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100万ドルのホームランボール ~ 捕った! 盗られた! 訴えた!

 2001年10月7日、サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが、メジャーリーグのシーズン最多記録となる73本目のホームランを放った。
 パシフィック・ベル・パーク(現AT&Tパーク)のライト立見席に飛び込んだ、そのホームランボールを拾ったのは日系人技師の観客だった。ところが、まもなく「自分が捕ったボールを彼に奪われたんだ」と主張するレストラン経営者が現れる。
 推定100万ドル(当時のレートで約1億2000万円)の価値があるとされていたボールの所有権を主張するふたりの争いは、ついに法廷へと持ち込まれることになる。その後、1年以上に渡ってくり広げられた裁判の様子とボールの行方を、当事者のふたりやライトスタンドに居合わせた目撃者たち、ボールを奪い合う様子を撮影していたニュースカメラマン、1961年にロジャー・マリスの61号ホームランボールをキャッチした人物など、多くの証言で追いかけていく。
 1個のボールに法外な値が付いて、その権利を巡り訴訟を起こす。その騒ぎを9・11テロから1カ月も経たないうちに、タブロイド紙から3大ネットワークまでもがトップ扱いで報道する。しかも、記念の一打を放ったのがステロイド疑惑の渦中の打者。すべてがあまりに滑稽で、まさに‘これぞアメリカ’といったドキュメンタリー。
 2013年9月15日、東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティンが、王貞治のプロ野球記録を更新する56号本塁打を打った。神宮球場のレフトスタンドで記念のボールを拾った阪神タイガースファンの会社員は「本人の手に戻るべき」だと、試合後バレンティンに手渡し、バレンティン本人は受け取ったボールを野球殿堂博物館に寄贈した。これが野球とベースボールの違い?