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「パワーチェアーフットボール」を御存知ですか?(平野誠樹)

 先月の事になりますが、日本電動車椅子サッカー協会が「最高峰の大会」と位置付けしている「マルハンカップ第5回パワーチェアーフットボール・ブロック選抜大会」が、横浜の障害者スポーツ文化センター「横浜ラポール」にて開催されました。

 まず皆さんに「電動車椅子サッカー」とはどういう競技なのか説明したいと思います。

 国際的には、「パワーチェアーフットボール」と呼ばれています。この競技に参加する選手は、重度な障害を抱えているため、自力で車椅子を漕ぐことができません。そこで指や足など、わずかに残されている筋力で、動かすことが可能な体の部位を駆使して、ジョイスティックと呼ばれるコントローラーを巧みに操作して、電気で動く「電動車椅子」を使用して競技に臨みます。

 競技者の具体的な病名を述べると、筋ジストロフィーなどの筋肉系の障害、脳性麻痺、頸椎損傷などが主な病気です。

 日本では電動車椅子を使用する重度の障害を持つ者が、唯一チームスポーツとして楽しむ事ができるのが「電動車椅子サッカー」となっています。

 私自身も小さい頃からスポーツが大好きな少年でしたが、障害があることで実際にスポーツを楽しむ喜びを体感することはできませんでした。

 17歳の時に同じ病気を持つ仲間に誘われたのがきっかけで、電動車椅子サッカーとの運命的な出会いが訪れました。

 その時まではあくまでもスポーツは見て楽しむだけのものでしたが、初めてスポーツが自ら主体的に楽しめるかけがえのない存在になりました。

 私と同じように電動車椅子サッカーに出会ったおかげて、生きがいを見つけた選手は多いと思います。

 スポーツが自力で出来ることは、私にとって奇跡的なことで、その喜びを生涯忘れることはないでしょう。

 電動車椅子サッカーは、バスケットボールのコートで行われ、各チーム4人対4人で試合に出場します。1人がゴールキーパーで、残り3人がオフェンスとディフェンスをチームで連携してプレーします。

 競技の対象者は年齢を問われず、性別による線引きもないので男女が同じ土俵で競い合うことが出来ます。私が指導するチームには11歳の小学生から、上は50歳を超える選手まで在籍しています。主力メンバーの中には女性の選手もいます。


 競技で使用するボールは直径32.5cmで、通常のボールよりふた周りくらい大きいサイズです。電動車椅子の足台の前にサッカー専用のバンパーを装着して、そのフットガードでボールを操ります。

 日本国内では競技する電動車椅子の最高速度は6キロと決められています。これは日本の道路交通法で公道は6キロ以下で走行しなければならないという法律があり、それに基づいて国産の電動車椅子の速度は最大6キロに制限されています。

 海外ではそのような規制がない国々が多いので、ほとんどの外国製の電動車椅子は10キロ以上の速度で走行可能です。そのため国際大会では10キロで競技が実施されています。

 日本でもトップクラスのチームの選手は、ほぼ全員が外国製の電動車椅子を所有しています。それはなぜかと言うと、海外製の電動車椅子は速度が速いだけではなく、操作性も遥かに日本製より優れているからです。国産と外国産では比べものにならないほど選手が発揮できるパフォーマンスの質が異なってきます。分かりやすく言いますと、軽自動車とフェラーリ程の違いがあります。

 電動車椅子サッカーの競技規則の中で一番大きな特徴は、1人の選手に対して2人以上で対戦チームの選手がプレーに関与してはいけないという点です。

 2on1(ツーオンワン)というルールで、ボールを保持している選手から半径3m以内に敵チーム選手の2人以上が入ってしまった場合(プレーに関与した場合)、この反則が適用され、間接フリーキックが与えられます。

 これはボールに選手が密集してプレーが止まってしまう事を避けるための措置です。競技する選手は常に相手と味方の選手との距離感を意識して、プレーする空間認識能力が求められます。

 唯一、ゴールエリア内(ペナルティーエリア)ではビブスを着用しているキーパーと、同一チームのもう1名のみディフェンス時には2on1のルールが除外されます。

 それ以外の大きな特徴としましては、サイドラインからのキックイン(普通のサッカーで言えばスローイン)では選手は直接ゴールを狙ってもよいということです。

 あとは基本的には通常のサッカーと同じルールで行われます。どちらかと言えばフットサルに近い競技と言えます。フットサルと同様に選手交代の制限がありません。つまり一度ベンチに下がっても再度試合に出場することが可能な訳です。

 国際基準の大会では試合に出場する4名以外のベンチ入り選手の人数は、4名に制限されています。今年度から国内でも日本選手権など限定した大会のみこの規則が適用されています。


 先日、開催された「パワーチェアーフットボール・ブロック選抜大会」は、国際ルールと限りなく等しい条件で行われる最高レベルの大会でした。日本国内の競技規則では味わう事のできない、ダイナミックかつスペクタクルなサッカーが随所に見られ、とてもエキサイトした戦いが繰り広げられました。

 今年度のブロック選抜大会では、九州、中国、関西、北陸、中部、関東の6ブロックから8名の選手が選抜され、各ブロックが激突するハイレベルな大会となりました。

 この大会は国際基準と同じ10キロで行われることもあり、日本代表選手を選出するという視点において最も重要な位置づけの大会です。

 電動車椅子サッカーはパラリンピックの種目には今現在は選出されていませんが、2007年に記念すべき第一回ワールドカップが東京で開催され、その4年後の2011年にはフランスのパリで2回目のワールドカップが開催されています。

 日本代表は残念ながら4位、5位と不本意な結果に終わっています。次回のワールドカップは2015年に2大会連続で優勝しているアメリカ、もしくはブラジルにて開催される予定です。

 日本代表は力はあるものの、国際舞台で思うように実力を発揮できていません。次大会こそ悲願の優勝を実現させようと国内合宿などを通して、強化を進めています。その強化の柱の重要な一つとしてブロック選抜大会の定期開催が存在しています。

「パワーチェアフットボール・ブロック選抜大会」の詳細レポートは、後日掲載したいと思います。

写真:日本電動車椅子サッカー協会WEB SITEより