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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(245) 2年ぶりの「オーイタ」で熱戦。

世界初の「車いすランナー単独の国際マラソン大会」としてスタートし、今年で38回を数えた伝統の「大分国際車いすマラソン」大会が11月18日に大分市で開かれ、16カ国から223選手(フル68名、ハーフ155名)が出走。熱戦となった男子マラソンは、リオパラリンピック金メダリストのマルセル・フグ選手が1時間23分59秒で、3年ぶり7度目の優勝を果たしました。

1秒差の2位に鈴木朋樹選手、同タイム着差で3位に韓国のユ・ビョンフン選手が入りました。9人の集団によるトラック勝負にもつれ込んだ迫力のレースは6位までが2秒以内差、9位でも8秒差という激戦でした。


大分国際車いすマラソンで3年ぶり7度目の優勝を飾った、スイスのマルセル・フグ選手(撮影:星野恭子)

フグ選手は風邪気味で体調万全でなかったこともあり、得意の先行逃げ切りでなく、集団のなかでレースを進め、最後は切れ味鋭いスプリント力で混戦のトラック勝負を制しました。昨年は台風の影響により大会史上初めて開催中止となり、7連覇を狙ってスタートした一昨年大会でも序盤の下りコーナーでまさかのコースアウトにより途中棄権していたこともあり、「久しぶりのオーイタで勝てて嬉しい」と笑顔を見せました。

好天微風の気象条件にも恵まれ、前半は世界記録(1時間20分14秒)ペースで進む高速のレースとなり、フグ選手は、「ペースが速くタフなレースだった。最初はタイムも狙っていたが、集団となったこともあり、勝負に徹することにした」と振り返りましたが、トラック種目からマラソンまでオールマイティな強さをもつフグ選手の底力が光ったレースでした。

約9km地点の弁天大橋ののぼり坂で、しのぎを削り合う男子の先頭集団。左から3番目の「4番」が優勝したフグ選手(撮影:星野恭子)

東京2020をにらんだ、日本人バトルも激しく

今大会は、老舗レースでの栄冠をにらみながら、日本人同士の「別の戦い」も繰り広げられていました。日本パラ陸上競技連盟(JPA)が派遣する、来年開催予定の「2019World Para Athleticsマラソン世界選手権大会(以下、世界選手権)」日本代表3名の選考会も兼ねられていて、日本人上位3名に入った選手は同選手権の日本代表に内定します。さらに重要なのは、この世界選手権で4位までに入ると、東京2020パラリンピックの国別出場枠が与えられ、JPAでは4位以内に入った日本代表選手は2020年大会の代表候補選手として日本パラリンピックに委員会に推薦することを発表していたからです。

今大会は、老舗レースでの栄冠をにらみながら、日本人同士の「別の戦い」も繰り広げられていました。日本パラ陸上競技連盟(JPA)が派遣する、来年開催予定の「2019World Para Athleticsマラソン世界選手権大会(以下、世界選手権)」日本代表3名の選考会も兼ねられていて、日本人上位3名に入った選手は同選手権の日本代表に内定します。さらに重要なのは、この世界選手権で4位までに入ると、東京2020パラリンピックの国別出場枠が与えられ、JPAでは4位以内に入った日本代表選手は2020年大会の代表候補選手として日本パラリンピックに委員会に推薦することを発表していたからです。

それぞれが戦略をもって臨んだレースは、最終的に2位に入った鈴木選手のほか、4位の山本浩之選手と5位の西田宗城(ひろき)選手が代表内定を勝ち取りました。鈴木選手は、「日本人1位は取りたいと思っていたので、嬉しい。世界選手権では4位に入って(東京パラの)出場権を得たい」と喜びと意気込みを語りました。

鈴木選手は現在、トラック(800m、1500m)をメインとしており、スプリント力には定評があります。一昨年のレースでは山本選手との長丁場のデッドヒートに消耗し、トラック勝負に1秒差で敗れて2位に終わった反省を胸に、「今年は集団の中で自制し、周囲の選手の動きを見ながら、冷静にレースを展開できた」と自身の成長を評価。2位という結果にも、「マルセル(・フグ)選手には勝ちたかったので残念だが、スプリント力をさらに磨けば、マラソンでも勝ちに行ける手ごたえは得られた」と自信を口にしました。

全体では2位、日本人では1位になり、上位3人に与えられる来春の世界選手権代表に内定した鈴木朋樹選手(撮影:星野恭子)

また、全体4位で日本人2位となった山本選手はマラソンを専門とし、リオパラリンピックにも出場しています。今シーズンは例年と異なり、大分の前にもレースがつづき、「うまくピークを合わせられなかった」というなか、ベテランらしく集団の中で戦況を読んでいたと言います。「スプリント勝負は苦手」としながらも、うまい位置取りと、「最後は両腕が攣っていた」そうですが、「根性で漕ぎ続け」、一人を交わして4位に食い込む気持ちの強さを発揮。

「総合3位以内が目標だったので、それは逃したが、(代表内定を得て)最低限の仕事はできたかなと思うし、次のレースに糸が一本つながる走りはできた」と安堵の表情を見せました。世界選手権の詳細は国際統括団体の世界パラ陸上競技(WPA)からまだ発表されていないものの、「確定したら、今度はきっちりピークを合わせて頑張りたい」と、リオにつづくパラリンピック代表に向け、闘志を燃やしていました。

内定3人目に滑り込んだ西田選手もマラソンが専門で持久力が持ち味の選手。競技場にはトップで帰ってきたものの、スプリント力に勝る選手たちに交わされ、5位に終わりました。それでも、初出場を目指す東京パラリンピックにつながる世界選手権への切符を手にし、「最低条件はクリアできた」と笑顔を見せました。

西田選手は現在、持ち味を生かしてロングスパート力を磨いていると言います。車いすマラソンでは、駆け引きや風の抵抗などを避けるため、集団でレースが進むことも多いですが、そうなると、トラックでのラストスパートではスプリント力のある選手が有利になりやすく、また、人数が多いと位置取りも難しくなってきます。西田選手はこの日、序盤から積極的に仕掛け、集団の人数を減らしたり、他選手の体力を削ろうと何度も揺さぶりをかけていました。

「トラックで抜かれての5位は悔しいが、優勝を目指し、積極的なレース展開はできた。(スプリント力という)自分の課題も明確なので、世界選手権に向けてしっかり調整したい」と前を向いていました。

女子マラソンを制した喜納選手。「レーサーを抱いて寝たい」

女子マラソンは、喜納翼(きな・つばさ)選手が1時間39分36秒の自己新記録をマークし、2連覇を達成しました。9月のベルリン大会で1時間36分53秒の世界記録を樹立したマニュエラ・シャー選手(スイス)が当日になって体調不良で棄権したなか、喜納選手がチャンスをものにし、世界選手権の代表にも内定しました。

自己ベストをマークし、女子で2連覇を飾った喜納翼選手。「相性ばっちり」の相棒、レーサーと(撮影:星野恭子)

「目標タイム(1時間40分切り)を越えられたので、素直に嬉しい」と満面の笑顔で喜びを表現。スタート前は、「ものすごく緊張した」といい、またシャー選手も不在となり、スタートしてすぐに一人旅となり、「心細かったが、常に後ろから追われているプレッシャーがあり、必死で(リムを)回し続けた」と振り返りました。

勝因に挙げたのは、この夏に新調したばかりのレーサー(3輪の競技用車いす)です。とくに「下り坂での推進力がすごかった」と言います。レーサーは自身の脚の代わりでもあり、トップ選手になると体のサイズに合わせたフルオーダーになりますが、それでも、さらにフィットするようさまざまなパーツをミリ単位で微調整していくことが必要になります。例えば、車輪を回すリムは、最も効率よく力を加えられるように、腕の長さや可動域に合わせて直径を調整したり、また、前傾姿勢で乗り込むので、体の負担を減らして長時間漕ぎ続けられるよう、座面にシートを入れて最適な高さを探ったりします。

まだ乗り始めて数カ月のマシンですが、喜納選手は、「(優勝は)レーサーの性能に助けられた。相性はばっちり。今日は抱いて寝ようかと思うくらい」と再び笑顔に。でも、次の目標を聞かれると、「エンジン(となる自身の体)をもっと鍛えたい。筋力もつけ、体の使い方ももっとうまくなって、いいマシンをもっと生かせるようになりたい」と、きりっとした表情でさらなる成長を誓っていました。

車いすマラソンは、下り坂で時速50キロを超すようなスピード感と集団でのダイナミックな駆け引きが魅力です。来年3月3日(日)に開催予定の東京マラソンは、車いすマラソン6つのメジャー大会の一つでもあり、今大会の上位選手たちはもちろん、海外の強豪選手たちが集結するレースとしても知られます。概要が発表になったら、また、こちらのコラムでも見どころなどをお伝えしたいと思います。迫力あるレースをぜひ、間近で体感ください。

(文・取材:星野恭子)