NBS創設記念!! 今季F1GPを根底から揺るがす“タイヤ問題”に対する提言!(今宮純)
まさに「タイヤ・シンドローム」が蔓延したイギリスGP(6/28~30)・ドイツGP(7/5~7)の2連戦だった。
F1ファンなら今シーズンは序盤戦から「トレッド剥離」というタイヤ・トラブルが多発していたことはご存じだろう。レース中に起こるタイヤ・トラブルには、グレーニング(ささくれ偏摩耗)、スロー・パンク(エア漏れ)、ブリスター(内部オーバーヒート)などがあり、これらは競技そのものに支障をきたすほど危険な事例ではなく、レース中にしばしば見られるように、ピットに戻りタイヤ交換すればレース続行できることだ。
だが、今季は序盤戦からタイヤのトレッド部が剥げ落ちる、かなり危険な現象が多発。
「ピレリの今シーズンのタイヤは、本当に安全なのか?」
という声がパドックでもささやかれていた。
しかし、タイヤ・サプライヤーのピレリも、同社を公式タイヤに認定したFIA(国際自動車連盟)も、のらりくらりとすぐに手を打たずにいたため、今季最初の超高速コース、イギリスGPのシルバーストーンではトレッド面ばかりか、タイヤそのものが縦方向に破裂崩壊(バースト)する重大事故が多発。「ついに」というか、「とうとう」心配された事態が発生してしまった。
タイヤのバーストは、上記したタイヤ・トラブルとは、全く次元が異なる。
一般の路上で起きたら、そのメーカーは直ちに製品すべてをリコールし、場合によっては“賠償金問題”にまで発展し、企業責任がマスコミから一斉に問われるような大事件だ。F1に従事するタイヤマン達にとっては、まさに身を切られるような出来事なのだ。
具体的には、フリー走行中にセルジオ・ペレス(マクラーレン)の左リアタイヤがバースト。決勝でも、ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)、フェリペ・マッサ(フェラーリ)、ジャン=エリック・ベルニュ(トロロッソ)、ペレスの左リアタイヤが相次いでバースト。エステバン・グティエレス(ザウバー)はフロントタイヤにトラブルが発生した。
また、バーストを免れたドライバーにも、交換したタイヤに傷が入っていたドライバーや、スロー・パンクチャーが起きていたドライバーもいた。ドライバーやチームはこの「起こるべくして起きた大事件」にレース後、「レースを打ち切るべきだった」とコメントする者もいた。僕自身も長くこのスポーツに携わって初めて、「競技中止」を支持する気持ちになった。
イギリスGP終了後、タイヤのバーストが多発した件について、以下の3点が原因として考えられると責任者のコメントが発表された。
(1)シルバーストーンでは「ターン4」と呼ばれるコーナーの縁石が高く、ここでバーストに見舞われている。
(2)バーストしたマシンはいずれも、リアタイヤを左右逆に装着していた。今季用のタイヤは構造が左右非対称であるため、左右逆に装着したことで負担が増大した。
(3)タイヤを正面から見た場合に、タイヤ角度が”ハ”の字に見えるキャンバー角の設定が極端になっていた。また極端に低い空気圧や、ピレリが推奨した値以下の空気圧にしていたことも原因になった。空気圧が低いことで、タイヤへの負荷が増大した。
このイタリア老舗タイヤメーカーのF1責任者のコメントには、正直、失望した。
シルバーストーンの縁石は、以前から一緒だし、リアタイヤの左右逆装着も過度のネガティブキャンバー角度や空気圧の下げ過ぎも、開幕戦から黙認してきたのはピレリ自身であり、いまになってそれをバースト原因に挙げ、そうしたことがなければ「安全性に全く問題はない」と言い切った態度は、開幕戦からの彼らの行動・態度とはまったく矛盾するからだ。
しかも直後のドイツGPでは、ケブラーベルトを使用した新タイヤの導入を決めるなど、安全性を強調しておきながら急きょスペック変更も実施したのである。
なお、ドイツGPを前に新タイヤの導入と安全対策についてピレリの方針が発表されたが、例えば僕ならば、下記のような取り組みを実施するだろう。
「今回のトラブルを深刻に受けとめるともに、ドライバーやコース・マーシャル及び観客に危険負担を強いたことを陳謝します。我々が調査分析したところによると、現在のF1パフォーマンスは想定以上に高まり、手もとにある“試験車(2011年型ルノー)”での実走データから、さらに20%の安全係数を上乗せした基準で開発努力を続けてきましたが、高速耐久性における不具合が発覚しました」
「これは、F1グランプリ競争原理を理解しつつ、2010年から安全・公平・均一な公式タイヤを準備してきた我々にとって想定外のことであります。直ちに対策すべく今後のスペックを再検討し、またそれを全チーム、全ドライバーによって“合同テスト”する機会を設けるよう、関係各位のご理解と協力を求めます」
「なおそれが実施される際には、(1)すべてのスペック・データを事前にチームに通達し、従来の担当エンジニアレベルのほか設計担当グループ員が対応。(2)全タイヤを工場出荷する際、“最終室内確認”を外部機関の協力を仰ぎ実行。(3)内圧やキャンバー、排気流設定などの調整に関しては責任を持って“推奨値”を指示したく、関係各位の遵守をお願いします」
以上は堅苦しいステートメントに聞こえるかもしれないが、イタリアの老舗タイヤメーカーにはこれくらいの覚悟というか、公式タイヤ・サプライヤーとしてのプライドを示して当然だろうと、僕は考えている。
同社は1950年のF1世界選手権創設イヤーの“チャンピオンタイヤ”で、今季の第9戦ドイツGPで通算90勝を達成。これは歴代1位のグッドイヤーの368勝、2位のブリヂストンの175勝、3位のミシュランの102勝に次ぎ、ダンロップ83勝を超える4位になるほどの老舗ブランドなのだから。(僕自身も、67年型ミニMKⅠにピレリを愛用したこともあるユーザーの一人だ)。
これに対し、F1ドライバーの組織GPDA(グランプリ・ドライバーズ・アソシエーション)は、F1ドイツGPに先駆けて、タイヤ問題が繰り返されるようであれば、レースをボイコットするとの声明を発表していた。が、金曜フリー走行後、GPDAから撤回が発表された。ドイツGPは無事実施され、今季はF1史上3人目のチャンピオンタイトル4連覇を狙うベッテルが優勝。母国GPを制して今季4勝目を挙げた。
以上、F1にはかなり辛口の批評に聞こえるかもしれないが、今、F1パドックに流れているチームのドライバーのタイヤへの不満、鬱積している不信感を僕なりに代弁させてもらったつもりだ。
このタイヤ問題は純粋に技術マターの話なのだからFIAもピレリもチームもドライバーも、それこそこのスポーツの原点に戻って足もとを見直す必要があるし、それなくしては今後のスポーツとしてF1の発展は、絶対にあり得ないと僕は考えている。
その点を今回のコラムでは強調しておきたい。