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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ④10.8~10.14

 「パラスポーツ・ピックアップ」は、国内外各地から届くパラリンピック競技の話題を独自にセレクトし、1週間分まとめてお送りするシリーズです。
 今回は、東京で初めて開催された障害のアスリートの祭典「全国障害者スポーツ大会」をメインにお届けします。2020年パラリンピック開催が決まった東京都にとって大会運営について最初のシミュレーション大会としても注目されました。

■第13回全国障害者スポーツ大会
⇒全国障害者スポーツ大会とは、昭和40年にはじまった全国身体障害者スポーツ大会が前身で、平成4年にはじまった全国知的障害者スポーツ大会と平成13年に統一され、現在の形となった。以来、東京での開催は今回が初めて。障害のあるアスリートのための全国的な祭典であり、スポーツの楽しさを体験するとともに、障害に対する国民の理解を深め、障害者の社会参加の推進に寄与することを目的とする。そのため、国体のように各自治体チームが賜杯を目指すのではなく、競技種目ごとに順位をつけ表彰される形で行われる。

・12日~14日: 第13回全国障害者スポーツ大会(以下、全スポ)が開催された。13の正式競技とオープン競技に身体、知的、精神障害のある選手約3,000人が参加。正式競技は47都道府県と20の政令指定都市からなる67チームに分かれ、熱戦を繰り広げた。

 今大会は2020年五輪・パラリンピック開催決定後に初めて東京で開かれた大規模なスポーツ大会だったため、7年後を占う上でさまざまな点が注目された。競技については多くの大会新記録が生まれたり、競技レベルの向上も見られたが、障害者用トイレといったバリアフリー環境の整備不足などや各競技会場では観覧無料にも関わらず空席が目立ったりと、施設面や集客面に課題もみられた。2020年のパラリンピック成功に向けて、今大会も検討材料の一歩にしてほしい。

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・12日: 味の素スタジアム(東京・調布市)では皇太子ご夫妻ご臨席のもと、約4,000人の選手団が参加して開会式が行われた。都内各地の会場でも競技がスタートした。

 大会には10代から70代まで幅広い年代の選手が参加したが、今月26日にマレーシア・クアラルンプールで開幕するアジア・ユース・パラゲーム(AYPG)の日本代表選手も多数出場していた。神戸市代表の藤原光里もその一人。競泳女子25m自由形21-1部クラス(脳性麻痺など-39歳以下)に出場し、結果は17秒48で2位だった。

 「大会記録の17秒08が目標だったけど、届かずに残念」と話す藤原は、AYPGではS8(肢体不自由)クラスで100mの自由形、背泳、平泳 ぎ、400mの自由形に出場する予定だという。「メダルを獲れるようにがんばりたい。いちばん得意なのは100m自由形。自己記録の2分23秒台を1秒でも更新したいです」と抱負を語った。

・13日: 初日から大会新も多数誕生し、熱戦がつづく陸上競技(味の素スタジアム)で、ひときわ注目を集めたのが女子走り幅跳びだった。先の2020年東京五輪・パラリンピック招致の最終プレゼンでスピーチをした佐藤真海(東京都)の出場で、約20台のカメラなど100人を越える報道陣が集まり、スタンドからも多くのファンが声援を送った。

 試合は04-1部(片下腿切断など-39歳以下)クラスで4m75の2位に終わったが、ここ数カ月、多忙な毎日で練習不足は否めず、「緊張した。でも、今日の最低限の目標は出せたのでよかった」と笑顔。ピット際のスタンドに詰めかけた多くの観客については、「4m50飛べればと思っていたところを、観客の皆さんの力で75まで持ってこられた。力になった」と感謝した。「お客さんもたくさん入って嬉しかった。このムーブメントがもっと大きくなって、2020年に満員の会場で世界中のオリンピアン、パラリンピアンを迎えられたら。今日はその可能性が少し見えたかなと思う」と話した。


 そんななか、「自分らしい跳躍」に集中し、優勝を飾ったのが、北京・ロンドンのパラリンピアン、中西麻耶(大分県)だった。大会記録(4m25)を大幅に上回る5m18をマークする、大ジャンプを見せた。1本目はファウルだったが、2回目で自己記録に迫る4m91を跳び、3回目に大きく記録を伸ばした。「自分を信じて、3本目まで思いきりいけたし、会場の皆さんの力が連動して背中を押してくれた感じ。いい跳躍ができました」と笑顔がはじけた。

 中西は走り幅跳びで8位に入賞した昨年のロンドン・パラリンピック後に引退を表明したが、今年春から競技に復帰。夏以降は、元陸上五輪代表の成迫健児選手の父で、十種競技歴のある成迫壱(まこと)さんに師事している。成迫コーチはこの日、会場には来られなかったが、試合後に電話で結果を伝えると喜んでくれたという。

 「コーチにいい報告ができて嬉しい。今日はリオ(2016年)に向けて東京(2020年)に向けて、またやっていけると確信できた日になった。再出発の日という意味でもよかったと思います」と満足そうに語った。

[caption id="attachment_15460" align="alignnone" width="620"] 5m18の大跳躍で優勝した中西麻耶選手[/caption]


 車椅子レースでは、男子1500m14-1部(下肢麻痺など-同)クラスで、福岡市代表の渡辺勝が2秒以内に4選手がゴールという混戦を3分22秒02で制した。渡辺は7月にフランス・リヨンで開催されたIPC世界選手権10000mの銀メダリストだが、前日12日に行われた800mでは僅差の2位に終わっていた。「昨日負けたので、今日は勝ちにこだわろうと思っていた」ものの、スタートで車輪を回す手が滑って出遅れ、狙っていたスタートダッシュに失敗した。 「(前を)抜くのにずいぶん力を使ってしまってきつくなり、今日のタイムは自己ベストから20秒以上遅かった。でも、勝ちにいくレースで勝てたのは収穫でした」と手ごたえを語った。

[caption id="attachment_15461" align="alignnone" width="620"] 他選手と競り合う渡辺勝選手(中央)[/caption]

14日: 東京体育館で行われていた車椅子バスケットボールでは、決勝戦で仙台市が東京都を74-59で下し、3連覇を達成した。試合序盤から一進一退で、前半は仙台が2点リードの31-29で折り返す。後半に入ると、東京にリードを許す場面もあったが、仙台は最終クォーターで地力の差を見せつけ、ディフェンスリバウンドからの速攻などで得点を重ね、突き放した。

 仙台のエースで、この日14得点を挙げた藤本怜央は、「勉強になった」と安堵の表情で試合を振り返った。実は第2ピリオドの終盤、藤本の車椅子が破損し、第4クォーターまでの10数分間、退場を余儀なくされるアクシデントにみまわれた。エースの不在はふつう、チームに不安を与えるものだが、この日の仙台にはむしろ、いいカンフル剤になった。藤本の穴はチーム一の22得点を挙げた中澤正人や果敢にリバウンドに飛び込んだ佐藤裕希らが埋めた。

 藤本は、「それぞれにやるべきことをしっかり果たすという意識があった。それが第3クォーターで踏ん張れたポイントだったと思う。今後は、スタートから先手をとって自分たちのリズムで勝ち切るゲームがいつでもできる強さをもったチームにしていきたい」と話した。

 各会場の最終試合終了後、総合閉会式(味の素スタジアム)が高円宮妃久子さまをお迎えして行われ、2013年全スポは閉幕した。
 

■ドイツ発
・8日: 国際パラリンピック委員会(IPC)は、開幕までちょうど150日となったソチ・パラリンピック(2014年3月7日~16日)における“Ones to Watch”(注目選手)の36人を発表。日本からも3選手が選ばれた。“Ones to Watch”は、昨年のロンドン・パラリンピックからスタートしたIPCの活動のひとつで、パラリンピックスポーツの普及、拡充を目的としている。パラリンピックなど大きな国際大会ごとに、出場予定選手の中から、過去の国際大会でのメダリストなど実力と人気を兼ね備えたトップアスリートを選出し、彼らの経歴や実績などを広く紹介するというもの。

 今回発表されたソチ大会のリストによると、アルペンスキーではフランスのMarie Bochet(昨シーズン5つの世界タイトル獲得)など17選手が選ばれ、そのなかに森井大樹と鈴木猛史が入った。LW11(座位・下肢障害クラス)の森井は2010バンクーバー・パラリンピックでの銀・銅メダル獲得をはじめ、ワールド杯総合優勝などの実績がある。一方、LW12-2(座位・下肢切断クラス)の鈴木もバンクーバーでの銅メダルのほか、ワールド杯や世界選手権上位入賞などが評価された。

 また、クロスカントリー/バイアスロンでは、カナダのBrian McKeever(バンクーバーの金メダリスト)をはじめ、11選手が選出されたなかに、久保恒造が入った。LW11の久保は2013世界選手権優勝や2011-12シーズンワールド杯年間総合ランキング2位などの実績がある。

 他に、車椅子カーリングから3選手、アイススレッジホッケーからは現時点で5選手が発表されたが、今月末のソチ大会世界最終予選(20~26日/イタリア・トリノ)終了後に新たに4人が追加される予定で、最終的な“Ones to Watch”選手は40人になるという。

■アメリカ発
・13日: シカゴマラソン車椅子の部で、男女ともに大接戦が展開された。男子は、南アフリカのErnst Van Dykが1時間30分37秒で初優勝を飾ったが、わずかに1秒差。しかも2位になったKurt Fearnley(オーストラリア)と3位のJosh George(アメリカ)は1時間30秒38秒の同タイムで、さらに僅差でメダルの色が分かれた。

 Van Dykは3つ巴の戦いが続いた終盤を振り返り、「ラストスパートに向けて、力を温存しながらレースを進めた。最後まで何とか力が残っていて、ラッキーだった」と振り返った。

 一方、女子は地元アメリカのTatyana McFaddenが大会新となる1時間42分35秒で3連覇を達成したが、2位となったManuela Schaer(スイス)とデッドヒートの末の3秒差の勝利だった。Schaerは2013IPC世界選手権(7月/フランス・リヨン)のマラソンの覇者。さらに、20秒差で3位に入ったAmanda McGrory(アメリカ)までが大会記録(1時間44分29秒)を更新する好レースだった。

 McFaddenはレース後、「頭がぼぉっとして、周りもよく見えなかった。ただ、筋肉の記憶が頼りだった。『加速し続けなければ』、レース中に考えていたことは、ただそれだけだった」と地元紙に語っている。

M cFaddenは7月の世界選手権ではトラック全6種目で金メダルを獲得したが、マラソンでも4月のボストン(15日)とロンドン(21日)で優勝しており、1年間でこれら3レースを制した車椅子ランナーは男女含めて史上初。さらに、11月3日のニューヨークシティマラソンにもエントリーしており、世界4大マラソン制覇を狙うという。

(カンパラプレス配信+NBSオリジナル)
(写真提供: 越智貴雄)