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2020東京五輪招致成功!それは体育からスポーツへの大転換!しかし……(玉木正之)

 東京が2020年オリンピック・パラリンピックの開催地に決定した。
 まずは、この快挙を心から喜びたい。

 IOC委員による投票は、大方の予想を覆し、東京と大接戦を演じると予想された有力候補のマドリッドが、早々と敗退。

 これは2024年の五輪開催を目指すパリが、前の大会で近隣の都市(マドリッド)が選ばれることを嫌ったところへ、東京のロビー活動が奏功した結果と考えられる。

 フランスのスポーツ庁関係者によると、投票前に下村文科大臣がパリを訪れ、24年のパリ五輪を支援する見返りに、フランス及びフランスが影響力を持つIOC委員の東京への投票の約束を取り付けた、との情報もある。

 その他、自民党の招致推進本部(幹事長=馳浩)を中心に、北朝鮮(アントニオ猪木)、中国(薗浦健太郎)への説得を含む外交努力が実ったとの情報も。それらを含む「チームプレイ」が上手く機能したのは確かのようだ。

 また投票時にIOC次期会長に立候補していたドイツのトーマス・バッハ氏が、22年に自国での冬季五輪開催(ミュンヘンまたはガルミッシュ・パルテンキルヘン)を企図しており、やはり近隣のマドリッドでの2020年五輪開催を嫌った、とも言われている。

 そのような思惑に加え、スペインの有力紙『エル・モンド』が、「マドリッドは既に51票の過半数獲得!」と、投票前日にIOC委員の顔写真入りで実名報道。

 これを不快に思った多くの委員が、マドリッドへの投票を忌避した、という声もある(前例として冬季五輪大本命だったスイスのシオンが、投票日の前に祝勝パーティを行い、それを腹立たしく思った多くのIOC委員が、イタリアのトリノに投票を変えた、ということもあった)。

 また前評判の高かったマドリッドだったが、直前になって意外と獲得票数が伸びず、激しいロビー活動を繰り返した結果、その行為(プレゼント?)が、かえってIOC委員に嫌われたとも言われている(実際、その「行為」をIOCから注意を受けたとの報道もあったが、今回の招致合戦でも、各都市はかなりの「実弾」を使った、と言う人も少なくない)。

 そこでトルコのイスタンブールが東京の決選投票の相手となったのだったが、最終プレゼンテーションは、よく言えば素朴だが、少々稚拙。そのうえ隣国シリアの内戦は、誰の目にも泥沼化。

 次回の五輪開催地である(W杯開催地でもある)リオデジャネイロ(ブラジル)の建設工事の遅れも指摘される現在、新興国の不安定さが嫌気されたことも、東京への追い風となった。

 一方東京は、病気で足を失ってもスポーツで立ち直ったパラリンピアン佐藤真海選手の感動的なスピーチを初め、誰もが興味深いメッセージでIOC委員の心を引き付けた。その結果が、60対36の大差で東京の勝利。

 確かに「敵失」や「国際情勢」にも恵まれたが、招致運動に関わった人々のプレゼンテーションやロビー活動など、すべての活動が周到に用意され、計算され、最良の結果をもたらした(東京が契約したイギリスのコンサルタント会社が、リオに続いて招致を成功させた力量を、高く評価する声もある)。

 この結果は、ともすれば閉塞的な空気の漂う昨今の日本で、多くの人々に勇気と力を与えたことは確かだろう。

 そして7年後の超ビッグ・イベントに向けて、社会全体が上昇志向で前進を開始する。そのこと自体は、やはり素晴らしいことといえるに違いない。

 折しも1964年の東京五輪で形作られた東京という大都市のインフラが、約半世紀を経て随所に寿命を迎え、大々的な改造が必要となっている現在、首都高速の地下化、第三の空港の整備、鉄道、バス等の完全24時間化、都市全体の緑化、そして全域の完全バリアフリー化など、東京は64年に開通した新幹線以上に、「経済効果」などという言葉では到底表せないほどの豊かな価値を伴い、まったく新しい大都市に生まれ変わるに違いない。

 そして、その中心に、スポーツがあるのだ!


 64年の東京五輪では、一部の強化選手を自衛隊体育学校や大学の体育会に送り込み、メダリストに鍛えるのが関の山で、多くの人々がスポーツを楽しむ「スポーツの裾野」の広がりはゼロだった。

 オリンピックを契機に、青少年の体力テストは始まったものの、手榴弾投げがソフトボール投げに変わり、旧陸軍式身体訓練の懸垂、逆上がり、跳び箱などが復活。そして年を経るとともにオリンピックでのメダル獲得数は減り続けた。

 しかし近年、水泳、体操、サッカーなど、目覚ましい成長を示すスポーツは、学校体育でなく、「クラブ」から生まれるようになってきた。

 そんなところへ、古い体育会系の世界を中心に体罰問題が次つぎと発覚。体罰を一切なくす取り組みが始まったところへ、2020年の東京五輪が決定したのだ。

 時代の変わり目とは、このことだろう。学校の上下関係のなかで行う体育ではなく、社会で誰もが自由に楽しめるスポーツへ。そんな「広い裾野」から「高い頂点」が生まれる。それが2020年東京五輪をきっかけに生まれる「新しいスポーツのカタチ」に違いない。

 建て替えられる新国立競技場は、スポーツ・グッズを扱う巨大ショッピング・モールや、スポーツ・ゲームのアトラクションも配置され、世界一流のスポーツが行われるだけでなく、ディズニーランドに負けないスポーツ・アミューズメントパークとしても人気を博し、従来の「体育館」とはまったく異なるスタジアムに生まれ変わるはず。

 2020年の東京五輪に向けて、あらゆる領域で、、体育からスポーツへの転換が進むはずだ。

 しかし……。
 そのようなオリンピックによる新しい時代への変革が、成功するか否か。それは、すべて福島の原発問題を(安倍総理がIOC総会で「国際公約」したとおりに)コントロールできるか否かにかかってる。さらに巨大地震対策も……。

 五輪招致成功で、日本のやるべき仕事は山のように増えた。が、どんな苦労も、克服できるはずだ。なぜなら、7年後にはオリンピックを開催できるのだから。半世紀前の親たちも、そうして頑張ったのだから……。

(共同通信配信+NBSオリジナル)
(写真提供:フォート・キシモト)