「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(227) 守って、投げる。シンプルなプレイの裏にち密な戦略~奥深いゴールボール!
ゴールボールのコート。互いのゴールにボールを投げ合って得点を競う。写真は2018世界選手権より (撮影:星野恭子)
ゴールボールは、第2次世界大戦で視覚に障がいを負った兵士のリハビリテーションプログラムとして考案ました。パラリンピックでは、1976年トロント大会から実施されています。
ゴールボールのゴール。幅9m、高さ1.3mで、ボールがゴールラインを完全に越えると1点となる (撮影:星野恭子)
3人1組の2チームが、センターラインをはさんで向かい合い、相手ゴールに向かってボールを投げ合い得点を競います。特徴は、選手が目隠し(アイシェード)をつけ、全く見えない状態でプレイすること。そのため、鈴入りで転がると音が鳴るボールや、足音や気配といった、「音」が頼りです。
ルールには見えない状態の選手が安全に公平に、かつ、戦略的にプレイができるような、さまざまな工夫があります。
目隠し(アイシェード)の下にはアイパッチ(貼る眼帯)もつけ、光も完全に遮るほど厳格。写真は、日本男子代表センター、川嶋悠太選手 (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
3選手のポジションで、中心の選手を「センター」、右側の選手を「右ウイング」、左側の選手を「左ウイング」と呼びます。センターは主に守備の要で、ゲームの司令塔を担い、ウイングはセンターの指示を受けて連係して守り、攻撃を行います。
本文末にゴールボールの試合など動画が見られるサイトなどを紹介しています。ぜひご覧ください!
主なルール
・1チームは最大6人で編成し、コート上は3人。選手交代は何度でも。・バレーボール大(18mX9m)のコートの両端に、サッカーのようなゴール(幅9mX高さ1.3m)。
・コートは横に6mずつのエリア(自陣、ニュートラルエリア、敵陣)に分かれる。
・各ラインは糸の上にテープを貼られている。この凸凹を手や足で触り、選手は自分の位置を確認。
選手は自分の位置や方向を知るために、ラインに手や足でひんぱんに触れる。写真は、相手のスローを待つ、日本女子代表たち(撮影:星野恭子)
・ボールはバスケットボール大で、重さは約2倍の1.25kg。ズシリと重い。
・1試合は12分ハーフの合計24分間(ハーフタイム3分)。ゴールデンゴール方式の延長戦(3分ハーフ)あり。
・投球はダイレクトに相手ゴールに投げ込むことはできず、自陣とニュートラルエリアで少なくとも1回ずつバウンドさせなければいけない。このルールにより、守備側がボールの音を聞くチャンスが生まれる。
・ハイボール:自陣でボールがバウンドしなかった場合。
・ロングボール:自陣でバウンドしたが、そのあとニュートラルエリアでバウンドしなかった場合。
・反則を犯した場合は相手にペナルティスローが与えられる。サッカーのペナルティキックのような、1対1の攻防。
緊張感あふれるペナルティスローの様子。勝敗の行方を左右することも (撮影:星野恭子)
・選手自身で見えない部分はベンチが目の代わりとなってフォローする。計時の停止時にはベンチから声をかけることができ、また、タイムアウトや選手交代などでベンチの指示を選手に伝える。
・「音が頼り」の競技なので、プレイは静寂の中で行われる。ただし、得点時など時計が停まったときは声援できる。
攻撃のポイント
・転がしたり、床に強くボールを叩きつけてバウンドさせたり、多様なボールで守備を惑わす。2018世界選手権で得点女王(46得点)となったトルコのセブダ・アルトゥノルク選手。高低差のあるバウンドボールが持ち味 (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
・回転した遠心力で勢いをつけて投げる「回転投げ」なども。
・最近の主流はバウンドボール。守備側はタイミングをつかみにくく、体の上を乗り越えやすいなど、得点につながりやすい。
・できるだけ音を消し、ボールの出所が分からないような投球方法の工夫。キャッチしてすぐ投げ返す、「速攻」、サイドの「移動攻撃」や、味方同士で「パス」をするなど。
・相手の弱点(守備の間)を見つけ、攻める。ベンチからの情報も重要。
世界ランク1位のブラジルの絶対的エース、レオモン・モレノ・ダ・シルバ選手。2018世界選手権でも得点王(44得点)に輝いた (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
・野球のピッチングの、「外角、外角、内角」や「速球とカーブの組み合わせ」などのように、さまざまな球種を組み合わせ、守備を翻弄する。
・ベンチ(コーチなど)の声やアドバイスも重要。
・緩急をつけたり、バウンドさせたりと多彩な球種を取り混ぜ、守備の壁をこじ開ける。
日本男子の信澤用秀キャプテン。攻守に安定した、頼れるリーダー (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
・声を出したり、故意に足音立てたりして誰が投げるかを隠す、「フェイク」も有効。ただし、ボールが味方の手を離れたあとも音を出していると、守備妨害として「ノイズ」という反則になるので要注意。
・日本チームは、幅9mあるゴールの左端を0として1mごとに番号をふり(1〜9)、投球ポイントの目安にしている。(例)「2から8」は、自陣の2番(右寄り)から、相手の8番(左サイドライン)へのクロスボール、「0-9」なら、自陣0番(右サイドライン)から相手9番(左サイドライン)へのストレートボールの意など。
日本女子の天摩由貴キャプテン。陸上で鍛えた脚力から繰り出す移動攻撃やバウンドボールで敵を翻弄 (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
守備のポイント
・ボールの中の鈴の音や相手選手の足音、気配などからボールの転がってくるコースを察知し、身体を横たえ守備の壁をつくってボールを止める。・ボールの方向を察知することを、「サーチ(さがす)」ともいい、その能力は「サーチ力」という。
日本女子の守備の要、センターの浦田理恵選手。定評ある鋭いサーチ力でゴールを守る、指令塔 (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
・視覚以外のあらゆる感覚を駆使する。聴覚はもちろんのこと、指先や足先なども・・・。
・転がってくるボールの速さは男子トップクラスで時速60~70km。時間にして0.5秒ほどで守備側まで届く。女子でも0.8秒ほどと言われる。一瞬でボールの位置を察知して、体を張って守らねばならない。
2018世界選手権で準優勝を果たしたドイツ男子チーム。ゴール前に引いた守備ラインなど、堅守が光った。 (撮影:星野恭子)
・最初にボールに触れた時点から10秒以内にセンターラインを越えるよう投げ返さねばならない(「10(テン)セカンズ」ルール)。できるだけ早く確実にキャッチし攻撃に移すため、時間の管理も欠かせない。
・ベンチ(コーチ)からのアドバイスで、守備の形を修正する。
・壁(ライン)の作り方も戦略により多様な形がある。
・一文字(3人が横一線に横たわる): 穴なく並ぶのは至難の技だが、グラウンダー(転がってくるボール)には有効。日本の特徴的な戦法だったが、女子が2012年ロンドンパラリンピックを制して以降、世界中が研究。
2018世界選手権で優勝したロシア女子チームの一文字型のディフェンス (撮影:星野恭子)
・三角形: センターを頂点にウイングが少しゴール側に下がったポジション。センターがはじいたボールもウイングがカバーしやすい。
・ボールから一番遠い選手が後方に回り込み、こぼれたボールをカバーすることも。
左ウイングから、ボールカバーに入ろうと構える、欠端瑛子選手(右) (撮影:星野恭子)
・守備の姿勢は重要。体が上向きだと、ボールが上にはずんでゴールに飛び込みやすい。
バウンドボールは体にうまく当てないと、大きくはずみ、失点につながることも (撮影:星野恭子)
・ボールがゴールラインを完全に越えるまでは得点にならない。諦めず、ボールかきだすようにして守る選手も。
・バウンドボールはタイミングを合わせて空中でストップさせる技も必要。
バウンドにボールに飛びつく、日本の安室早姫(さき)選手のディフェンス (写真提供:市川亮/日本ゴールボール協会)
・我慢強く守っていると、相手がペナルティを出すことも。
観戦のポイント
・審判が「クワイエット、プリーズ。プレイ!」(お静かに。はじめ!)とコールしたら、静かに見守る。・計時が停まったり、場内に音楽が鳴ったら、大声援を!
・静かなので、選手の声もよく聞こえる。選手間やベンチからのコミュニケーションにも注目を。
・「次はどこに投げるだろう?」など、選手の戦略を想像しながら観戦するのも面白い。
・ベンチから情報や戦略が与えられるタイムアウト後や選手交代後は得点率が高い。
タイムアウト中の日本女子チーム。次の数プレイに注目! (撮影:星野恭子)
■参考資料
・「かんたんゴールボールガイド」 (日本障がい者スポーツ協会)
http://www.jsad.or.jp/about/referenceroom_data/competition-guide_03.pdf
・2018世界選手権アーカイブ集 (国際ブラインドスポーツ協会)
http://www.wcg18.se/live-broadcast
・ゴールボール大会プロモーション動画など (日本障がい者スポーツ協会)
http://www.jsad.or.jp/movie/index.html
・ゴールボール動画集 (国際パラリンピック委員会)
https://www.paralympic.org/videos/videos-archive?category=Goalball
■観戦情報
・日本選手権男子一次予選大会:7/7(土)~8(日)/所沢市民体育館
・日本選手権男子二次予選大会・女子予選大会:9/8(土)~9(日)/所沢市民体育館
・日本選手権: 11/17(土)~18(日)/足立区総合スポーツセンター
・男子代表国際強化大会(ジャパン・メンズ・オープン): 19年1/11(金)~14(月・祝)/佐倉市民体育館/海外4カ国招聘予定
・女子代表国際強化大会(ジャパンパラ競技大会9: 19年2/1(金)~3(日)/千葉ポートアリーナ/海外3カ国招聘予定
(参考: 日本ゴールボール協会 http://www.jgba.jp/recruit.html)
(文:星野恭子)