JOC加盟団体が報酬の一部を不正回収!? その理由とは? (松瀬 学)
『なぜ補助金還流が起きたのか~JOC加盟団体の苦肉の策』
またも日本オリンピック委員会(JOC)の加盟団体の補助金還流問題である。会計検査院が調べたところ、10 余の競技団体が選手指導にあたる「専任コーチ」への報酬の一部を寄付の形で回収し、義務付けられている競技団体の費用負担を免れていた疑いがあることがわかった。全国各紙が一斉に報じた。
この構図は、ことし1月、全日本テコンドー協会で発覚した日本スポーツ振興センターからの助成金「マネジメント機能強化事業」の不適切受給と同じである。原則として、国の補助金は3分の1、助成金が4分の1の競技団体負担分を受給者が肩代わりしていた。つまり団体負担分はゼロだった。
この専任コーチ制度については、JOCの第三者特別調査委員会がことし3月、既に全日本テコンドー協会など10団体でこうした不正があったと発表していた。文部科学省は競技団体から、JOCを通じ、補助金約7700万円分を返還させている。今回の検査院の調べも2010年度までということで、ことし3月時点のJOC発表から、さほど新たな事実は見当たらない。
専任コーチは今年度、ぜんぶで107人。ことし4月から、規則として、「当事者は競技団体に寄付をしてはならない」との文言を加えた。すなわち問題とするなら、4月以降の専任コーチにおいて、寄付による不正還流があるかどうか、だろう。
専任コーチ制度に絡み、読売新聞は「2010年度までの10年間の寄付総額は約2億5千万円に上るという」(9月29日朝刊)、朝日新聞では「団体が不正に回収した総額は2010年度までの10年間で少なくとも2億円前後に上るとみられる」(9月29日夕刊)と報じた。JOCや競技団体を取材したところ、既に不正受給分を返還したところが多く、まだ検査院の調査も続いているという。正確な数字は、検査結果を待つしかあるまい。
たしかに国の補助金の支給については、3分の1の受益者負担の原則がある。専任コーチ制度の場合、その趣旨は競技団体に責任と調達の努力を求めることにある。例えば、専任コーチ制度を利用して、ある競技団体が五輪メダルを目指すため、著名コーチを年1千5百万円の報酬で招請した場合、競技団体は1千万円の補助金をもらい、さらに5百万円をコーチに払わなければならない。だが、競技団体が著名コーチと事前に取り決めをし、5百万円を競技団体への寄付とすれば、実質、コーチは年1千万円の報酬で働き、競技団体は懐を痛めなくて済む。
これはズルである。もちろん、制度の趣旨には反していたけれど、昨年度までは使途が自由である以上、寄付自体を「不正」と決めつけるのはどうなのだろう。競技団体側に後ろめたさはあっても、悪意はなかったのではないか。私的流用ではなかろう。
むしろ専任コーチ制度のシステムが現状に即していないのではないか。約30年間、JOCの加盟競技団体を見てきたメディアとして、このシステムは現実的ではないと思う。
どだい財政的に豊かな競技団体と、貧しい競技団体を一律に対応しているところに無理がある。2010年度までの5年間の経常収益の平均を見ると、日本サッカー協会が約15億5千万円と断トツで、2位は日本バレーボール協会の約2億9千万円、3位が日本ラグビー協会の約2億4千万円となり、日本陸上競技連盟が約1億9千万円、日本スケート連盟が約1億7千万円、日本水泳連盟が約1億4千万円…とつづく。逆に少ない競技団体では、全日本テコンドー協会が最下位の約5千万円、日本アマチュアボクシング連盟が約5千1百万円、日本近代五種・バイアスロン連合が約5千4百万円…となっている。
競技団体の「体力差」は歴然である。弱小競技団体の事務局には「人」も「金」もない。弱小団体ほど、コーチはほとんどボランティアである。今回の問題が浮上した競技団体はほとんどがそういった弱小団体だった。
20年ほど前、JOCの専任コーチ制度の前身、主任強化コーチ制度では使途の領収書を求めていたこともあって、3分の1の負担ができず、泣く泣く、補助金を返上していた弱小競技団体が続出していた。
実は、いまでも事情はさほど変わらない。専任コーチ制度などの補助金システムは、裕福な競技団体有利の仕組みで、弱小団体では選手から負担金を集めたり、負担金不足で補助事業を返上したりするケースもある。
つまりは、この問題を契機とし、補助金システムの見直しが必要なのである。競技団体の3分の1負担を、JOCが請け負うことはできまいか。負担率を競技団体の体力によって、フレキシブルにできまいか。「透明度」を高めるとともに、現実に即した仕組みに変えるべきである。
【NLオリジナル】