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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(248) 写真家、越智貴雄さんが、「義足の女性たち」をテーマに写真展を開催。生き生きと輝く姿を、ぜひ!

2000年シドニーパラリンピックから、パラスポーツの写真を撮り続けている写真家の越智貴雄さんが12月3日から16日まで、虎ノ門ヒルズ(東京港区)で写真展を開催中です。「義足の女性たち」をテーマに厳選した42点が、3部構成で展示されています。円形の巨大な柱に巻き付けられた大型プリントが印象的な写真は、パラリンピアンの大西瞳選手の後ろ姿。大西選手が「大好き」というハイビスカスの花柄をあしらった義足が引き立つように、素肌を真っ黒に塗って撮影を行ったという (撮影:星野恭子)


 第1部は「女子義足アスリート」。義足をかっこよく履きこなす選手たちが、力強く、そして、しなやかに躍動する写真が並びます。 越智さんは、シドニーパラリンピックで初めて、パラアスリートの生き生きしたパフォーマンスを観て、「それまで、『助けてあげなくちゃ』と思っていた障害に対するイメージが、ガラッと変わった」と言い、以来、国内外のパラスポーツ大会で、パラアスリートたちを撮り続けています。 義足をつけて躍動するアスリートを撮るうちに、一方で社会には、「義足は隠すもの」という意識も存在することを知るようになります。そこで、スポーツ用義足制作の第一人者でもある義肢装具士の臼井二美男さんの協力も得て、アスリートだけでなく、アーティストや会社員など義足ユーザーの女性たちも撮影。2014年には、『切断ヴィーナス』という写真集にまとめられました。写真展の会場で、撮影秘話や撮影スタイルなどを観覧者に話す越智貴雄さん(撮影:星野恭子)


 美しく力強い義足の女性たちのショットが満載の写真集は大いに話題になりましたが、第2部はその『切断ヴィーナス』から厳選された写真が集められています。大型バイクにまたがっていたり、海でシュノーケリングを楽しんでいたり、義足で一歩を踏み出した女性たちの凛々しい姿が印象的です。 越智さんによれば、「1枚の写真」を撮るために、モデルの皆さんそれぞれに「どんな風に撮られたいか」の希望をじっくりと聞き、イメージに合う風景を探し時間をかけてロケハンをして回ったそうです。それぞれの「強烈な個性」が感じられるコーナーです。 第3部は、義足の女性たちによる、「義足のファッションショー」の様子を撮影した写真が並びます。「義足がより美しく映えるように」とデザインされた衣装に身を包んだ義足女性たちの笑顔があふれています。 すでに越智さんは、こうしたショーを2015年から国内各地で計11回も開催しているそうです。なかでも、繊維産業で知られる石川県の中能登町から声がかかって開催した、『切断ヴィーナスショー with FIBERS CREATORS』は、義足のヴィーナスたちと織物のつくり手たちがコラボした印象深いものだった、と言います。 というのも、こうしたショーでは、福祉的な啓もう啓発が開催目的となることが多いなか、中能登町の要望は、「町おこしのために来てください」だったそうで、越智さんは、「すごく嬉しかった」と振り返っていました。石川県中能登町で生産された世界最軽量の合成繊維を使った美しい衣装(左)と、ショーの1シーンを撮影した越智さんの写真 (撮影:星野恭子)

 第1部から3部までどの写真も、今にも動きだしそうな躍動感です。写真展は今週末16日(日)まで開催中です(詳細は下記)。お近くにいらした際は、ぜひお立ち寄りください。 

<越智貴雄写真展>日程: 12月3日(月)~12月16日(日)7時~23時会場: 虎ノ門ヒルズ2Fアトリウム *観覧無料協賛: 中外製薬株式会社参考: http://www.ochitakao.com/news/8671/越智貴雄さんの写真展のポスター。モデルは、リオ・パラリンピック日本代表の大西瞳選手 (提供:越智貴雄さん)   


■義足でイキイキ。三人三様に楽しむ、それぞれの毎日 写真展のサブイベントとして、8日午後にはトークショー「義足ガールズトーク」も行われました。『切断ヴィーナス』のモデルにもなった、アスリートの村上清加さん、イラストレーターの須川まきこさん、飲食店経営の小林久枝さんの3名と、彼女たちの義足を手掛ける義肢装具士の臼井二美男さんが参加し、フリーアナウンサーの遠田恵子さんの司会のもと、語り合いました。 3名の義足に対する思いから日々の生活、また、臼井さんによる義足に関する説明など、さまざまな話題で盛り上がったトークショーの一部をこちらでプレーバックします。

12月8日に虎ノ門ヒルズで開催された、「義足ガールズトーク」の出演者たち。写真家の越智貴雄さん(中央下)を囲み、左から司会の遠田恵子さん、アスリートの村上清加さん、イラストレーターの須川まきこさん、飲食店経営者の小林久枝さん、義肢装具士の臼井二美男さん (撮影:星野恭子) 

村上さんは2009年、電車事故により右足を太ももから切断し、義足生活になりました。臼井さんを通してパラ陸上と出会い、2017年世界選手権(ロンドン)にも出場。東京パラリンピックを目指すアスリートです。 須川さんは13年前に、悪性腫瘍のため、左足を股関節から切断。現在は、腰にベルトで固定する股義足(こぎそく)という義足を使っています。イラストレーターとして仕事をしながら、水泳やヨガも楽しんでいるそうです。ちなみに、12月10日から19日まで青山で個展を開催中です。こちらも、ぜひ! <須川まきこ個展 「舞毛」>日程: 12月10日(月)~12月19日(水) 11時~19時(日曜休廊/最終日17時まで)会場: SPACE YUI (東京都港区) *観覧無料参考: http://spaceyui.com須川まきこさんの個展の案内カード (提供:須川まきこさん) 

小林久枝さんは先天性の病気のため手術を繰り返した後、2010年に右足をひざ下で切断。義足になって「痛みから解放された。足があったときよりも義足になってからのほうが自由になんでも取り組めるようになった」と話します。今は横浜市で飲食店を経営しています。 そんな3人の義足をつくる臼井二美男さんは、鉄道弘済会義肢装具サポートセンターに勤務する義肢装具士として、30年以上のキャリアを誇ります。入社してすぐ、「義足で走れる人がいない」と気づき、「陸上クラブ」も設立。パラリンピアンも多数輩出しているクラブで、村上さんや小林さんもメンバーです。 ――『切断ヴィーナス』の発行について 臼井(以下、敬称略): 義足を使う美しい人たちを、「もっと多くの人に見てほしい」。できれば、「プロの手で撮影してほしい」と、越智さんに相談したのがきっかけです。 モデルは全部で11人。一人ひとりにドラマがあり、いろいろ乗り越えてきた歴史がある。(写真集は)自身の記念にもなり、それだけでも価値があるかなと思いました。 ――モデルのオファーがあったときの気持ちは? 村上: 正直な気持ち、「よしきた!」って思いました。例えば、ソケット(足と義足をつなぐ部分)に好きな柄を入れて「世界で一つだけの義足」が作れるなど、義足について、もっと知ってもらえるよい機会にもなる。ラッキーと思いました。 須川: 以前から、義足をモチーフにしたイラストを描いていましたが、イラストで描いたようなシーンを自分を被写体にして撮るという切り口が新鮮だなと思いました。撮影は、とても楽しい時間でした。 小林: 切る前の脚は、(手術痕などもあり)人に見られるのが嫌で隠したかったんです。でも、臼井さんがつくってくれた義足はかっこよくて、『見せて歩きたい』と思っていたので、(モデルの話は)嬉しかったです。 ――義足を履いてから、生活はどう変わりましたか? 小林: 一番変わったのは、痛みからの解放です。だから、やりたいことができるようになった。走ることもそうだし、痛みのために中断していた、地元の祭りでのお神輿担ぎも復活できました。 須川: 義足になってからのほうが意識して外出するようになり、海外へ行く機会も増えました。オーダーメイドで体にフィットする義足を臼井さんがつくってくれたので、おしゃれの楽しみも広がっています。 村上: 切断してすぐ、松葉杖をついて1本脚で外出したら、バランスがとれず大変でした。義足をつけたとき、『2本脚で立てるって、なんて素晴らしいんだろう』と思いました。そして今、『パラリンピックを目指す』という、想像もしていなかった夢を持ち、練習に励む毎日が大きな変化。臼井さんをはじめ、支えてくださる皆さんに、出場することで恩返ししたいですね。それぞれの義足をアピールする、左から、村上清加さん、須川まきこさん、小林久枝さんと、義足制作を担当する臼井二美男さん (撮影:星野恭子) 

――義足制作の苦労は? 臼井: 患者さんそれぞれに合わせた完全な個別対応で、一つとして同じ義足はないこと。体の状態も異なるし、また、「きつめが好き」や「緩めがいい」など着け心地の好みも違う。また、体重や筋肉量などの変化に応じた細かな対応も必要です。 今はまだ、日常生活用、スポーツ用、ハイヒールを履く用など、用途によって義足を付け替える必要があります。一つでなんでもできる義足を作るのは難しいですね。 ――今後、こんな義足があったらいいなという義足は? 小林: 茶道経験もあるので、できれば、きちんと正座ができ、自然に立ち上がれるような義足があったら嬉しいです。(現状では義足の特性上、足首の向きを調整する必要があるそうです) 須川: 今の義足にも十分、満足しています。普通に歩けるし、どちらが義足かわからないと言われるくらいに、きれいに作ってもらっています。ただ、10㎝くらいのハイヒールは履いてみたいなという思いもあります。 村上: (太ももからの義足で、膝には膝継手(ひざつぎて)という部品が使われていて)機能上、膝を曲げた状態で体重をかけることができないので、しゃがむのがとても大変です。和式のトイレなどで、楽にしゃがめる義足があれば、より助かるかなと思います。用途に応じて作られた義足。ハイヒール着用用(左)と、スポーツ用義足。越智さん写真展でも展示されている。(撮影:星野恭子)


 ――日常用義足と、スポーツ用義足の違いは? 臼井: スポーツ用義足は体重をかけるとたわむように作られています。その反発で義足が自然と前に出てきて走ることができます。日常用義足では脚が前にできません。 たわむことを考慮して、スポーツ用義足は少し長めに作ります。どれくらい長くするかは、ユーザーの筋力などによって変えています。 村上: 日常用の義足ではジャンプできませんが、スポーツ用義足はたわむので、ケンケンも縄跳びもできます。でも、「バネ」というイメージとは違って、ちょっとやそっとの力ではたわみません。体重をしっかりかけられるよう、使いこなすことが大切です。 ――ファッションとして義足をつけるときに、どんな風に工夫して楽しんでいますか? 村上: 義足を何本も持っているわけではないので、合わせる洋服で楽しみます。だから、私はソケットを黒にして、どんなスタイルにも合わせやすいようにしています。 須川: 普段は人の脚に見えるような外装をつけて覆っているので、義足だとは分かりにくい状態です。だから、自由にいろいろなスタイルを楽しんでいます。ただ、義足を見せるファッションショーでは義足がよりきれいに見えるようにスカート丈を工夫します。 小林: 私は義足を特に気にせず、着たい服を楽しんでいます。ちらりと見えるときもあれば、しっかり見えるときもあります。 ――東京2020パラリンピック大会に向けて、どんな社会になってほしいですか? 村上: ロンドン2012大会を観戦したとき、「選手を応援に来ました」というファンで客席が満席でした。2020年もそんな風になってほしい。私も、アスリートとして頑張りたいです。 須川: いろいろな国から、いろいろな人が来日すると思うので、都市として(インフラの)変化だけでなく、文化も成熟していくといいなと思います。私は応援する側ですが、選手の活躍を祈っています。 小林: 2020年大会が近づき、テレビなどでパラスポーツを目にする機会も増えています。もっと多くの人に興味をもってもらいたいですし、この熱や興味が2020年以降も長く続いてくれたらいいなと思います。 トークショーの最後には越智さんも登壇。『切断ヴィーナス』を発行して以降、「子どもの義足ユーザーからの、『写真を撮ってほしい』というオファーも増えている」と喜びを語ってくれました。写真集も、アスリートたちの活躍も、多くの義足ユーザーに勇気を与えているのだと思います。 すでに、『切断ヴィーナス』の第2弾の制作もスタートしているそうです。そちらの完成もまた、楽しみですが、その前にまずは写真展でヴィーナスたちの笑顔をどうぞ! 

(文・写真:星野恭子)