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「映像で見る国技大相撲」全20巻

 相撲はスポーツではない。もちろん勝敗を争う格闘技としてのスポーツの要素は存在している。が、それと同時に、相撲は神事でもある。多くの国々から集った力人(力士)たちは、一堂に会して四股を踏み、大地を固め、五穀豊穣を祈る。さらに大相撲は、江戸時代から続く人気興行の一面もある。過去には「スポーツ」の要素が強くなり、怪我で横綱が長期休場したり、休場する力士が続出したりして、ファンの不満が募り、人気に翳りが差したときもあった。逆に「興行」の要素が強くなり過ぎ、気の抜けたような取組が増加して、「土俵の鬼」と呼ばれた親方が激怒したこともあった。
 さまざまな局面で「神事」「スポーツ」「興行」の3本柱が、ときに一方に偏り、揺れ動きながらもバランスが保たれ、大相撲という日本文化は維持されてきた。それを勘案すれば、相撲界に「情」や「阿吽の呼吸」や「気」に基づいた「出来山(両力士が勝敗を仕組んだ一番)」「盆中(いわゆる片八百長)」「気負け(何らかの事情から片方の力士が真剣勝負を避ける一番)」などが存在することは、容易に想像できる。大相撲には、欧米から伝播した近代スポーツの基準では測れない奥行きの深さがあるのだ。

 この全20巻のDVDブックには、1936(昭和11)年春場所から2011(平成22)年初場所までの、名勝負が数多く収められている。なかには週刊誌によって「八百長」を告発された一番や、元力士による内部告発から星の売買を盛んにやっていたと非難された力士の一番もある。確かに、そのように見えなくもない一番もある。それでも、このDVDは面白い。美しい勝負、素晴らしい技の応酬に満ちているのだ。

 ある大横綱はこう言ったそうだ。

「最高な一番だったと観客を唸らせるような出来山を取れてこそ、一流の力士ですよ」