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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(218) 平昌大会で感じた、「パラリンピックを開く意義」

3月9日から18日まで韓国で開かれた、平昌冬季パラリンピック大会。私にとっては6大会目の現地取材となるパラリンピックでしたが、過去大会に比べていちばん、「パラリンピックを開く意義」について考えた大会でした。きっと、2020年東京大会のことを意識していたからだと思います。

いろいろな面で意義を感じましたが、今回は開催国である、韓国にとっての意義について実感したことを振り返ってみます。それは、おそらく障がい者に対する考え方に大きな変化を与えただろうということ。

例えば、施設のバリアフリーについて。元々の施設はバリアフリーでなかったようで、急きょ取り付けたと思われるスロープや点字ブロックが目立ちました。また、その取り付け方も中途半端だったり、角度が急すぎるなど使い勝手がよくなかったりと不十分な感じが多々ありました。車いすでの乗降も可能なリフト式バスも導入されていましたが、主に選手用であり、まだまだ一般的ではなかったように見えました。
選手村内の木製の長いスロープ (撮影:星野恭子)

車いすアスリート向けのリフト付きバス (撮影:星野恭子)

メディアルームで見かけた、車いす記者のためのスペース。(撮影:星野恭子)

とはいえ、大会のためにバリアフリー環境を用意するという取り組みは韓国の人々に、障がいのある人も社会の一員なのだという新しい視点を与えたはずです。実際、開会式を含め、大会会場で車いすの観客の姿が多かったのが印象的でした。過去のパラリンピック以上に多いように思いましたし、私は平昌大会の他に2回、アジア大会など韓国で行われた障がい者の国際大会の取材経験がありますが、そのときは選手以外に障がいのある人を見かけたことはほとんどなかったように思います。

平昌大会をきっかけに、最初から段差のない設計にしたり、必要なら予めスロープをつけるといったユニバーサルデザインの考えが広がることを期待したいですし、また、バリアフリーバスの導入も増えていくといいなと思います。

また、母国選手の活躍も、障がい者観を大きく変えたように思います。大会が始まってすぐに頃は、「順調」と言わえるチケットの売り上げ状況とは裏腹に、多くの会場では空席が目立っていました。「今日は観客が多いな」と思う日もあったのですが、それは例えば、韓国選手やチームが出場する日だったり、韓国大統領が観戦する日だったり、あるいは、史上初めて2選手が出場した北朝鮮が登場する日だったりと、何か理由があったのです。そして、お目当ての選手のレースが終わると潮が引いたように減ってしまうのがお決まりでした。

でも、日を追うごとに観客の応援に少しずつ熱が増していくのが感じられたり、他国の選手への拍手や歓声なども聞かれたりするようになっていきました。また、自国開催にも関わらず、テレビでの中継時間が少なすぎるという世論が高まり、それを受けた文在寅(ムン・ジェイン)大統領の一声で中継時間が増えたというニュースもありました。

日に日に埋まっていった観客席 (撮影:星野恭子)

選手たちの頑張りを実際に目の当たりにして、パラスポーツの迫力や面白さを体感して、「もっと見たい」「応援したい」という観客の背中を押したからだろうと思います。最終的に、韓国選手団が今大会で獲得したのは金1個、銅2個という3つのメダルで、10個を獲得した日本に比べても少な目に感じるかもしれません。でも、韓国勢にとっては確実に躍進でした。

例えば、アイスホッケーでは初の銅メダルを獲得し、車いすカーリングでも4位に入る大健闘を見せました。団体競技は大会初日から予選があるので、勝利を重ねるうちに話題も広がっていきます。またクロスカントリースキーの座って滑るクラスに出場したシン・ウィヒョン選手(37)は大会3日目の銅メダルを、そして9日目に金メダルを獲得しましたが、これは1992年アルベールビル大会から冬季大会に参加してきた韓国勢にとって初めての冬季大会での金メダルという活躍ぶりでした。

こうした選手の活躍が次につづく選手の刺激となることを期待しますし、パラ選手を応援する思いが根付くことも祈ります。

今大会ではまた、さまざまな競技で中国選手の存在感も増していました。夏の大会では圧倒的な強さを見せる中国勢でも、これまで冬の大会ではそれほどでもなかったのですが、きっと次回2022年大会の開催国として、国内での強化が進んでいるからでしょう。また、2010年バンクーバー大会を開催したカナダ選手の活躍も目立ちました。選手層が厚くなったということは、それだけ障がいのある人のスポーツ参加率も増しているからだろうと思います。パラリンピック大会開催の意義の一つだろう思います。

大韓航空機内のエンターテインメントメニューには、平昌オリンピック・パラリンピックでの実施競技を説明するチャンネルも (撮影:星野恭子)

平昌大会には、2020年大会を見据え、日本からも数多くの視察団が訪れていたそうです。例えば、バリアフリー環境はパラリンピックだけでなく、オリンピック開催時から実現できれば、もっといいわけです。オリンピック開幕まで、あと2年あまり。2020年大会をよりよい大会とすべく、平昌大会で得られたデータがしっかりと活用されることを期待したいと思います。

厳しい寒さが懸念された開会式や閉会式で、観客らに配られた防寒グッズ。(撮影:星野恭子)

(文・取材:星野恭子)