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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(234) ウィルチェアーラグビー日本代表の世界初制覇!など、海外から朗報続々!

8月もまもなく前半が終わりますが、海外遠征中のパラ日本代表チームから嬉しいニュースがいくつも届いているので、今回はまとめてお伝えします。

ウィルチェアーラグビー世界選手権大会 (8月5日~10日/オーストラリア・シドニー)

8月5日から10日までオーストラリアのシドニーで車いす競技、ウィルチェアーラグビーの世界選手権大会が開催されました。世界ランク4位の日本は最終日の決勝に進出し、パラリンピック2連覇中で同1位のオーストラリアを62―61で下し、金メダルを獲得しました。大会MVPには日本のエース、池崎大輔選手が選ばれました。

2017年5月、ジャパンパラ大会のアメリカ戦より。2018年世界選手権で、MVPに選ばれた日本のエース、池崎大輔選手(左)と好守が光った、倉橋香衣選手(右)。

ウィルチェアーラグビーの日本代表はリオパラリンピックで銅メダルを獲得していますが、世界の頂点に立ったのはパラリンピック、世界選手権を通して初めての快挙です。同世界選手権大会は4年に1度開催され、日本は5大会連続で出場し、2010年大会の3位が過去最高位でした。

今大会は全12チームが出場し、まず、6チームずつの総当たり戦による予選ラウンドが行われました。日本は4勝1敗のA組2位で決勝に進出しましたが、唯一の敗戦はオーストラリア戦で、52―65と13点差で大敗していました。

でも、準決勝ではB組1位で世界ランク2位のアメリカを51―46で撃破。その勢いのまま、決勝では池透暢主将から池崎選手へのロングパスによるトライなどで得点を重ねる一方、パワーで鳴らすオーストラリアの2枚看板、ライリー・バッド選手とクリス・ボンド選手をチーム一丸となった堅い守備で抑え、4点リードで前半を折り返します。

ハーフタイム後の後半に入ると、地元オーストラリアは会場の大声援も味方につけ、立て続けに4つのトライを決めるなど、日本は逆転を許します。それでも、好守からのターンオーバーなどで食らいつき、再逆転。最後はオーストラリアの猛攻を振り切り、1点差で競り勝ったのです。

日本代表はリオ大会後、東京2020大会での金メダル獲得を目標に据え、ヘッドコーチ(HC)にアメリカ人のケビン・オアー氏を迎え、強化を進めてきました。オアーHCはこれまでアメリカ代表やカナダ代表をパラリンピックに導き、好成績をあげてきた名コーチ。銅メダルチームを一度、解体し、新たな選手も登用するなど、チーム再編にも取り組んでいます。

例えば、今大会でも守備で大きく貢献した、女子の倉橋香衣選手はオアーHC就任後、代表入りしています。あまり知られていませんが、実はウィルチェアーラグビーは男女混合競技です。選手は障害に応じて重いほうから0.5点~3.5点まで0.5点刻みの「持ち点」が与えられていて、コート上4人の合計点を8点以内で編成するのがルールですが、女子が入る場合は、一人につき、合計点が0.5点引き上げられます。つまり、その分、障害のより軽い選手を投入することができるなどチーム編成の幅が広がります。

倉橋選手の持ち点は最も障害の重い0.5点で、スピードやパワーある動きは難しいですが、その分、相手エースの進路を予測してブロックするなど守備面で力を発揮していました。また、16歳で初代表入りした橋本勝也選手など若手選手も貴重な国際経験を積む機会となりました。

今大会の優勝で追われる立場となった日本ですが、大きな自信を手に、さらなる進化を見せてくれることでしょう。

なお、「試合、観てみたい!」と思った方にお知らせです。大会サイトで全試合のアーカイブ動画を配信してます。下記リンクのページから無料で視聴できるので、お時間のあるときにぜひ! 実況放送は英語ですが、十分に楽しめると思います。実は私も、決勝戦を含め、日本にいながら、このネット中継でライブ観戦し、嬉しい瞬間を共有しました。
▶ https://www.2018wrwc.com/watch

観戦前に、「もっと詳しいルールを知りたい!」という方は、日本ウィルチェアーラグビー連盟の公式サイトに分かりやすくまとめられています。
https://jwrf.jp/about/

ところで、今回のウィルチェアーラグビーの快挙ですが、NHKがBS放送で生中継していたほか、優勝後には地上波でも高校野球中継中に「ニュース速報」のテロップが流されました。パラスポーツの世界選手権での結果が「速報」されるのは初めてではないでしょうか。こちらも、「快挙」と言えるでしょう。

また、ヤフーニュースのトップページにも優勝を伝える写真記事が掲載されたのをはじめ、報道記事も多かったです。ウィルチェアーラグビー日本代表の活躍がより多くの人に届き、パラスポーツ全体への注目、関心度アップにもつながっていけば、さらに嬉しいです。

パラサイクリング世界選手権ロード大会(8月2日~5日/イタリア・マニアーゴ)

8月2日から5日には、イタリア・マニアーゴで「2018パラサイクリング世界選手権ロード大会」が開かれ、日本からは5選手が出場。最終日の5日に行われた個人ロードレース(女子54.4km)で、野口佳子選手(C2クラス)が1時間37分16秒で走破し、優勝を果たしました。野口選手は3日に行われた個人ロードタイムトライアル(13.6km)でも、優勝した中国選手から約20秒遅れで銀メダルを獲得しています。

2018年パラサイクリングロード世界選手権個人ロードレースで金メダルを獲得した、野口佳子選手(中央) (写真提供: 日本パラサイクリング連盟)

野口選手は元々、市民トライアスリートで、2016年に出場した自転車レース中に転倒し、脳挫傷や肋骨骨折などで、しばらく意識不明の重体となりました。高次脳機能障害が残ったものの、懸命のリハビリで薬剤師としても復職し、また、パラサイクリングに転向し、競技にも復帰。昨年の世界選手権ロード大会(南アフリカ)でもタイムトライアルで金メダルを獲得するなど活躍を続けています。今大会前にも落車して体調万全ではなかったようですが、金・銀2つのメダルを獲得。東京2020パラリンピックでもエースとしての活躍が期待されます。

なお、今大会の日本人選手の成績は下記の通りです。(情報提供: 日本パラサイクリング連盟)

<3日 ロードタイムトライアル>

WC2クラス(13.6km)
1位 ZENG Sini(中国) 21分47秒73(37,46km/h)
2位 野口佳子 (高次脳機能障害) 22分07秒43
6位 藤井美穂 (右大腿切断) 26分04秒60

MC2クラス(13.6km)
1位 GILMUTDINOV Arslan (ロシア) 18分32秒79 (44.03km/h)
10位 川本翔大 (左大腿切断) 19分42秒54

MBクラス(16.3km×2周回)
1位  GREAT BRITAINペア  31分31秒76(51.78km/h)
19位 木村和平(視覚障害)+倉林巧和(パイロット)ペア 34分56秒92

<5日 個人ロードレース>

WC2クラス(54.4km)
1位 野口佳子 1時間37分16秒
6位 藤井美穂 1時間54分35秒

MC2 (68km)
1位 CHERNOVE Tristen (カナダ)1時間45分30秒
4位 川本翔大 (同タイム)

MBクラス(108.8km)
1位  スペインペア 2時間18分02秒
15位 木村和平+倉林巧和ペア 2時間28分26秒

2018年世界選手権に出場した日本人選手たち。左から、川本翔大選手、野口佳子選手、藤井美穂選手、木村和平選手、倉林巧和パイロット (写真提供: 日本パラサイクリング連盟)

パンパシフィック水泳選手権(8月9日~13日/オーストラリア・ケアンズ)

池江璃花子選手の大活躍などで盛り上がりを見せる、「パンパシ水泳」ですが、実はパラ水泳陣も今、オーストラリアのケアンズで9日から開催中の「パンパシフィック・パラ水泳選手権2018ケアンズ大会」で快泳を続けています。4日目(12日)までを終了し、メダル獲得数は全33個(金14、銀12、銅7)。国別ランクではオーストラリア、アメリカについで3位につけています。

例えば、リオパラリンピックでメダル4個を獲得した全盲のエース、木村敬一選手が大会初日に行われた男子SB11クラス100m平泳ぎで、世界記録に迫るタイムで優勝してチームに弾みをつけると、3日目には知的障害(S14)クラスの東海林大選手が200m個人メドレーでアジア新記録を樹立して金メダルを獲得。さらに、視覚障害クラス(49P)の4x100m自由形リレーで富田宇宙選手、小野智華子選手、齋藤元希選手、辻内彩野選手がオーストラリアとの激戦を制して優勝し、チームをさらに勢いづけています。大会は13日まで。残り1日、さらなる活躍に期待です。

ということで、嬉しいニュースがつづく8月前半戦ですが、実は後半も車いすバスケットボールなど世界選手権を控える競技がいくつかあります。選手の皆さんには練習の成果を思う存分発揮して、大きな自信を手にしてほしいです。ひきつづき、ご声援もお願いします。

(文:星野恭子)