「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(249) 各スポーツ賞受賞者の顔ぶれで振り返る、パラスポーツ2018
あと2週間を残すのみとなった2018年ですが、12月に入り、大手新聞社がそれぞれ選ぶスポーツを対象とする賞の受賞者が続々と発表され、パラスポーツ界からも受賞者が出ています。それぞれ紹介しながら、2018年のパラスポーツを振り返ってみたいと思います。
毎日スポーツ人賞 (毎日新聞社/12月13日表彰式)
スポーツまたはスポーツを背景にした分野で実績を挙げた個人・団体を顕彰する賞で、1993年から続けられています。
パラスポーツ界からはただ一人、ウィルチェアーラグビーの倉橋香衣選手が新人賞に選出されました。 受賞理由は、昨シーズン、女子選手として初めて日本代表入りを果たし、活躍していることです。ウィルチェアーラグビーは男女混成の競技です。そして、選手の障害によって0.5〜3.5点の持ち点が与えられ、コート上の4選手の合計を8.0点以内に編成するというルールがありますが、女子が入ると、持ち点の上限が一人につき0.5点引き上げられるので、選手起用の幅が広がります。 大学時代にトランポリン競技中の事故で車いす生活となった倉橋選手の持ち点は0.5点。障害は最も重いクラスですが、攻守にわたり献身的で重要な働きを見せるなど、すでに日本代表に欠かせない存在感を放っています。今年8月には、オーストラリアで行われた世界選手権にも出場し、日本チーム初の世界制覇にも貢献しました。 毎日新聞紙面に掲載された、倉橋香衣選手の記事。表彰式でスクリーンに映し出された。(撮影:星野恭子)
ウィルチェアーラグビーの特徴である車いすでのタックルは衝突音もすごく、時には転倒もある激しいプレーです。でも、倉橋選手は、「怖いなんて、思わない。むしろ楽しいです」と涼しい顔。「もっとウィルチェアーラグビーの魅力を伝えていきたい」と話します。 受賞にあたり、「少しずつ男子の中で、しっかりプレーできるようになってきたように思う」と自身の成長を語るとともに、「2020年東京パラリンピックでの金メダル獲得に向け、1日1日を無駄にせず、競技に取り組みたい」と意気込みも語っていました。
日本パラスポーツ賞 (読売新聞社)
12月10日発表 2016年に新設され、今年で3回目となった日本パラスポーツ賞は、国内外の障害者スポーツ大会で優秀な成績を収めた選手やチームを表彰しています。大賞の村岡選手は、平昌(ピョンチャン)パラリンピックのアルペンスキーの座って滑る(座位)クラスで金1つを含む計5個のメダルを獲得。これは、冬季パラリンピック大会において日本の個人選手が1大会で獲得した最多メダル数となります。 2014年ソチ大会につづき2回目のパラリンピック出場となった村岡選手は3月9日、同大会開会式で旗手を務め、翌10日には滑降で銀メダルを獲得。日本勢メダル1号となり、チームに勢いを与えました。その後も出場するたびにメダル獲得を続け、最終日の回転でも銀メダルを獲得し、有終の美を飾りました。 優秀賞の新田選手も、平昌大会のクロスカントリースキーで金と銀の二つのメダルを獲得したことが評価されました。1998年長野大会以来、6大会連続出場のレジェンドで、2010年バンクーバー以来8年ぶりとなる、「復活の金メダル」でした。あきらめずに努力を続けることの大切さを、身をもって伝えてくれました。 もう一人、優秀賞に輝いた国枝選手は、車いすテニスの全豪と全仏オープン男子シングルスで優勝が受賞理由です。肘の故障の影響が長引き、ここ数年、苦しい日々を送っていましたが、4大大会での2勝で、「復活」を印象付けました。10月のジャカルタ・アジアパラ大会でシングルス優勝を果たし、2020年の東京パラリンピック出場も内定。母国でのパラリンピックで頂点への返り咲きが期待されます。 新人賞の宇津木選手は、アジアパラ大会100m平泳ぎでの金メダル獲得。今年は、200m平泳ぎのアジア新記録をはじめ、記録更新もあいつぎ、目覚ましい活躍を見せました。まだ、高校生。さらなる進化に注目です。
朝日スポーツ賞(朝日新聞社)
12月7日発表 スポーツの分野で優れた成果を挙げた個人、または団体に贈られています。もとは、1929年に創設された朝日賞(体育部門)で、1975年度 に朝日体育賞として独立後、1989年度から「朝日スポーツ賞」として対象がプロにも広げられています。
日本ブラインドサッカー協会(塩嶋史郎理事長)は、視覚障がい者と健常者が協力してプレーする競技の特長を生かし、普及活動を通して「共生社会」への理解を促進させていることが受賞理由です。 また、子どもたちを対象にした体験型授業「スポ育」や企業研修向けの「OFF TIME」などで、障害の理解や言葉によるコミュニケーションの重要性を広める活動も行っています。 競技の普及や選手強化を進めるにあたり、革新的な取り組みもさまざま行っています。早い時期から強豪国を招いた国際親善試合を開催したり、パラスポーツでは稀な有料試合の実施やFMラジオによる実況中継など、エンターテインメントとしての大会運営にも取り組んでいます。 同協会によるこうした活動は、パラスポーツの競技団体としては先進的な取り組みとして知られています。軌道に乗るまでは苦労もあったことと思いますが、「信じてやり続けること」の大切さを感じる受賞だと思います。 来年はいよいよ、東京2020大会の前年となります。パラリンピック出場に向けたポイントレースも始まりますし、プレ大会の開催なども続々と発表されています。受賞者の選出が困難になるくらい、多くの選手たちの大活躍を期待したいです。 さて、今年は今号が最終号となります。ご愛読ありがとうございました。来年もまた、パラスポーツの話題をいろいろお届したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
(文・写真:星野恭子)