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性と柔ー女子柔道史から問う

『性と柔ー女子柔道史から問う』

著者:溝口紀子

出版社:河出書房新社

価格:¥1,512

 

 

 表紙の写真は有段者の女性柔道家。しかし、その黒帯には白線が入っている。国際柔道連盟(IJF)の試合では男女とも同じ黒帯だが、国内(講道館)では、この白線入りの黒帯の使用を「区別」のために規定しているという。帯ひとつからも分かるように柔道界に横たわる問題は根深く、セクシャルハラスメントだけでなく暴力、ガバナンス、指導中の事故と多岐にわたる。著者は山積する問題に、日本のスポーツ界に最も欠けている歴史からのアプローチを仕掛ける。講道館と対峙した大日本武徳会、高専柔道、戦争との関わりなど正史ではない歴史を著し「柔道とは何か」を考えていく。バルセロナ五輪の銀メダリストにして教育学修士、現静岡文化芸術大学准教授の文章は熱を帯びているがロジカルである。言うまでもないが、これは柔道界だけではなく他のスポーツも抱える問題。またスポーツだけでなく社会全体の問題でもある。溝口氏は白線入り黒帯を、区別のためならば今度は男子が締めればいいと言う。その想像力が柔道界の男たちにないということだろう。


『「性と柔(やわら)」で「男のムラ社会」をあぶり出す』(溝口紀子)参照