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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(229) 車いすランナー、佐藤友祈が世界新2連発!記録ラッシュで沸いた熱戦の関東パラ陸上選手権

梅雨が明け、30度を超す猛暑がつづいた6月30日、7月1日の2日間、パラ陸上競技の第23回関東選手権大会が東京・町田市立陸上競技場で開催されました。熱風をものともせず、記録ラッシュに沸いた熱い大会となりました。

なかでも圧巻だったのは2日目に登場した、男子車いすクラス(T52)の佐藤友祈選手(WORLD-AC/ワールド・エーシー)です。専門外の100mで3位入賞後、リオパラリンピックで銀メダルを獲得している2種目にも出場し、なんと1500mでは3分25秒08、400mでは55秒13をマークし、あいついで世界記録を樹立。リオで敗れたレイモンド・マーティン(アメリカ)がもっていた世界記録をそれぞれ4秒71、0秒06更新したのです。


1500mで自ら叩きだした世界記録表示を指さし、笑顔の佐藤友祈選手 (撮影:星野恭子)

「2種目で世界記録を出せて、とても嬉しい」と喜びを爆発させた佐藤選手。

快挙の要因はいくつかあったそうです。まずはスタート動作の改良。以前は車いすの一漕ぎ目から全力で漕いでいたそうですが、いろいろ試した結果、今は楽に漕ぎ出して、5漕ぎ目から最大限の力を入れるようにしたところ、体が硬くならず、余力を残して最後まで走りきれるようになったといいます。


1500mで力走する佐藤友祈選手 (撮影:星野恭子)

また、リオ大会時には78kgだった体重を栄養指導などによって72kgまで落としたことで加速しやすく、スピードの維持にもつながりました。

もう一つ、通常は競技用車いすに取り付け、リアルタイムで走行状態が確認できるスピードメーターを、この日はあえて取り外して走ったというのです。「自分にリミッターをかけず、思いきり漕ぎつづけられました」

実際、1500mでは出場者の関係で、「たった一人でのレース」となったのですが、トラック1周目から世界記録ペースを大幅に上回るラップで飛ばしつづけ、会心のレースとなりました。

レース後、自身も現役パラリンピアンで、佐藤選手を指導する松永仁志選手は、「世界記録はいつ出てもおかしくない力はあった。でも、(1500mの)25秒台は想定以上。よくやりました」と眼を細めていました。


400mで世界記録樹立を確認した佐藤友祈選手は、コーチも務める松永仁志選手(左)と笑顔でハイタッチ (撮影:星野恭子)

昨年の世界選手権(ロンドン)ではレイモンド選手を下して2冠、そして、世界記録樹立と階段を上りつづけている佐藤選手は、「東京パラリンピックでは世界新で金メダルを獲ります」と力強く宣言。ご注目ください!

400mフィニッシュ後、タイムを確認してガッツポーズの佐藤友祈選手(撮影:星野恭子)

今大会は他にも新記録が続出しました。女子片脚膝上切断クラス(T63)の前川楓選手(チームKAITEKI/カイテキ)は走り幅跳びで4m05をマークし、また、100m走でも16秒74で走り、それぞれ自身の持つアジア記録と日本記録を更新しました。

専門とする走り幅跳びは、リオで4位に入ったのち、オリンピアンの井村久美子(旧姓・池田)に師事し、急成長。昨年の世界選手権では銀メダルを獲得し、練習でも4m20は跳んでいると言います。

アジア記録を0秒12更新した前川楓選手(左)の100mフィニッシュシーン。隣はリオ代表の大西瞳選手 (撮影:星野恭子)

「嬉しいです!」と満面の笑顔。昨年からウエイトを8kgも絞る肉体改造にも挑み、動きにキレがでました。目標は、2020大会での金メダル。「まだまだ伸ばしていきたいです」

リオ銅メダリストの辻沙絵選手(日体大)が400mで59秒28をマークし、自身のもつ日本記録を2年3か月ぶりに0秒44更新しました。リオで銅メダル獲得後、一躍「時の人」となり、イベント参加など練習不足もあり、しばらく低迷。昨年の世界選手権では再び銅メダルを手にしたものの、記録は伸び悩んでいました。その後、米国合宿で著名なコーチに師事して、スピード持久力をつけるなど、「苦しい」冬季練習の成果が実りました。

「やっと一歩前進できた気がします。今年中に、58秒台を出して、東京パラリンピックに向かいたい」と笑顔を輝かせました。

また、女子視覚障害クラス(T13)の佐々木真菜選手も400mで自己記録を0秒88更新する59秒02で日本記録を樹立。「冬季練習で、主に下半身の筋トレに取り組み、脚力がついた」と成果を話しました。

参加人数の関係で、別クラスながら、同じレースを走った辻沙絵選手(右)と佐々木真菜選手(左)。 (撮影:星野恭子)

日本新記録は他にも続々。女子車いすクラス(T53)の中山和美選手が200m(30.76)、400m(58.57)の2種目で、男子車いすクラス(T54)の生馬知季選手(WORLD-AC)が200mで25秒62をマーク。さらに、男子車いすクラス(F53)の砲丸投げで、大井利江選手(北海道・東北パラ陸上競技協会)が6m84で自身の持つ日本記録を24㎝更新して優勝しました。大井選手はなんと69歳。もちろん2020年大会を目指す現役レジェンドです。

日本新記録は20個以上など、記録ラッシュに沸いた今大会ですが、ベテランに加え、若手選手たちの活躍も見られたのも2020年に向けて期待が高まります。もう一つ、2日間での観客数が1000人を超え、例年に比べて盛り上がりも見せました。パラ陸上界のすそ野の広がりも見られ、関心の高まりも感じられた大会となりました。

なお、今週末7月7日、8日には国内最高峰の大会、「ジャパンパラ陸上競技選手権大会」が正田醤油スタジアム群馬(群馬県前橋市)で開催されます。関東選手権で活躍した選手も含め、多くの選手が自己の限界に挑みます。
ジャパンパラ陸上競技選手権大会のポスター (提供:日本障がい者スポーツ協会)

今年はさらに、パラリンピック連覇中の義足のジャンパー、マルクス・レーム選手(ドイツ)など海外からもトップ選手が参戦予定。2020年東京大会の予習も兼ねて、ぜひ! 入場は無料です。

<ジャパンパラ陸上競技選手権大会>詳細: http://www.jsad.or.jp/japanpara/athletics/

(文・取材:星野恭子)