ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(243) ブラインドサッカー日本代表、強豪アルゼンチン代表に1―3で敗戦。つかんだ手ごたえと課題

視覚障がい者を対象にした5人制サッカー、ブラインドサッカーの国際親善大会「チャレンジカップ2018」が4日、町田市立総合体育館で行われ、世界ランキング9位の日本は、同2位のアルゼンチンと対戦し、先制点を挙げるも1-3で敗れました。

今年初開催された「チャレンジカップ2018」。進化中の日本代表と世界クラスのアルゼンチン代表との高いパフォーマンスは、約1,800人の観衆を何度も沸かせた (撮影:星野恭子)

アルゼンチンは、リオパラリンピック銅メダルで、今年6月に行われた世界選手権準優勝の強豪です。日本は2007年の初対戦以来、過去4回で1分3敗しており、今大会で初勝利を目指して善戦しましたが、惜しくもかないませんでした。

試合序盤から攻撃的な戦いぶりを見せた日本は前半3分、ゴール前の混戦から川村怜キャプテンが粘って、こぼれ球を右足で押し込み、先制。このゴールは、日本がアルゼンチンに対し、史上初めて挙げた得点でもあり、初勝利に向けて幸先のよいスタートを切りました。

対アルゼンチン戦で日本人初のゴールを決めた川村怜(りょう)キャプテン。日本チーム屈指のフィジカルとテクニックを合わせ持つエース (写真提供:日本ブラインドサッカー協会)

その後は高いテクニックとフィジカルの強さを誇るアルゼンチンも少しずつペースを取り戻し、日本陣地に攻め入ります。一進一退の攻防が続き、15分には田中章仁選手のファウルによるペナルティキックをゴールキーパー、佐藤大介選手がファインセーブする場面もあり、会場は大いに沸きました。

しかし、前半終了間際の19分に、アルゼンチンのF・アッカルディ選手が自陣で奪ったボールをドリブルで運び、ディフェンス3人をかわして同点。前半は1-1で終了しました。

後半はスタートからアルゼンチンが猛攻を仕掛けます。日本は相手コーナーキックからの再三のピンチをよくしのいでいましたが、強いフィジカルが持ち味のエース、M・エスピニージョ選手に10分、17分と追加点を奪われ、初白星はなりませんでした。

2得点でアルゼンチン勝利に貢献し、MVPに選ばれた、マキシミリアーノ・エスピニージョ選手

2015年から日本代表を率い、攻撃的な戦術を導入して強化を進める高田敏志監督は試合後、「(先制し)引き気味になったところで得点された。前半に同点にされなければ、展開は違ったかもしれない」と悔しさをにじませました。

それでも、8月の南米遠征でアルゼンチンと戦い0-0の引き分けだったときは、「ほとんど攻めることができなかった」と振り返り、「今日は前線にボールをかなり運ぶことができ、前から仕掛けて押し込めたのは評価できる」と手ごたえも口にしました。

黒田智成選手(左)は得意のドリブルで、アルゼンチン守備をかわす (撮影:星野恭子)

また、過去完封されていたアルゼンチンから初得点をあげた川村選手はこぼれ球を粘り強く得点につなげたシーンを、「ボールを持ち直すと相手に寄せられると思った。ボールの音はよく聞こえていたので、(右足を)振り切った」と振り返りました。でも、「(アルゼンチンの壁を)こじ開け、リードしたことはポジティブにとらえたいが、前半に追いつかれたことは反省。強豪に対するゴール前の(守備の)強度に課題を感じた。もっと世界レベルを意識した1対1のデュエルを練習したい」と決意も語りました。

この大会は、2020年東京パラリンピックに向けた競技の普及とメダル獲得を目指す日本代表の強化を目的に、日本障がい者スポーツ協会と日本ブラインドサッカー協会が新設した親善大会で、来年まで2年連続、東京都内での開催が決まっています。今大会で得た手ごたえを自信に、つかんだ課題に取り組み、さらなる成長に期待です。

エンターテインメントとしての挑戦も

今大会は国際親善試合ということもあり、興行的な取り組みもいくつか見られたのが特徴でした。まず、ブラインドサッカーの試合はパラリンピックをはじめ、一般的には屋外で行われますが、今大会は天候の影響を受けない体育館内に人工芝を敷き詰めて行われました。

体育館内に敷き詰められた人工芝は大会終了後、多くのボランティアにより、素早く撤去された (撮影:星野恭子)

ブラインドサッカーは「音を頼り」に行うため、屋内は音が反響しやすく、プレーへの影響が心配されましたが、川村キャプテンは、「想像していたより、音はよく聞こえた」と話していました。ただ、今回の人工芝は「新品」だったそうで、芝が長くボールが走らず、得点を決めた川村キャプテンやアルゼンチンのエスピニージョ選手も、「少し難しいコンディションだった」とも話していました。

ただし、海外では体育館や人工芝で行われる試合も少なくないそうです。これも、世界で戦っていくには大事な経験でしょうし、使い慣れていくうちにピッチコンディションも上がっていくことでしょう。

また、入場無料席の他、一部に特典付有料席も設けられましたが、全座席数1,923席のところ、1,858名が来場したそうです。有料座席も位置や特典(選手と記念写真など)により、さまざまなチケット(4,000円~14,000円)が用意されていましたが、おおむね埋まっていました。

私が気になったのは透明フェンスシートです。ブラインドサッカーのピッチは、両サイドライン上に高さ1mほどのフェンスが設置されているのが特徴で、ボールや選手がピッチ外に飛び出さないための工夫であり、また、選手が触れることで自身の位置を知る手がかりにもしています。そのため、フェンスには選手やボールがバンバンぶつかり、さらには両チームの選手がフェンス際でボールを取り合うシーンもよく見られます。フェンスシートはピッチに最も近く、大迫力で試合を楽しめたのではないでしょうか。

臨場感たっぷりの透明フェンスシート。今大会では限定4席だったが、満席。透明フェンスは高価なため、まだ一部でしか採用されていない (撮影:星野恭子)

選手には視覚障がいがあり、しかもアイパッチとアイマスクで視覚を完全に遮断して行うブラインドサッカーですが、トップ選手たちの試合を見ると、いとも簡単にボールの位置をつかみ、巧みに扱う様子に、「まるで見えているかのよう」に思ってしまいます。この日も、しばしばそんな場面が見られ、そのたびに客席からも驚嘆の溜息が聞こえてきました。

でも、ごくたまに、ボールの動きが止まり、音が消えると、足で周囲を探るように動かしたり、あるいは、シュートやクリアの際でもボールを大きく空振りしたりするときに、「やっぱり見えていない」と気づかされます。

壁際の攻防も迫力と見ごたえたっぷり (撮影:星野恭子)

そんな見どころいっぱいのブラインドサッカーですが、来年3月の東京で、日本代表の勇姿と世界強豪国のパフォーマンスを目の当たりにできるチャンスがあります。3月19日から24日まで品川区立天王洲公園での開催が決まっている国際公認大会「IBSAブラインドサッカーワールドグランプリ2019」です。東京パラリンピックの前年ということもあり、世界トップクラスの参戦も期待できそうです。

近づいたら、また、こちらでもご案内します。百聞は一見にしかず。ぜひ会場で応援ください!

(文・取材:星野恭子)