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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(217)ブラインドサッカー国際大会、日本は5位。見えた課題と可能性

日本をはじめ世界強豪6チームが参加して、3月21日から東京・品川区で開かれていたブラインドサッカーの国際公認大会、「ワールドグランプリ2018」が25日に閉幕。日本は予選A組で1勝1敗の3位となり、フランスとの最終戦を1-0で勝利し、5位で大会を終えました。また、予選2勝0敗で決勝に進出したアルゼンチンがイングランドを0-0からPK戦の末に勝利し、大会初優勝を飾りました。3位決定戦はトルコがロシアを1-0で下しました。

5位決定戦で、フランスのマークをかわしてシュートとする川村怜主将。試合を決める1得点を挙げた。(撮影:星野恭子)

このワールドグランプリ大会は2020年東京パラリンピックでメダル獲得を目指す日本の強化などを目的に今年度から新設された国際大会で、2020年までの3年連続で東京での開催が決まっています。その初代王者を狙った日本でしたが、結果的には5位と残念な結果に終わりました。

指揮を執る高田敏志監督は、「選手は3試合、精一杯よく戦った。アグレッシブに行こうという姿勢は貫けた。2020年に向けたチームなので、選手もスタッフも統一した気持ちで戦えたのはよかった。課題は決定力。やるべきことは明確になった」と大会を振り返り、次の目標を口にしました。

日本は2016年リオパラリンピック出場を逃した15年秋以降、新たに就任した高田監督のもと、定評ある守備力をベースに、さらに「点を取って勝つ」攻撃的チームへと変革を進めています。引いて守備的にゲームを進めるのではなく、より前線からボールを奪い、ショートカウンターでゴールを狙うアグレッシブなサッカーです。ブランドサッカーという、「全く見えない状態」で行うサッカーではリスキーなパスサッカーにもチャレンジし、合宿などで練習を繰り返しています。

2020年に向けた過程のなかにある「高田ジャパン」にとって、昨年秋に臨んだ初の公式戦、アジア選手権で史上最低の5位という結果に終わり、今年6月の世界選手権への切符も逃してしまいました。目標とする攻撃的サッカーへの厳しい評価もある中で、高田ジャパンが世界と戦うチャンスを得たのが、今大会でした。

簡単に大会を振り返ると、日本は予選リーグの初戦でイングランドと対戦し、氷雨の降る厳しいコンディションのなか、前半14分にエース黒田智成選手のゴールで日本が先制。その2分後に1点を返されたものの、後半11分に黒田選手が追加点を挙げ、2対1で勝利しました。雨の中は、「音を頼りにプレイする」ブランドサッカーではかなり難しいコンディションになります。

黒田選手は、「このピッチコンディションで、ボールが止まったり滑ったりして、思ったようなプレイはできなかったが、今できることをしっかりやろうとして勝ててよかった。自分の役割はゴールを決めること。皆で体を張って守り、前線にボールをつけてくれたので、何とか決めたいと思っていた。特に2点目はゴール前で冷静にボールを動かし、相手をかわして打てたので、納得のいくゴールだった」と振り返りました。

2試合目のトルコ戦は、前半は両者決め手を欠き、0-0で終えたものの、後半は雨が降り出し、難しいピッチコンディションと変化するなか、トルコに11分、17分とあいついで得点を決められ、0-2で敗れました。日本は前半に相手との交錯から負傷した黒田選手が後半から欠場したり、先発の佐々木ロベルト泉選手も不運な笛もあり、5ファウルの退場で欠くなど、厳しい布陣となったことも響きました。

高田監督は、「非常に残念な結果。想定外のこともあったが、決めきれなかったのはシュートの精度や決定力不足。シュートチャンスは作れたので、あとは決定力をあげるトレーニングをしたい」と課題を口にし、川村怜主将も、「前半は自分たちのペースで進められたが、後半は雨脚が強まり、適応するのに時間がかかった。自分がもっと工夫しながらボールを展開できれば、日本のボールも増えたかと思う。もう少し冷静にプレイしたかった」と振り返りました。

この敗戦で、A組の3チームは1勝1敗で並んだものの、大会ルール上得失点差と総得点数との比較となり、1位イングランド、2位トルコ、3位日本となってしまい、日本は5位決定戦へと駒を進めることになりました。いいゲームをしていながら、まさに「1点に泣いた」結果となりました。
ブラインドサッカーではボールや選手が飛び出さないよう、サイドライン上にフェンスが立てられている。このフェンス際の攻防もブラインドサッカーの醍醐味。音や足先の感覚でボールを探り、奪いにいく。(撮影:星野恭子)

気持ちを入れ替えて臨んだフランス戦は、トルコ戦での敗戦時に、「アグレッシブにいくサッカーは見てくださる人も楽しいと思うし、何より(プレイしている)僕らが一番楽しい。自分たちが主導権をとって相手ゴール前に侵入し、シュートチャンスを増やし、1点でも多くとって勝利を届けられるよう頑張りたい」と意気込んでいた川村主将が前半9分に、値千金のゴールを奪います。その後は攻めながら守りきり、勝って大会を締めくくることができました。

川村主将は、「フランスに対するスカウティングに従い、冷静にシュートまで行けた。(トルコ戦の)敗戦をいい試練とし、このフランス戦が大事な試合になると選手間で話し、今日は何がなんでも勝ちにいくぞという強い気持ちで臨んだ」と力強く振り返り、「強豪国を相手に、攻撃的サッカーが発揮できている手応えはあった。あとは決定力も含めて精度を上げていくことが課題」と改めて、次への目標を話していました。

高田監督は今大会前から、チームは今、2020年に向けた進化の過程にあり、今大会の結果についても「点」ではなく、「線」で見てほしい、と語っていました。川村選手だけでなく、他の選手たちからも、攻撃的サッカースタイルのついての手応えや楽しさという声は大きく聞かれました。

とはいえ、やはり内容だけでなく、勝ってこそ、スポーツ。第2戦で先発したゴールキーパーの榎本達也選手は、「楽しくプレイしたが、サッカーは勝負事。勝つことで、より楽しくなる。結果にもこだわり、勝つことで楽しくやれている部分を表現したい」と話します。榎本選手は元Jリーガーで、16年現役引退後にブラインドサッカーに転向。厳しい勝負の世界での経験をブラインドサッカーに還元してくれることも期待されます。

とにかく、今大会を通して、「前へ、前へ」と攻めていく姿勢は十分に感じられ、観戦していてワクワクする感覚はありました。一方で、「決定力不足」は以前から指摘されていたことですが、攻撃的サッカーを目指すことで、より明確で深刻な課題となったように思います。どう高めて、どう高まっていくのか。「ブラインドサッカー日本代表は、『見てもやっても楽しいサッカー』をめざして進化中」という監督や選手たちの言葉を信じ、今後も期待をもって見続けたいと思います。

また、今大会は、パラスポーツとしては珍しく、有料制で実施されました。大会前半は天候不良にも悩まされ、観客数は連日1000名弱と、空席が目立つ日も少なくありませんでした。ただ、インターネットでの生中継やアーカイブ配信なども実施されたので、「観戦者数」としてはもう少し伸びるかと思います。

日本戦だけでなく、世界トップクラスの選手が繰り出す「妙技」には観客席から、「すごい」「さすが」と言った声も漏れ聞こえていました。パスサッカーや豪快なシュートなど、パラスポーツのイメージを覆すようなパフォーマンスも見てもらえる機会になったのではと思います。この辺りは別の機会に振り返りたいと思います。

(文・取材:星野恭子)