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2020東京五輪招致決定か!?直前特集マドリッド猛追!!東京との「成熟都市対決」の行方は…!?(玉木正之)

 ここに紹介する2本の原稿は、いずれも2020年のオリンピック・パラリンピック開催都市決定に関する記事です。

 どちらも毎日新聞スポーツ面の毎週土曜日連載「時評・点描」に掲載された原稿に、大幅に手を入れたものですが、1本目の原稿は7月6日付紙面に掲載されたもので、そのときのイギリスの大手ブックメーカー(ウィリアムヒル)のオッズ(掛け率)は、「東京1.3倍、イスタンブール3.2倍、マドリッド6.0倍」というものでした。

 ところが、2本目の原稿が掲載された約1か月後の8月17日には、オッズは「東京2.1倍、マドリッド2.75倍、イスタンブール3.75倍」に変化しました。

 マドリッドの猛追! その間に、いったい何があったのか? 9月7日ブエノスアイレスIOC総会では、どういう結果が出ると予想されるのか? はたして2度目の東京オリンピックは、実現するのか……? 2本の原稿を順番にお読みください。

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★オリンピックは「外交力」の勝負!

 2020年の五輪招致合戦は、7月3日のIOC委員全員へのプレゼンテーションも終わり、立候補3都市が横一線に並ぶ大接戦の状態らしい。

 大震災からの復興と、いまも汚染水問題などの原発事故の事後処理問題を抱える東京……、経済危機と財政危機がおさまらないマドリッド……、反政府デモがトルコ国内全土に広がっているイスタンブール……と、各都市がマイナス点を競い合う状況とも言えるのが、今回の招致合戦の特徴だ。

 前回リオデジャネイロに敗れたマドリッドは、そのときの投票で最大32票、東京は22票を獲得。イスタンブールは2008年北京大会が決まったときの投票で、17票を集めた実績がある。

 ならば現在3都市とも20~30票の固定票を獲得し、総数約100票のうちの残る10~20票の浮動票を奪い合ってる状態と言えるだろう。

 投票は過半数を獲得した都市が勝利。1回目の投票では、どの都市も過半数獲得は無理だろうから、上位の2都市が最下位で失格した都市の集めた得票を奪い合うことになる。

 最終決定の日(9月7日)まで約2か月、3都市とも「票読み」と「票固め」のため、あらゆる機会(大勢のIOC委員が集まる世界水泳や世界陸上など)を利用してロビイ活動を展開するのだろう。

 が、2024年は前回のパリ五輪(1度目は1900年、2度目は1924年)から百周年にあたり、近代オリンピックの創始者であるクーベルタン男爵の母国フランスの首都パリでの記念大会開催が有力視されている。

 2022年の冬季大会は、次期IOC会長の呼び声高いドイツのバッハ氏がミュンヘン冬季大会(ミュンヘンが史上初の夏・冬開催地となること)を強く要望しているとの声も聞かれ、マドリッドは不利(西ヨーロッパでの開催が夏冬3大会続くことになるため)と言われている。

 だから、1回目の投票でマドリッドに「同情票」を入れたラテン系委員の心を、2回目の投票で掴んだ都市が勝利する?……という声もある。

 このようなIOCの選挙は自民党の総裁選に酷似している、とスポーツ議員連盟の代議士の方々は口を揃える。つまり、この選挙は、投票する人の「顔」がすべて見え、考え方もわかり、直接説得することもできる選挙だというのだ。

 それだけに東京の招致委員会の方々は最後のツメを誤らないよう全力を尽くしてほしいものだが、これは、現在の日本の外交力が評価される闘いとも言えそうだ。


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★招致結果にとらわれず……

 2020年のオリンピック・パラリンピック招致合戦もいよいよ大詰め。9月7日の最終投票が行われるブエノスアイレスでのIOC(国際オリンピック委員会)総会まであと3週間となった。

 この時期はライバル都市の動向を探ったりIOC委員の最終意志を確認するため、様々な怪情報が乱れ飛ぶ。

 リオデジャネイロに決定した2016年大会の投票直前も、オバマ大統領の演説でシカゴ有利、大逆転か?!との情報が聞こえてきた。

 しかしシカゴは、最初の投票で18票しか集めることができず、22票の東京よりも先に落選。だから今の時期の情報分析は難しい。

 今回も、今になって、「マドリッドが最有力に浮上!」との最新情報が飛び交っている。

 マドリッドは2024年のパリ五輪百周年記念開催がほぼ決まっているため、パリに近すぎて不利とか、国家財政危機で開催不可能(したがって、東京とイスタンブールの一騎打ち)といわれていた。

 が、トルコ国内の反政府デモの激化でイスタンブールに代わってマドリッドが浮上。ローザンヌでのIOC委員へのプレゼンテーションや、バルセロナで行われた世界水泳でのロビー活動で、スペインのフィリッペ皇太子の活躍が際立ち、多くのIOC委員の心を掴んだとも言われている。

 おまけにスペインの財政危機はEU全体のユーロ危機でもあり、ギリシアの轍を踏ませないためにも、マドリッドでオリンピックを成功させ、スペイン経済を好転させようという意見が、EUの総意として、またヨーロッパ全体の意見としてまとまったというのだ。

 なかなかリーズナブルな意見で、それを裏付ける欧州IOC委員の声もあるという。

 さらにある情報筋による1回目の投票の「票読み」は、東京35票(プラス2 マイナス5)、マドリッド38(プラス5、マイナス3)、イスタンブール25(プラス2、マイナス1)との「情報」も流れている。

 ならば最終決選投票で、東京とマドリッドが、イスタンブールの獲得した投票を奪い合うことになるが……。

 もしもマドリッドの2020年開催が決まると、2024年パリ開催が危うくなる。ならば東京はパリ(フランス)と手を結び、2024年のパリ開催を保証すると同時に、2020年の東京への投票を促す作戦に出るのか……。

 しかし2024年は、ロサンジェルスが3度目の開催を目指すとの声もある。最大のテレビ放映権料を支払っているにもかかわらず、オバマ大統領も力を入れたシカゴの五輪開催立候補が冷たくあしらわれるなど、最近までIOCとの関係のギクシャクしていたアメリカが、その関係をロンドン大会期間中に修復させることに成功し、IOCもアメリカ開催を積極的に支援するというのだ。

 ならば日本はフランスと組んでも、さほどの得票にはつながらないか……?

 オリンピックで行われる競技はスポーツだが、オリンピックは国際政治。開催地の決定にも、あるいは競技種目の決定にも、その政治的力関係が強く働く。政治ならば一寸先は闇。

 2度目の東京五輪を何とか実現してほしいと願うが、たとえ結果がどう転んでも、日本のスポーツ界の健全な発展と、それによる豊かな社会作り、そして被災地の復興は、大きく前進させてほしいものだ。

写真提供:フォート・キシモト