「民族の祭典」「美の祭典」(オリンピア)
ドイツの女流映画監督であり、写真家であり、バレエ・ダンサーであり、女優であり、登山家であり、スクーバダイバーでもあったレニ・リーフェンシュタール。彼女が監督したベルリン・オリンピックの記録映画。
この作品を紹介するには、以下に引用した虫明亜呂無の文章を読んでいただく。それより良い方法は思いつかない。
「レニ・リーフェンシュタールにとっては、オリンピックは、彼女の映画のためだけに開催されたスポーツの祝典だった。彼女はこの映画の中に、彼女の考えているスポーツの美しさと、人間の意志と筋肉の動きを、それぞれ緊張と均衡を保たせて、申し分なく描写しつくした。(略)
ここに描かれているのは、ナチスの権威でもなければ、ナチスが全ドイツ国民を完璧に掌握しているということでもなかった。あるのは、スポーツする人間の躍動美であり、スポーツの場にのぞんだ人間の心理の緊張と動揺であり、その解放感と安堵感である。そして、一瞬のうちに競技という必要な課題がはたされたあとに残るスポーツそのものの虚無感と落魄感である。(略)
僕はこの『オリンピア』に登場してくる棒高跳びの西田修平さん(第二位銀メダル受賞)に後になって聞いたことがある。撮影は大会が終わって三日後、レニ・リーフェンシュタールに呼ばれ、夜の無人のスタジアムでおこなわれた。ポールを高く前方につきだすようにしてかまえ、スタートにはいる。そこだけを、何回も撮影された。(略)マラソンのシーンも合成である。ランナーが走るのを、実際に、レースの真上から撮ることはできない。背後に流れる白雲とすすきのコントラストも、後から挿入された。が、それらもすべて、完成された映画のなかでは劇的なモチーフになって、マラソンそのものを悲劇的なドラマにしたてるのに役立った。実写とモンタージュの勝利なのである。」(写真集「NUBA」/PARCO出版 より)