ロンドン五輪で「日本が負けた」原因は何だったのか?(松瀬 学)
『カネを出して金メダル数を増やせばいいのか~ロンドン五輪総括』
ロンドン五輪閉幕から1カ月余が経った。いまだ日本オリンピック委員会(JOC)やマスメディアではきっちりした検証が行われていない。日本の成績(金7個、銀14、銅17個)をどう評価すればいいのか。過去最多のメダル総数(38個)ながら、なぜ金メダルの目標を達成できなかったのか。五輪の熱気が冷めた今、改めて考えてみた。
だいたい、あの銀座のメダリストパレードの目的は何だったのか。50万人もの人々が沿道に集まったとはいえ、応援してくれたファンに感謝し、健闘をねぎらわれるべきは日本代表の全選手だったはずだ。多いと言うなら、少なくとも入賞者(8位以上)でパレードをすべきだった。あれは成果を最大限にアピールするための、メダル至上主義たちのイベントだった。
たしかに選手はよく頑張った。特にメダルの獲得競技数が前回北京五輪の9競技から13競技に広がったことを評価したい。卓球、バドミントンなど北京五輪で入賞止まりだった競技の多くで今回、初めてメダルにつなげている。味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)や文部科学省のマルチサポート事業による練習環境の改善もあるが、何より8年間による選手強化のたまものとみる。
ではロンドン五輪で日本は勝ったのか負けたのかと言われれば、金メダル以外は敗者なので、はっきりいって負けたのである。「なぜ銅メダルや銀メダルではダメなのですか?」とよく聞かれる。選手個々への評価はともかく、やはり国としてはダメなのだ。なぜなら、JOCとして、「金メダル数15-18個で全体5位以内」という目標を設定していたからだ。目標の半分以下の数にとどまる10位に終わったのだから、それは「惨敗」と判断すべきである。
ちなみに2004年アテネ五輪の金メダル数は過去最多タイの16個の全体5位、北京五輪のそれが9個の全体8位だった。もっとも金メダルの総数だけの比較では課題がぼやける。個人競技か、団体競技か。あるいは採点か記録か格闘技か、そういった細かい区分けの比較が必要だと思う。
日本の金メダルはすべて個人競技で、7個中6個が格闘技系だった。実はアテネ五輪では16個中10個、北京五輪では9個中6個が格闘技系の金メダルだった。うち柔道はアテネ五輪で8個、北京五輪では4個の金メダルを獲得していた。
ロンドン五輪の読み違いの一番の理由は、これまで金メダル量産競技の柔道の不振だった。JOCの皮算用では「6、7個」と見ていたが、1つだけに終わった。経験者が女子52㌔級の中村美里(三井住友海上)だけだった選手だけでなく、コーチングスタッフも五輪での「経験値」が足りなかった。日本柔道の勝ち方の「継承」が成されていなかった。これは大舞台になればなるほど、勝敗を左右することになる。
国別の金メダル数の多寡は、国としてのメダル戦略、支援体制、国際経験などによるものだ。金メダルを取るためには、素材発掘から一貫指導体制、海外派遣を含めた支援策が効果的となる。そういった意味で、日本は国、JOC、競技団体の戦略、強化システムが中国や韓国に比べると、脆弱に見える。
国の財政面の支援がどうかというと、日本の選手強化費はJOC補助が約26億円(2012年度)、文科省のマルチサポート事業という国のメダル有望競技への直接支援が約27億円となっている。合わせて、ざっと50億円。中国は選手強化の年間予算が約120億円、韓国は約106億円といわれている。
ロンドン五輪の金メダル数が中国は38個(銀27、銅23)、韓国13個(銀8個、銅7個)とメダルの中で最多となっている。なぜか。ターゲットを絞った強化戦略があるかないかの違いである。ただ日本では中国、韓国のような徹底したエリート選手強化、編成はできない。いや、やるべきではなかろう。
「世界5位」の金メダル数にこだわるなら、まず財政面での支援強化、選手強化費アップが必要となる。昨年、制定されたスポーツ基本法ではスポーツを国家戦略として推進するとされ、ことし春の策定のスポーツ基本計画(文科省)では日本の五輪での金メダル数の順位目標が「夏は5位以内、冬は10位以内」と設定された。
ただ、疑問は国家戦略として金メダル数アップを目指すことがどうなのか、である。目標をメダル(1~3位)数だけでいいかもしれない。オリンピック・ムーブメントとはなにも五輪大会だけを指すのではない。競技結果がすべてではない。
日本は中国、韓国とは違うスポーツ振興、強化の道を歩んでもいい。2020年東京五輪招致も踏まえ、日本のスポーツ力の目標設定そのものを、検討すべき時である。
【NLオリジナル】