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佐野稔の4回転トーク 18~19シーズン Vol.③ 重圧に左右された坂本、白岩。驚きの仕上がりの髙橋大輔~ グランプリ・シリーズ第3戦「フィンランド大会」&「西日本選手権」を振り返って

2日間で明暗が入れ替わった坂本と白岩

 ショート・プログラム(SP)では、得意なはずのジャンプで2度転倒。坂本花織はまさかの7位スタートとなりました。2週間前の「スケート・アメリカ」で2位に輝いていただけに、この大会の結果次第で、グランプリ(GP)・シリーズ上位6選手による「GPファイナル」出場できる…。頭のなかがそんな意識で埋め尽くされて、プレッシャーになっていたとしか思えません。あそこまで大きく坂本が崩れるのは珍しい。欲をかくと、必ず落とし穴が待っている。それがフィギュアの怖さです。

 昨シーズンの彼女は、全日本選手権、四大陸、そして平昌五輪と、勢いよく駆け上がっていきました。無欲の勝利だったかもしれません。今回のように、自分で決めた順位を狙いに行くのは、シニアで初めてのことではなかったでしょうか。

 ただ、落ちるところまで落ちて開き直ったのか。「強気に行って、ごぼう抜きしたい」と話していたフリー・スケーティング(FS)では、しっかりと立て直してみせました。特にジャンプ以外の要素で多くの加点が付く、素晴らしい内容でした。

 平昌でアリーナ・ザギトワやエフゲニア・メドベージェワ(いずれもロシア)といったメダリストたちとは、表現の部分で差があることを実感して、オフの間から重点的に取り組んできたのでしょう。そうした努力が実を結びつつあるのか。ほぼノーミスの演技で総合3位まで巻き返してみせました。

 スピード感あふれるSPで2位に着けた白岩優奈でしたが、あまりに良いスタートを切ったために、FSでは守りに入ってしまったのかもしれません。今シーズンからより基準が厳しくなったこともあり、ジャンプがことごとく回転不足と見なされ、総合4位に順位を落とし表彰台を逃しました。フィギュアで良い演技を2日間揃えるのは、そんなに簡単な話ではないのです。

 ただ、坂本にも言えることですが、こうした経験を積み重ねていくことで、スケーターは強くなっていきます。きっと良い勉強になったはずです。

この1ヶ月で驚くほどに見違えた髙橋大輔

 日本国内では、12月の全日本選手権を目指した熾烈な戦いが続いています。そのなかで4年ぶりに現役復帰した髙橋大輔が西日本選手権で優勝、「全日本のFSの最終グループで、羽生や宇野と滑る」という目標に、また一歩近づきました。

 正直驚きました。復帰最初の試合となった10月初めの近畿選手権の演技と較べて、雲泥の差があったからです。もちろん4年近く競技を離れていたのです。あちこちがサビ付いていて当然です。近畿選手権のときには、まだまだサビが落ち切っていませんでした。

 ですから、私は12月の全日本選手権までの約3ヶ月の間で、どれだけ状態を戻せるだろうか。そういった見方をしていたのです。ところが、復帰初戦からまだ1ヵ月ちょっとしか経っていないなかで、まさかあそこまで仕上げてくるとは…。こちらの予想を遥かに超えていました。

 4回転ジャンプこそ跳んでいませんが、3回転はパンクする(ジャンプのタイミングが合わずに予定より回転数が減ってしまうミス)ことなく、すべて着氷してみせました。近畿選手権のときには、まるでトリプル・アクセルを覚えたばかりのジュニアの選手のような転倒をくり返して、1本も入れられなかったのです。が、今回はきっちりと2本成功。「トリプル・アクセル+3回転トゥ・ループ」もクリーンに決めて、今年改正された新ルールにもよく対応しています。

 体力的には相当厳しいはずです。しかもFSの競技時間が今シーズンから30秒間短くなったことで、息を整える暇がなくなり、むしろ選手の負担は増したと言われているのです。スピンが失速するなど、さすがに演技終盤には、疲労の色が隠せません。それでも、いまの髙橋大輔が持っているモノすべてを出し切って、13年以来5年ぶりとなる全日本選手権の出場権を、掴み取ってみせました。

 前回の近畿選手権からの1ヵ月で、ここまで仕上げてきたことを考えると、1カ月半後の全日本選手権では、いったいどんな髙橋大輔を見せてくれるのか。32歳の挑戦が、ますます楽しみになりました。