デジタル・ナルシスー情報科学パイオニアたちの欲望
著者:西垣通
出版社:岩波書店
価格:¥1,080
現代最先端の情報科学に携わる人々に関するレポート。読者の理解しにくい最先端の科学を丁寧に解説したうえで、科学者たちの人間性までも描いた筆致は見事。情報科学の世界でこれだけ面白いレポートが可能なら、スポーツ・ライティングの世界でも、スポーツそのものの面白さを描くと同時にスポーツマンの内面を描くことは可能なはずだ。「技術論」と「人間ドラマ」の融合は困難なことではない。ただし、それには、本書の筆者が身に付けている情報科学に対する知識と同程度のスポーツに関するあらゆる知識(歴史やルールや戦術や技術)を身に付けるデスク・ワークが必要になる。そのうえで、人間の内面までも描けるかどうかは、センスの問題だろう。
これまで、この国のスポーツ文学の世界は、センスのある人々がスポーツに対する勉強を怠ってきた結果、「人間ドラマ」は面白くても、「スポーツ」そのものが描かれないことが多かった。そして、そのあとを追うように、センスのない作家やジャーナリズムまでが「人間ドラマ」「人間ドラマ」と題目を唱え、スポーツそのものを無視して「人間」(スポーツマン)にスポットライトをあてつづけた。が、まあ、われわれは、スポーツを見てキャッキャッと騒ぐまえに、机に向かってこつこつとスポーツの勉強をつづけたほうが無難だろう。