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メジャー大会の戦い方を知っていた小林正則(小林 一人)

史上3度目となる、予備日を使って行われた第78回日本オープンゴルフ選手権。おそらく月曜日の朝、2位以下の選手はこう考えたに違いない。「首位を走る小田孔明選手がアンダーを出せば仕方がない。しかしパープレーならチャンスが出てくるはずだ。となると9アンダーまで伸ばしておくことが勝つための条件となる」

蓋を開けてみれば6アンダーの2位でスタートした小林正則選手が10アンダーまで伸ばしてビッグタイトルをものにしたのだが、最終組の二人が最後までデッドヒートを繰り広げるという史上稀に見る好ゲームとなった。

過去、最終日に大崩れして日本オープンのタイトルを逃した経験のある小田孔明選手だが、この日は前半こそバタついたものの、バックナインに入るとプレーは安定し、勝ってもおかしくないプレーぶりだった。しかしそれ以上にアイアンショットが冴えていたのが小林選手で、結果的には10番のバーディで1打リードすると、そこからは小田選手に付け入る隙をまったく見せずに逃げ切った。

それでも小田選手にチャンスがなかったわけではない。リードしてからの小林選手にはやや硬さが見られたし、小田選手が12番のパー4で嫌なパーパットを決めた時点では、1打差ありながらも流れ的には完全に互角。13番のパー3で小林選手がピン手前2メートルにつけて仕留めにかかったが、小田選手はまだ冷静だった。奥から先にバーディパットを打ったが届かず、短いパットをタップインしようとしたものの、しばらく考えてからマークしたのだ。続いて打った小林選手のバーディパットは大きくフックしカップの左に外れる。あの時、もしも「お先に」をしていたら、小林選手はウイニングパットとなるはずだったフックラインのイメージがもう少し正確につかめたはずだから、ここは小田選手のファインプレーだった。

ではどこで勝敗が決まったかというと、17番パー3のティグラウンドだ。オナーの小林選手がアドレスに入ろうとしているとき、小田選手が小林選手のキャディバッグを覗き込み、何番を抜いたのか確認したのだ。小林選手のキャディは「そんなに露骨に見るの?」とでもいいたげな顔をしていたが、小田選手からは「どんな手を使ってでも勝ちたい」という気迫が漲っていた。しかし結局はそれが裏目に出る。アイアンが当たりまくっている小林選手の番手を参考にしたため、小田選手のショットはピンに届かず手前のバンカーにつかまったのだ。そこからのバンカーショットをミスして万事休す。2打差で迎えた18番のティグラウンドに立つ小田選手が発していたのは気迫ではなく「焦り」だった。

小林選手の勝因を挙げるなら、「平常心」だろうか。努めて心を動かさないように心がけているようだったし、バックナインでは特に、隣のコースでプレーしている選手の妨げにならないよう、たびたび立ち止まってギャラリーを止めるなど、過度とも思える他者への気遣いを見せた。それに対し小田選手は「気迫」と「集中」で押し切ろうとする。結果を見る限り、未勝利ながら小林選手がメジャー、それも日本オープンという試合の戦い方を知っていたということだろう。

小田選手の心境を思うと心が痛むが、ゴルファーとしてのレベルの高さは十分証明したし、次につながるゲームになるはずだ。余計なお世話だが、「来年も日本オープンは開催される」という言葉を贈りたい。