと呼び、サンバ音楽に合わせて踏むステップにも「ジンガがある」といった使い方をする(「ginga」を英訳すると「swing」になるのだそうだ)。
 ブラジル国民の日常生活に根付いた、彼らの通底に流れる特有の身体感覚――。そんな言い方が、最も近いだろうか。
 プロサッカー選手を夢見て「フラメンゴ」の入団テストに、20回以上挑戦している少年。普段はウェブデザイナーとして働き、休日となるとリオのビーチでフット・バレーに情熱を燃やす日系人女性。交通事故で左脚を失うが、ストリートサッカーでは松葉杖をついたままの華麗なフェイントで健常者をきりきり舞いにする青年。サッカーをあきらめたカポエイラのインストラクター。「夢はお菓子屋さんになることと五輪に出ること」と話す、30分間でリフティング3,300回のブラジル記録を持つスーパー少女…。
 このドキュメンタリーには、ジンガを共通項にしたブラジルの各都市に暮らす10人の、10通りのストーリーが登場する。各編が7~8分のオムニバスのため、薄味の人物紹介にとどまっているきらいはあるが、ブラジルサッカーの豊饒さの一端をうかがい知ることができる。
  10番目のストーリーを飾るのは、当時「サントス」に在籍、ブラジル代表の新星と呼ばれていたFWロビーニョ。故郷に戻った彼のリラックスした表情や、少年時代の貴重なプレー映像を見ることができる。