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読売・朝日・毎日が支配する野球界の不可思議な構造は、いつ終わる?!(玉木正之)

 NPB(日本野球機構)とは、まったく不可思議な組織というほかない。

 9月27日、プロ野球の統一球が「秘密裏」に「飛ぶボール」に変更されていた問題を調査した第三者委員会が、NPBの臨時理事会に最終報告書を提出した。「混乱」の責任は加藤良三コミッショナーにある、と明記された報告書だが、加藤氏は19日のオーナー会議で既に辞任が了承されたため、その責任が追求されることはなかった。

 加藤氏はコミッショナーの仕事を果たさなかったのだから、今季の給与の全額返済を求められて当然だとも思うが、それもなく、臨時理事会に出席した同氏は、「何も付け加えることはない」と言って第三者委の記者会見にも同席せず、逃げるようにプロ球界から去った。

 最終報告書は、さらに業務執行の最終責任者が不明確なことなど、NPB組織の構造上の問題も指摘した。が、これまたナンセンスなことに、運営責任があやふやな組織に改革を求めても、そもそも誰が改革に手をつけるのか、それが不明確なのだ。

 最終報告書は村井良雄パ・リーグ理事長(オリックス球団本部長)が受け取った。が、コミッショナー事務局の棚につまれてホコリをかぶるだけなのだろうか……?


 先月、2020年オリンピック・パラリンピックの開催都市が東京に決まった。そのIOC総会でもNPBは不可解な行動を見せた。

 加藤コミッショナーがわざわざブエノスアイレスまで赴き、野球とソフトボールの正式競技入りをIOC委員に訴えたのだ。が、はたして、それは本気だったのか?

 もしも本気なら突然IOC総会に出るのではなく、ペナントレース中に有力選手を奪われるので五輪競技化に絶対反対のMLB(米国メジャーリーグ)を、まず説得すべきだったはずだ。

 メジャー選手が五輪に出場することで高額の放映権料収入をもくろむIOCと手を組み、MLBを説得……。そうするのが当然の戦術だろう。しかし、そもそもNPB各球団もMLBと同じく、シーズンを中断させられる野球のオリンピック競技化には反対のはずだ。

 そのうえ東京オリンピック・パラリンピックの招致委員たちは、JOC関係者も、内閣関係者も、国会議員関係者も、東京都庁関係者も、すべてが「東京・バッハ・レスリング」の「3点セット」で動いていた。

 つまり、東京五輪招致を目指すと同時に、ジャック・ロゲの後任IOC会長にドイツ人のトーマス・バッハ氏を推し、オリンピック正式競技に(野球&ソフトボールやスカッシュではなく)レスリングが選ばれることをセットにして運動していたのだ。

 そうして、2020年の次の22年の冬季オリンピックはバッハ氏の希望するドイツで(ミュンヘンもしくはガルミッシュ・パルテンキルヘンで)行うことを視野に入れ、さらに柔道やボコシングやテコンドーなど五輪競技の格闘技関係者や、レスリングの正式競技化を希望するIOC委員たちとタッグを組み、東京五輪招致運動を展開していたのだ。

 ならばプロ野球の加藤コミッショナーが野球の五輪競技化を求めて運動するということは、東京の五輪招致にも反対することになるわけだ。もちろん加藤コミッショナーには、そんな情報は伝わってなかった(影響ゼロだから伝える必要があるとも思われていなかったのだろう)。

 そもそも可能性がゼロに等しい野球の五輪競技化などに乗り出す前に、女子野球やソフトボールへの(金銭的)支援を行うこそ、スポーツ組織としてのNPBの取るべき行動といえるだろう。


 しかし残念ながら日本の野球は、プロアマ共にスポーツ組織と呼ぶには程遠い組織でしかない。

 スポーツ組織ならば、男女の区別なく参加が許される組織でなければならない。それがオリンピック・スポーツのスタンダードだ。が、プロ野球は男子だけの組織。世界一3連覇の女子野球日本代表や女子プロ野球はまったく別組織だ。

 アマチュア野球も同じで、甲子園の高校野球では女子が入場行進でプラカードを掲げて行進し、ベンチに入る女子は、記録係という肩書きで、マネジャーと呼ばれる雑用係を務める。女子高校野球部はほとんど皆無で、男女平等が大原則の五輪規準からは「女性差別」ととられかねないのが現状だ。

 英国のようなスポーツ先進国では、男女はもちろん障害者も同じ組織の中に組み込まれることが法律で定められ、たとえば電動車椅子サッカーも視覚障害者サッカーも知的障害者サッカーも全てフットボール・アソシエーション(サッカー協会)が運営している。

 2020年東京五輪開催決定に伴い、厚労省のパラリンピック系障害者スポーツと文科省のオリンピック系スポーツが統合される。近い将来スポーツ庁も誕生し、やがて日本のスポーツ界も身障者スポーツという「特別な組織」は解体され、義足や車椅子のランナーたちは陸上競技連盟に所属し、視覚障害や聴覚障害のスイマーは水泳連盟に所属するようになるだろう。

 そのときNPBや高野連はどうするのか?

 スポーツ庁の管轄のもと、女子野球や障害者野球……など、全ての野球を支援する統一されたスポーツ(野球)組織に改編できるのか。それとも野球だけは旧態依然のスポーツ組織とは呼べない組織のまま存続するのか。

 これは野球組織と密接な関係にあるマスメディア(プロ野球=読売、高校野球=朝日、社会人野球=毎日)にも大きな責任がある問題といえるはずだ。

(共同通信「現論」 & NBSオリジナル)
写真提供:フォート・キシモト