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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(246) 車いすバスケットボールの国際大会「北九州市チャンピオンズカップ」の意義

前号で、車いすマラソンについて世界をリードしてきた伝統ある大会、「大分国際車いすマラソン大会」をリポートしましたが、車いすバスケットボールにも、日本国内での普及に大きな貢献を果たした大会があります。2003年から毎秋、福岡県北九州市で開催されている「北九州チャンピオンズカップ国際車いすバスケットボール大会」(以下、北九州CC)で、15回目を迎えた今年も、11月16日から18日まで北九州市立総合体育館で開催されました。今号では今年の大会結果に加え、継続して開催される意義などをリポートします。

 初戦の対カナダ戦で、シュートを狙う髙柗義伸選手(18才)と、A代表でも活躍する鳥海連志選手(19/右)

北九州CCは、4年に1度開かれる、車いすバスケットボールの世界選手権が2002年、日本で初めて北九州市で行われたことを記念して始められました。2002年に、「市民による手作りの大会」 「バリアフリーなまちづくり」 をコンセプトに大会を開催したところ、車いすバスケットボールを通じて多くの市民の力が結集し、大会10日間で8万人を超える観客を集め、大成功を収めたそうです。この「車いすバスケットボール熱」が冷めないように、そして、北九州市が「バリアのないまちづくり」を進めるための象徴としてスタートしたのが北九州CCです。

15回目を迎えた今年の大会は、カナダ、オランダ、タイ、日本の4か国対抗戦が行われました。日本代表チームは2020年東京パラリンピックに出場する若手選手の育成を目的に、23歳以下の育成選手から選出された12名でチームが編成されていました。京谷和幸ヘッドコーチ(HC)の指揮のもと、昨年のU23世界選手権でベスト4に入った選手らに加え、今年初めて国際大会を経験した選手など、今後活躍が期待されるフレッシュな顔ぶれとなりました。 川原凛選手(21/左)と古澤拓也選手(22)はA代表として、8月の世界選手権大会(ドイツ)でも活躍した

大会は、4カ国総当たりの予選を行い、上位2チームが決勝戦へ、他2チームが3位決定戦に進む方式で行われました。日本は初戦のカナダ戦を接戦の末、54-50で勝利するも、オランダ戦では序盤のリードを逆転され、46−60と敗戦。予選最終戦のタイには63−32 で圧勝しましたが、他国の戦績により3位決定戦に進むこととなり、再戦となったタイに69−26と大勝し、第3位で今年の大会を終えました。

なお、オランダとカナダが顔を合わせた決勝では、予選で勝利したカナダが前半は主導権を握ったものの、オランダが後半に逆転し、39−32で優勝しました。また、3日間で延べ11,000人以上の観客が会場に足を運んで選手たちを力づけ、また、100人を超えるボランティアが大会を支えました。 園児や児童たちで埋まる客席。かわいらしい力強い声援が選手たちの力に。

京谷HCにお話を伺うと、「北九州CCは国際経験を積む貴重な機会」だと言います。ここ数年は、2020年大会を控え、国内で開かれる国際大会も増えてきましたが、以前は国際大会といえば、パラリンピックや世界選手権くらいで、国内開催はゼロ。海外遠征の機会もほとんどなかったのです。北九州CCをステップに世界に羽ばたいていった選手たちも少なくありません。

今年の大会で、日本は若手選手主体で臨みました。シュート力やチームワーク、試合への入りや進め方など手ごたえも課題も見つかったと言います。この経験を糧にさらなる成長と活躍に期待です。 大会期間中に何度か設けられていた、選手のサイン会も大人気。子どもから大人まで長蛇の列。なかにはお気に入りの選手に、携帯電話の背にサインをねだる人も

<北九州チャンピオンズカップ2018結果>

予選リーグ

日本 54−50 カナダ/オランダ 80−26 タイ/日本 46−60 オランダ/カナダ 54−40 タイ/日本 63−32 タイ/カナダ 53−38 オランダ

3位決定戦: 日本 69−26 タイ

決勝: オランダ 39−32

最終順位

優勝 オランダ/準優勝 カナダ/3位 日本/4位 タイ


バリアフリーの街づくりへの貢献も

北九州カップでは国際大会だけでなく、同じ会場で、「全日本ブロック選抜車いすバスケットボール選手権大会」と、「北九州市小学生車いすバスケットボール大会」も同時開催されているのが特徴です。

ブロック選抜大会は各地域で活動するクラブチームから選抜されたトップたちがチームを組み、競い合います。日本代表選手たちも、それぞれの地域に戻り、プレーしていました。20回目となった今年は全国から8チーム(東北・関東・東京・東海北陸・近畿・中国・四国・九州)が出場、予選リーグを経て、東海北陸代表が東京代表を59-32で下して優勝しました。

併催のブロック選抜選手権大会では、地域を代表する選手たちが頂点を目指し、躍動。写真は東京ブロック対九州ブロックの予選より 

今年から健常者の選手登録も認められ、大会に参加できるようになったそうです。車いすバスケットボールが障害者のスポーツに留まらず、皆で楽しめるスポーツとして、さらに広がっていくように思います。「やってみたい」と思った方はぜひ、地域で活動するチームにコンタクトしてみてはいかがでしょうか?

<ブロック選抜結果>

決勝: 東海北陸 59−32 東京

3位決定戦: 関東 71−55東北

準決勝: 東京 56−47 東北/東海北陸 65−78 関東

5位決定戦: 近畿 51−47 九州

7位決定戦: 中国 65−59 関東

予選: 東北 65−44 四国/東京 69−51 九州/関東 67−31

近畿 小学生大会は、北九州市内の小学5年生のチームが参加する大会ですが、選手たちは、いわゆる健常者であり、日常的に車いすを利用しているわけではありません。北九州市が、車いすバスケットボールを理解し楽しんでもらおうと、競技用車いすを毎年、希望する小学校数校に貸し出し、生徒たちは数カ月間、体育の授業などで練習を重ね、この大会に臨むのだそうです。 「北九州市小学生車いすバスケットボール大会」決勝戦で、松ヶ江北小チームが南小倉2チームに16-10で勝利

13回目となった今年は松ヶ江北小学校、南小倉小学校、八幡小学校の3校が参加し、熱戦の結果、松ヶ江北小が優勝しました。私は今年、初めてこの大会を観戦したのですが、生徒たちのレベルが高く、驚きました。また、大喜びする勝利チームに対し、号泣する負けたチームの様子を見て生徒たちが一生懸命に車いすバスケットボールに取り組んだことを感じました。

優勝チームの先生にお話を伺ったところ、車いすバスケット体験を通じて、生徒たちの障害者に対する意識の変化を実感しているそうです。例えば、街で見かければ自然に声をかけ、必要ならサポートをするといった生徒の姿も見られるそうで、教育的効果も高いようです。 優勝した松ヶ江北小学校チーム。今年6月から週に数回の練習を積み、栄冠に輝いた。「最初は難しかったけど、楽しかった!」

北九州市はまた、この大会を開催するにあたり、さまざまな工夫を凝らし、市民に浸透させ、継続させてきました。例えば、大会に出場するチームを早めに招き、開幕日の数日前には市内各地の小・中学校、幼稚園などに派遣。車いすバスケット体験会や生徒との交流会を実施しています。生徒たちは、訪問チームの国や文化を学び、選手たちとの交流を楽しむ機会にもなっています。

大会には、それらの学校が連日、応援に駆け付けていました。それぞれが手作りの応援旗などとともに訪問してくれたチームを応援するので、日本チームだけでなく、海外チームへの熱い応援も見られます。国際大会でありながら、アットホームな雰囲気を感じられるのも、この大会の特徴かもしれません。 オランダ対タイ戦で、熱い声援を送る観客席の様子

また、大会期間中の夕刻、偶然にも市内の繁華街でタイチームの選手たちとすれ違いました。夕食でも食べに皆で出かけたのでしょうか。大会も15年の歴史を重ね、こうした光景も北九州市民にとっては「日常」となっているように感じられました。 北九州市内の繁華街で見かけたタイチームの選手たち

また、大会組織委員会事務局のお話では、小学生時代に車いすバスケット大会に出た児童が成長し、数年後にボランティアとして大会を支える側に回ったり、観客として応援に訪れたりなど、「いい循環も生まれている」そうです。また、大会開催が地域に根付くことは、障害のある市民が街に出て社会参加することの後押しにもなっているようです。

北九州市が2002年の世界選手権大会開催を機に北九州CCをスタートさせ、バリアフリーな街づくりを浸透させてきたように、2020年東京パラリンピックも日本全体にそんな意識が広がる機会になることを期待したいと思います。 北九州CC開会式で、入場してきた日本チームを拍手と声援で迎える児童たち。海外チームの入場でも同じように歓声がわき、会場は“ウェルカムムード”に染まっていた


(文・写真:星野恭子)