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チーム作りは誰のため?(玉木 正之)

この原稿は、毎日新聞2012年4月14日付スポーツ面の不定期連載コラム「時評点描」に書いたものです。ナベツネvsキヨタケの「巨人軍お家騒動」も忘れ去られたような今日この頃ですが、この争い…というか大人げないケンカは、中身をよく見ると、プロ野球の本質論的にかなりオモシロイ一面も含んでいます。ということで、5月9日に小生のホームページに再録したのですが、さらにラジカルな(根源的で過激な)一文を追加して、ここに掲載させていただきます。御一読下さい。
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チーム作りは誰のため?(スポーツは誰のもの?)

ジャイアンツの前GMである清武英利氏の著書『巨魁』を読んだ。そこに書かれているチーム作りの方法論はすべて正しい。

ブラッド・ピット主演の映画『マネーボール』で有名になったセイバーメトリクス(野球統計学)を研究し、ヤンキースから直接BOS(ベースボール・オペレーション・システム=選手の力を客観的な数値で評価分析する手法)を学び、スカウトたちの勘に頼らない新人選手の発掘法を確立。さらに、彼らに多くの試合を経験させる育成システム(三軍制度)を構築し、スカウトやコーチはパソコンで情報を共有……。

そんななかから坂本のように他球団の評価が高くなかった選手や、山口のような無名投手を獲得し、一流選手に育てた。それは、じつにリーズナブルなチーム作りで、こういう作業は必ずしも即座に黄金時代(連続優勝)につながるわけではないだろう(それにはスーパースターや名監督の出現が不可欠ですからね)。しかし、このような合理的な方法がチームに定着し、ノウハウを蓄積すれば、ジャイアンツは選手たちが溌溂と活躍し、多くのファンに支持され、愛される気持ちの良いチームになったに違いない――と、私は確信できた。

そのチーム作りの最中、野球に対する愛情もなく、選手の技術にも、努力にも、球界の事情にも無知な「ナベツネ」と呼ばれる「巨魁」(辞書によると「悪人の親玉」)が、「鶴の一声」で全ての計画を押し潰したのだから、清武氏の堪忍袋の緒が切れたのも理解できる。

しかし、残念ながらそれは、所詮は「読売巨人軍」というコップの中の嵐でしかない。

たとえ清武氏のチーム作りが成功しても、それはすべて親会社(読売新聞社)の利益となるだけのことである。だから日本の優秀なプロ野球選手は、野球を支配する親会社など存在しない「純粋な野球」を求めて次々と渡米し、メジャーリーグに入る――ということに、そろそろ誰もが気付いているはずだが……。

ジャイアンツを所有し、プロ野球を支配する読売新聞社(そして日本テレビ放送網株式会社)や、高校野球を支配する朝日新聞社(そして株式会社テレビ朝日)に所属する「ジャーナリストたち」は、そろそろ「愛社精神」を捨てて、日本の野球界(スポーツ界)の健全化のため、自分たちの会社が行っている「非」を改めるべく立ち上がるべきではないだろうか。