NBS創設記念!! 荒井太郎のどすこい土俵批評②名古屋場所回想/稀勢の里の無念(荒井太郎)
白鵬の連勝記録、2年半ぶりの土俵復帰となる蒼国来、稀勢の里の綱取りと話題満載だった先の名古屋場所。優勝はすんなり白鵬に決まったが、無敵横綱の連勝を止めたのはまたも稀勢の里。余勢を駆ってチャンスは秋場所につながるかと思われたが、千秋楽の黒星で綱取りは白紙となった。
15年ぶりとなる日本人横綱誕生なるか。国民が抱き続けていた大きな期待は、稀勢の里が3敗目を喫した7日目に早々と霧散してしまった。
横綱昇進の条件として高いレベルでの優勝が求められていた今場所。格下相手への取りこぼしは禁物のはずだったが、序盤で平幕力士2人に痛恨の黒星を喫してしまった。内容的にも初日から13連勝した夏場所とは程遠く、安定感に欠けていた。この日も不調に喘ぐ豪栄道に左を差され、右からおっつけられると棒立ちとなり、一方的に寄り切られた。これで場所後の綱取りは完全に立ち消えに。
「甘いっすね。今日も」と絞り出すような声。本来の動きが見られないのは体調が万全ではないのか。あるいはこれが初めて味わう綱取りの重圧なのか。「また明日から頑張ります」と力なく答えるのが精いっぱい。
皮肉にも快進撃が始まるのはここからだった。前半とはまるで別人のような取り口。相手に反撃の糸口すら与えない怒涛の攻めで連勝が伸びていく。
「いい流れで来ているので来場所につながるように、しっかり取っていければ」とプレッシャーから解放されてか、気力も充実しているようだった。
12日目は苦手としている琴欧洲に対し、立ち合いの変化にも難なくついていき左四つに組み止めると、相手が右を巻き替えにきた瞬間を逃さず一気に寄り立て、最後は巨体を預けて浴びせ倒した。
力強さと盤石さを取り戻した大関に対し、北の湖理事長は「12勝なら先場所の13勝がつながってくる」と残り3日間を全勝すれば、綱取りが秋場所にも継続されることを示唆。いったんは潰えた可能性が再び浮上したが、そのためには両横綱を倒さなければならない。
北の湖理事長の発言を伝え聞いた稀勢の里は「まあ、やることをやるだけですから」と気負いはない。翌日は横綱日馬富士に圧勝。14日目の白鵬戦を前に、再熱したムードは否が応にも盛り上がってきた。
果たして、白鵬がここ一番で見せるプロレスまがいの強烈な右カチ上げが、稀勢の里の顔面にクリーンヒットしたはずだが、大関は攻撃の手を緩めることなく果敢に前に出る。慌てふためく白鵬が左から張るがこれが大振りとなったところで右を差し、左上手も浅く引きつけ休まず寄り立て浴びせ倒し。
3年前、白鵬の連勝を63で止めたのに続き、今回も43連勝でストップさせたのは、またしてもこの男だった。
「特別な意識はない。前半は不甲斐なかったので、それぐらいしか…」。早々と期待を裏切ってしまったことへの罪滅ぼしにしては、あまりにも大きな白星だ。しかし―。
最後の最後で気負ったか、千秋楽は夏場所に続き、またしても琴奨菊に完敗。取組後は悔しさを押し殺し、報道陣の問いかけには最後まで無言を貫いた。
「いい勉強をさせてもらっている」。場所中に稀勢の里が何度となく口にした言葉だ。悔しい経験を経たからこそ、強い横綱になれた。のちにそう思える日が来ることを信じたい。
写真提供:フォート・キシモト
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