野球&ソフトボール・五輪競技復活を邪魔してるのは、誰か?(NBS編集部)
2020年東京五輪開催が決定した9月ブエノスアイレスでのIOC(国際オリンピック委員会)総会で、新しいIOC委員長に選ばれたバッハ氏が来日(11月19日)。記者会見で、野球とソフトボールがオリンピックの正式競技に復活採用される可能性があることを示唆した。
9月のIOC総会では、「最後の正式競技」としてレスリングが選ばれ、野球とソフトボールは(スカッシュとともに)落選した。そして五輪実施競技は、五輪開催7年前(2020年東京五輪の場合は今年中)に決定しなければならない、ということがIOC憲章に明記されている。が、バッハ会長は、IOC委員の合意が得られれば変更は可能と明言。
また、オリンピックの総競技数が「28」と定められている点についても、五輪の肥大化防止は参加選手の総数さえ押さえられれば問題ないと語り、「オリンピックは開催国の文化や社会が反映されるべきだ」として、日本での野球やソフトボールの人気を考慮すべし、という意見を披露した。
そして、今後は12月に開かれるIOC理事会と、来年2月ソチ冬季五輪のときに開催されるIOC総会での議論を経て、「IOC内の委員会か作業部会で検討する」と具体的な手順まで口にしたのだ。
では、野球とソフトボールのオリンピック正式競技復活の可能性は、あるのだろうか?
じつは、IOCは以前から野球とソフトの五輪参加を強く望んでいた。
それは、アメリカのメジャーリーグ(MLB)や日本のプロ野球(NPB)のスター選手たちが参加するとなると、放送権料のさらなる値上げが期待できるからだ。
しかしMLBは、ペナントレースも佳境の真夏の時期にスター選手を五輪に奪われることを断固拒否。野球が五輪の正式競技だったときも、3A以下のマイナー・リーグの選手や大学生などのアマチュア選手しか出場させなかった。
オリンピックをすべてのスポーツの最高レベルの祭典と位置づけたい(と同時に、それによって高額の放映権料を得たい)と考えているIOCは、(バッハIOC会長の前のロゲ会長の時代に)IBAF(国際野球連盟)を通じて、何度もMLBの選手の参加を要請。MLBの選手を出さないなら正式競技から外す、との「脅し」にもMLBはまったく態度を変える気配も見せず、ついに2008年の北京大会を最後に野球(とソフトボール)は、五輪競技から姿を消さざるを得なくなったのだ。
そこで、日本の根強いプロ野球人気(そして女子ソフトボール人気)と強い五輪競技待望に期待し、メジャー抜きでも2020年東京オリンピックには野球を復活させて「新しい話題の目玉商品」にしたい、あわよくば日本の野球界を通じて(メジャーに参加している少なくない日本人選手も動かして)アメリカ・メジャーの態度も動かせれば……というのがIOC(バッハ会長)の新戦略のようだ。
ところが、日本のプロ野球も(さらに高校野球も)、多くのファンの五輪野球待望論に配慮して正式コメントは差し控えているが、シーズン中(夏の甲子園と重なる時期)に有力選手を日本代表チームに参加させるのは避けたいというのが本音だ。このような事態に、読売ジャイアンツの親会社としてプロ球界に強い発言力を持つ読売新聞は、スポーツ・ジャーナリズムとしてどのような意見を述べるのか?
また、ユース・オリンピック(18歳以下のオリンピック)も軌道に乗り始めた現在、野球が正式競技となると、高野連(日本高等学校野球連盟)は2年に1度、夏の甲子園大会とオリンピックの「バッティング」を心配しなければならなくなる。その夏の大会の主催者である朝日新聞も、スポーツ・ジャーナリズムとしてどのような意見を述べるのか?
野球とソフトボールの「五輪競技復活」を示唆したIOCバッハ会長の発言を、三大紙の大きく取りあげたのが毎日新聞と読売新聞だったのは、非常に興味深い出来事というほかない。社会人野球と関係の深い毎日新聞は、野球とソフトボールの五輪復活を純粋に待望してるのだろうが、読売新聞は、この出来事を利用してメジャーに圧力をかけようとでも企図しているのだろうか? それなら非常に面白いこととはいえ、本来ならメディアとスポーツ(野球)は癒着することなく、メディアは純粋にスポーツ・ジャーナリズムを展開するべきだが……。
IOCは、メジャー選手の参加は無理でも日本の野球人気による放送権料に期待し、バッハ会長の発言となったのだろうが、はてさて、日本の全野球界はどう動く? そして、日本の野球界を支配しているマスメディアは、どう動くのか……?
(写真提供:フォート・キシモト)