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佐野稔の4回転トーク 18~19シーズン Vol.② 最高難度の大技を披露して、羽生結弦が最高得点で優勝 ~ グランプリ・シリーズ第3戦「フィンランド大会」を振り返って

完璧な演技でなくても、他の追随を許さず

 ショート・プログラム(SP)ではコンビネーションジャンプの着氷に若干の乱れがあり、フリー・スケーティング(FS)前半の4回転ループと4回転トゥ・ループが回転不足と、羽生結弦の演技はけっして完璧ではありませんでした。にも関わらず、SP、FSのいずれも今季世界最高得点をマークしての完全優勝。2位のミハル・ブレジナ(チェコ)に約40点もの大差をつけての圧勝です。ひとり別次元の強さでした。

 平昌五輪以来の公式戦となった9月の「オータム・クラシック」では、結果は優勝だったものの、足替えのシットスピンが無得点になったり、FS冒頭の4回転サルコゥで転倒したりと、不本意な内容に終わっていました。

   もちろん66年ぶりとなる五輪2連覇の大偉業を達成したのです。当面の目標やモチベーションを見失ったとしも不思議ではありません。そんななか今シーズンの羽生は、少年時代の憧れのスケーターだったジョニー・ウィアーと エフゲニー・プルシェンコのプログラムを採り入れ、「勝ち負けに固執せず、初心に戻ってスケートを楽しみたい」「自分のために滑る」ことを表明していました。

   ですが、「オータム・クラシック」での納得のいかない演技が、王者のプライドに火を点けたようです。これまで8シーズン出場したグランプリ(GP)・シリーズの初戦で、1度も優勝したことがなかったこともあって、今回は相当勝利にこだわっていました。

   SPの4回転+3回転の連続トゥ・ループを、基礎点が1.1倍になる後半に組み替え、FSではより高い得点が見込めるジャンプ構成にしてきました。やはり勝負師なのでしょう。限界に挑戦したい。自分に勝ちたい。勝負ごとは勝たないと楽しめない。

   「オータム・クラシック」では、今シーズンから30秒短縮された4分間のFSに、まだ馴染めていなかったのですが、今回はしっかりと対応してきました。闘志その気になった羽生結弦に勝てる選手は、いま世界に見当たらない、といったところでしょう。

羽生ならではの「4回転トゥ・ループ+トリプル・アクセル」

 なかでもFS後半に披露した「4回転トゥ・ループ+トリプル・アクセル」は衝撃的でした。世界の名だたるトップ・スケーターたちでも、ちょっと真似できない。そもそもやってみようと発想すらしない。世界最高難度のジャンプ・シークエンスです。

 普通トリプル・アクセルを成功させるには、相応の高さと速さを生み出す助走が必要です。ですが、羽生は4回転トゥ・ループを右足で着氷してから間髪入れずに、左足で踏み切りトリプル・アクセルを跳んでみせました。 着氷してからの流れが淀みなくスピードが落ちない4回転トゥ・ループの質の高さと、トリプル・アクセルを助走なしに高い確率で成功できる技術力がなくては不可能です。

 公式戦では世界で初めての連続技だったそうですが、もしも体操競技だったら「ユズ・オリジナル」として、自分の名前がついてもおかしくないくらい。羽生ならではの大技だと言えます。

   しかも体勢は崩れたとはいえ、体力的に厳しい演技後半にやってのけたのですから、恐れ入ります。それでも本人は出来栄え点(GOE)がマイナス評価だったことで「加点が付かなかったら意味がない」と不満げでした。おそらく、この「4回転トゥ・ループ+トリプル・アクセル」は、ひとつのプロセス。その先には、夢のクワッド・アクセル(4回転半ジャンプ)をイメージしているのではないでしょうか。