ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

電動車椅子サッカー(パワーチェアー・フットボール)ブロック選抜大会報告と最強クラブ決定戦(平野誠樹)

 前回の記事の配信から少々時間が経過してしまいましたが、「マルハンカップ第5回パワーチェアー・フットボール・ブロック選抜大会」の結果について報告します。加えて11月2日~3日に岡山県の桃太郎アリーナで開催される「マルハンカップ 第19回日本電動車椅子サッカー選手権大会」の告知も!(電動車椅子サッカー=パワーチェアー・フットボールに関するルールその他の説明は、前回の9月17日にアップされた記事を、お読みください。)

 8月に開催された「マルハンカップ第5回パワーチェアー・フットボール・ブロック選抜大会」では、関東ブロックが、総当り戦を4勝1引き分けという圧倒的な成績を収め、2連覇を達成しました。

 今年度の大会で最も注目すべき点だったのは、「ストライクフォース」というアメリカ製の電動車椅子でした。まだ日本では数人しか持っていない電動車椅子で、ワールドカップで連覇しているアメリカでは最も主流の車椅子で、「ストライクフォース」なしでは世界では戦えないと言われる程の性能を持つ最新のマシンなのです。とてつもないパワーを兼ね備えていて、他の電動車椅子を遥かに凌ぐ速い威力のあるボールを蹴ることが出来ます。その上、競り合いにも強く相手に押されてもびくともしません。

 今後日本でも「ストライクフォース」を使用するプレイヤーが一気に増えていくことが予想されます。電動車椅子サッカー界に革命をもたらしたと言っても過言ではないでしょう。

 ブロック選抜大会では関東ブロックの永岡選手と関西ブロックの有田選手が、「ストライクフォース」を使用しているので、大会前からかなり注目されていました。結果的に「ストライクフォース」の力を有効に使いこなした関東ブロックが主導権を握って、最後まで弱さを見せることなく、優勝まで駆け抜けたとう印象が強く残っています。

 そんななか、大会MVPの座を射止めたのは、優勝チームの関東ブロックの選手ではなく、中部ブロックの飯島洸洋選手でした。彼は2011年にパリで開催されたワールドカップに出場した日本代表選手です。ワールドカップ後は体調を崩して、なかなか思うようにサッカーが出来ていなかったのですが、体調も回復したようでかなり高度の高いプレーを試合で存分に見せつけていました。

 しかしながら、厳しい言い方をしますが、彼のプレーについていける選手が正直中部ブロックにはいませんでした。どんなに1人良い選手がいてもサッカーはチームスポーツなので、結果を出すことはとても厳しいチーム状況だったと個人的には思っています。

 それでも復活した飯島選手の姿はとても輝いていました。彼のポジションはセンタープレイヤーで、11人制のサッカーで言えばトップ下と言われるゲームメークをするチームの柱となるキーポジションです。広い視野を持っていて他の選手を活かすプレーが特に際立っています。そして状況判断もよく見極めていて、常にその瞬間、その瞬間の最適なプレーを選択する能力にも長けています。分かり易く言うと中村俊輔選手のようなタイプの選手です。今最も注目すべき選手であることは間違いありません。今後が楽しみです。

 なぜ今回、関東ブロックが優勝出来たのか?それは、「Yokohama Crackers」所属の日本初の女性で日本代表選手になった永岡選手(写真参照)と、ゴールキーパーとして安定したプレーを続けた竹田選手の活躍が大きかったと思います。攻撃の軸として活躍した永岡選手、そして守りの要として活躍した竹田選手。この2人の存在抜きでは優勝は成し得られなかったでしょう。

 永岡選手が供給するハイスピードのボールを武器に、他の選手がフリーでゴールを狙う機会が増えたことと、その速いボールのこぼれ球を得点に結びつけた点が、攻撃面では相手にとってかなり脅威だったはずです。ディフェンスの面では相手から蹴り込まれたシュートを、ことごとく防いだゴールエリア内の守護神とも言える活躍をみせた竹田選手の存在は、相手の攻撃に向かうモチベーションをなえさせたことでしょう。

 総合的に見てもレギュラー選手の連携がどのチームよりも上手く取れていたように感じます。もし仮にレギュラー選手の1人でも欠けていたら、結果は大きく変わっていたはずです。ほぼフル出場で力を出し続けた関東ブロックの4人の選手のタフさが、優勝という最高の結果をもたらしたのだと思います。

 国際舞台で活躍する選手を育成するという観点からも、ブロック選抜大会を開催する意義はかなり大きいと感じています。理想を言えば日本国内の競技規則も、国際基準に準じて競技速度を6キロから10キロに移行していくことが、世界の頂点を日本が目指していくなら、避けては通れない重要な議案となります。10キロでプレーすることが体力的に難しい選手も数多くいるので、非常に難しい問題ですが、この課題をクリアして世界の頂点を目指して欲しいと心より願っています。

 冒頭にも触れましたが、「マルハンカップ第19回日本電動車椅子サッカー選手権大会」が11月2日~3日の日程で開催されます。この大会は国内ルールの競技速度6キロで行われる、日本最強のクラブチームを決める由緒ある大会です。全国の各ブロックで開催された予選大会を勝ち上がった16チームが、日本一の座を目指して競い合います

 私が監督を務める「Yokohama Crackers」は15年連続で15回目の出場になります。
2011年に13度目の挑戦で初めて全国1位の座を獲得しました。昨年は地元横浜で連覇を目指して戦いましたが、準決勝でPK戦の末に敗退して、その夢は叶いませんでした。

 8月のブロック選抜大会で大活躍した永岡選手を中心に、普段通り平常心で試合に臨むことが出来れば、良い結果がついてくると確信しています。しかしながら、日本選手権に出場してくるチームはどこのチームもレベルが高いので、一戦、一戦を決勝戦のつもりで闘う意識が求められると考えています。ひとつ皆さんに知っていただきたい電動車椅子サッカーの裏の側面をお伝えします。これは私のチームだけに言えることではないのですが、数多くの選手が志し半ばで他界され、悲しい別れが今までありました。

 電動車椅子サッカー選手の中には私のように重度な進行性の病をかかえながらも、サッカーに取り組む人達がたくさんいます。明日何が起きるかは誰にも分かりませんが、特にこの競技は生死と隣り合わせのリスキーなスポーツだと言えます。それでも選手はひたむきにプレーをし続けます。なぜなら命を懸けてでも取り組む魅力がある、かけがえのない存在が「電動車椅子サッカー」なのです。

 私自身も毎年サッカーを続けられる保証はひとつもありません。そのこともあり毎年これが最後の監督を務める日本選手権大会だという覚悟を持って、戦いの場へ赴いています。最後まで選手を信じて精一杯ガムシャラに闘い抜いてきます。そして全国のサッカー仲間とかけがえのない素晴らしい時間を共有して来られれば何も言うことはありません。日本選手権大会後のレポートを楽しみにして頂ければと思います。

 それでは、行ってきます!