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佐野稔の4回転トーク 18~19シーズン Vol.④ ライバル不在のなか、宇野昌磨が危なげなく初優勝 ~ 「NHK杯」を振り返って

ジャンプで回り過ぎても、大差で優勝

  6週間に渡って争われるグランプリ・シリーズの第4戦「NHK杯」で、この大会初出場となった宇野昌磨が、危なげなく初優勝。「スケート・カナダ」に続く2連勝で、12月に行われる「グランプリ・ファイナル」進出を決めました。

 本人の言葉を借りると、ショート・プログラム(SP)の4回転トゥ・ループは「回り過ぎて」「着氷する位置を見失って」の転倒。いざ本番になるとアドレナリンが出て、コントロールが利かなくなるのでしょうか。思い返せば、昨シーズンの前半戦でも「理由は分からないが、身体が動き過ぎる」と言って、「全日本選手権」では回り過ぎを解消する狙いで、4回転トゥ・ループ-2回転トゥ・ループを、ダブル・アクセル-4回転トゥ・ループに変更したことがありました。

 だったら、疲れの出てくるプログラムの最後に4回転トゥ・ループを持ってくれば、ちょうど良くなるんじゃないか…なんて冗談も言いたくなりますが(笑)。今回はFSの後半に跳んだ2本目の4回転トゥ・ループでも失敗していましたので、「回り過ぎ」だけが原因とは言えないのかもしれません。

 試合後に樋口美穂子コーチが「練習から変えないといけないのかなと思う」とコメントしていましたが、4回転トゥ・ループについては苦手意識が膨らまないうちに、しっかりと確認するのが得策でしょう。  

 そのほか、FS冒頭の4回転サルコゥが回転不足となりましたが、ジャンプの質自体は良かったので、こちらはさほど神経質になる必要はないと思います。ただ、本人も課題にあげていたように、このところFSをノーミスで滑り終えることができていません。

 過去3度出場した「グランプリ・ファイナル」で、宇野は3位、3位、そして昨シーズンが0.5点差の2位。今度こそ表彰台の頂点に立つために、プログラム構成を固めて滑り込み、最後まで隙のない「月光」を演じて切って欲しいと思います。

他の追随を許さない。宇野、羽生、チェンの3強時代

 いくつかの課題はありましたが、演技全体を通して見ると、少し大人っぽくなった印象があり、成長の跡が見てとれました。2位のセルゲイ・ボロノフ(ロシア)とは20点以上の差がついたように、正直ライバル不在の感は否めませんでした。

 今シーズンここまでのグランプリ・シリーズを振り返ると、男子は宇野、羽生結弦、ネーサン・チェン(アメリカ)、この3人の実力が抜きん出ています。彼らに続く面白い存在になるかと期待されていたビンセント・ジョウ(アメリカ)やドミトリー・アリエフ(ロシア)なども、まだまだそのレベルには至っていません。  

 今回、3度の4回転ルッツがいずれも回転不足か失敗に終わったジョウのように、高難度の4回転ジャンプに挑戦する選手はいるのですが、今シーズンのルール改正により、ただ難しいジャンプを跳んだだけでは、得点につながりません。それも彼ら3人に水を空けられている大きな要因です。

 宇野、羽生、ネーサン・チェンの4回転ジャンプは、それぞれひじょうに質が高く、その上で多くの種類を跳びこなしています。3強とそれ以外の選手とでは歴然とした差があります。その差を詰めるためには、技の難度ではなく、正確さや芸術性を追求する必要があります。そういった意味では、ISU(国際スケート連盟)の狙い通り、なのかもしれません。