クライング・フィスト(泣拳)
かつてはアジア大会で銀メダルを獲得するほどのボクサーだったが、いまや「殴られ屋」でかろうじて生計を立てているテシク(チェ・ミンスク)。ケンカや恐喝に明け暮れ、収監された少年院でボクシングに出会ったサンファン(リュ・スンボム)。40歳と19歳。再起を賭けるふたりの人生は、リングでのみ交錯する。まるで「チャンプ」と「あしたのジョー」を混ぜたようなストーリーに、ありがちな演出。なのに涙が止まらないのは、リュ・スンワン監督のボクシングに対する深い理解が、映像を通じて伝わってくるから。クライマックスのファイトシーンでは、ボクシング中継と同様の位置にカメラを設置。ふたりの役者がほぼ演出なしに、6ラウンド殴り合う。この作品を観ながら、ジョイス・キャロル・オーツによる秀逸なボクシング・ノンフィクション「オン・ボクシング」の一節が思い浮かんだ。
「どうしてボクサーなんですか?」
彼は、答えた。
「詩人にはなれない。物語を語るやり方を知らないんだ・・・」(北代美和子・訳)