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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(214) “ピョンチャン”後半戦、まもなく開幕。平昌パラリンピックを100%楽しもう!

「史上最多メダル」に沸いたピョンチャン冬季オリンピックは閉幕しましたが、「ピョンチャン大会」はまだ終わっていません!9日からは10日間の日程で、パラリンピックが始まります。冬季大会としては過去最多となる、世界49の国と地域から約570選手が6競技80種目に参加予定です。

日本から出場するのは、車いすカーリングを除く、アルペンスキー、スノーボード、クロスカントリースキー、バイアスロン、アイスホッケーの5競技に38選手と競技パートナー1人の39名。さらに、スタッフ47名を含む、総勢86名が日本代表選手団として派遣されます。初参加は13名で、一方、4回以上参加している選手が11名という、新人とベテランが混ざり合う布陣となっています。揃いの代表ウエアに身を包んだ日本代表選手団。壇上が選手たちで、前列はコーチ・スタッフ陣 (撮影:星野恭子)

すでに、選手団の結団式と壮行会も、オリンピック閉会式の翌2月26日に東京都内で開催されています。式典では、秋篠宮殿下をはじめ、多くの来賓が激励の言葉を述べ、団旗が日本パラリンピック委員会(JPC)の鳥原会長から、選手団の大日方邦子団長へ、さらに旗手の村岡桃佳選手(アルペンスキー)に授与されました。

また、須藤悟(アイスホッケー)主将が、「2年半後の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、障がい者スポーツへの関心が高まるなか、日の丸を背負って戦う責任も日を追うごとに大きくなっている。かつて障がい者スポーツの認知度は非常に低く、競技環境も決して良いとは言えなかったが、東京オリンピック・パラリンピックの決定後、環境は大きく改善された。今回、競技の魅力を少しでも多くの皆さんにお伝えすることができ、ひとりでも多くの障がいを持っている方がスポーツをやってみたいと思うきっかけになることを願う。オリンピックの勢いを引き継ぎ、素晴らしい大会にしたい」と力強く決意表明をしました。

須藤主将が口にした、「オリンピックの勢い」、本当に受け継いでほしいです。日本パラリンピックチームはメダル獲得目標として、前回ソチ大会で獲得した6個のメダル(金3、銀1、銅2)を上回る成績を掲げています。大日方団長は過去にメダル10個を獲得しているレジェンド・パラリンピアンですが、「決して簡単な目標ではないが、選手及び役員が一丸となり、全員が持てる力を発揮すれば達成できると信じている」と力をこめ、また選手たちに向けては、「多くの応援を受け止め、自身の力に変え、クリーンでフェアなアスリートとして正々堂々と競技に臨んでほしい。その姿がスポーツの価値を守り、高めていくことにつながる」と語り掛けました。
団旗を手にする村岡桃佳旗手(右)と、須藤悟主将(右から2人目)、大日方邦子団長(同3人目)、鳥原光憲日本障がい者スポーツ協会会長 (撮影:星野恭子)

ダイナミックさとち密さと、魅力いっぱい、冬のパラスポーツ

では、6競技の概要と主な選手などをそれぞれ簡単にご紹介します。

まず、アルペンスキーは、「雪上のF1」と呼ばれ、種目によっては時速100kmを超えるスピード感が魅力です。オリンピックとほぼ同じルールで、旗門の数と滑走距離の異なる5種目が男女別に実施されます。ただし、パラリンピックでは選手の障がいの内容により、座って滑る「座位/シッティング」、立って滑る「立位/スタンディング」、「視覚障がい/ビジュアリーインペアード」の3つのカテゴリーで競います。

さらに、選手はそれぞれの障がいの程度に応じて「クラス」にも分けられていますが、公平に競えるよう、「計算タイム制」が採用されています。ゴルフのハンディキャップのようなもので、簡単にいうと、障がいの最も軽いクラスを100%として、重さに応じた「係数」が設定されており、実走タイムに係数をかけた計算タイムで順位が決まります。つまり、同じタイムで滑ったら、障がいの重い選手のほうが勝ちとなる、というわけです。

日本からは初出場2人を含む9選手が参加しますが、特にチェアスキーと呼ばれる用具で滑る「座位」クラスを中心に、過去大会では多くのメダルを獲得しています。まず、スーパー大回転で3連覇、滑降では2連覇を狙う狩野亮選手。回転で2連覇を狙う鈴木猛史選手、過去4大会で銀3つ、銅1つ獲得し、悲願の金を狙う森井大輝選手などを筆頭に、旗手を務める村岡桃佳選手も2回目のパラリンピックで初メダルを目指します。
アルペンスキー日本代表選手たち (撮影:星野恭子)

つづいて、「雪上のマラソン」と呼ばれ、スタミナも問われるクロスカントリースキーと、さらに射撃を組み合わせたバイアスロン。日本からは初出場4人を含む9選手と視覚障がい選手のガイド1名が参加します。障がいのカテゴリーや計算タイムの採用はアルペンスキーと同様です。

平昌ではクロスカントリースキーで男女別に個人3種目(スプリント・クラシカル、ミドル・クラシカル、ロング・フリースタイル→男女、障がいカテゴリーで距離が異なる)と混合リレー2種目が、バイアスロンでは距離の異なる個人3種目(ショート、ミドル、インディビジュアル)が実施されます。

注目選手はまず、6大会連続出場の“レジェンド”、新田佳浩選手。鍛え上げた脚力と右手1本のストックでバンクーバー大会以来の金メダル奪還を目指します。また、2大会連続出場の阿部友里香選手も初の表彰台を狙っています。

ノルディックスキー(クロスカントリースキー/バイアスロン)日本代表選手たち (撮影:星野恭子)

今大会から正式競技となるスノーボードにも注目です。スノーボードクロス(2選手が同時にスタートし、ジャンプ台やカーブがあるコースを滑り、速いほうが勝ち)と、バンクドスラローム(旗門で設定されたコースを滑り、3回の試技中の最高タイムで競う)の2種目が実施されます。

障害クラスは上肢障害と下肢障害(膝上/膝下)の3つ。日本からは3選手が初出場しますが、なかでも、兄と姉が2006年トリノオリンピックに出場した「成田兄弟」の末っ子で、今季ワールド杯6度優勝の成田緑夢(ぐりむ)選手は金メダル期待大の選手です。
スノーボード日本代表の成田緑夢選手(左)と小栗大地選手 (撮影:星野恭子)

氷上の格闘技とも言われる、アイスホッケー。パラリンピックでは下肢に障害のある選手がスレッジと呼ばれる専用のそりに乗って行います。ルールはアイスホッケーとほぼ同じで、ボディチェックも許されているので迫力満点。2本の特製スティックを巧みに操り、スレッジを漕いだりパックを打ったりします。

世界トップ8が激突します。日本は2010年バンクーバー大会で銀メダルを手にしており、2大会ぶりの大舞台で上位進出を目指します。日本代表は今回、平均年齢約42歳ですが、ベテランと初出場がほぼ半々。培ってきたチームワークで、10日の初戦では世界ランク3位の地元、韓国と、11日には絶対王者アメリカと対戦します。
アイスホッケー日本代表選手たち (撮影:星野恭子)

もう一つ、日本の出場はありませんが、車いすに乗っておこなう車いすカーリングもあります。ルールはオリンピックとほぼ同じですが、大きな特徴はスイープがない点。手、または棒状の補助具(デリバリースティック)でストーンを投げる、そのコントロール力がすべてになります。世界ランク10位までに10カ国が出場しますが、3連覇中のカナダなどに注目です。

話題いろいろ!

今大会には、「夏冬二刀流」の選手も。クロスカントリースキーとバイアスロンで3大会連続出場となる佐藤圭一選手は元々、スキーのための夏場のトレーニングとして始めたトライアスロンでリオ大会に初出場を果たしています。

一方、陸上走り幅跳びの銀メダリスト、山本篤選手はスノーボードで冬季大会にデビューします。高校生で義足生活になる前から、スノーボードが趣味だったといい、スノーボードがパラリンピック競技になると知り、再挑戦を決めます。「パラアスリートとして実績ある自分が新たなチャレンジをすることで、パラリンピックへの関心も高めたい」と言います。経験を活かし、「本番ではベストな滑りをしたい」と意気込みます。

海外の話題としては、オリンピックで話題になった北朝鮮から2選手がノルディックスキーにエントリーしています。美女軍団は不参加のようですが、どんな戦いを見せるのか注目したいと思います。

また、ドーピング問題で出場が検討されたロシア選手については、同国のドーピング対策が改善に向かっているということで、オリンピック同様、個人資格での出場が認められ、30人がエントリーしたそうです。ただし、そうしたロシア選手をオリンピックでは、OAR(ロシアからのオリンピック選手)と呼んでいましたが、パラリンピックでは、NPA(ニュートラルなパラリンピック選手)と呼びます。「パラリンピックにドーピングは許さない」という、国際パラリンピック委員会(IPC)の強い意志の表れでしょうか。

などなど、興味深い点が満載ですが、こちらで名前を挙げた選手だけでなく、個性あふれる選手たちがそれぞれの目標を胸に大舞台に臨みます。今回はメイン放送局NHKが開会式の生中継なども含め62時間を放送するそうです。私もまもなく平昌に飛び、現地からリポート予定です。時差のないピョンチャンで行われる「熱い戦いの後半戦」、ぜひ大きな声援をお願いします!

<参考: 平昌パラリンピック特設ページ>
▼日本パラリンピック委員会 (JPC)
日本選手出場種目日程や結果などhttp://www.jsad.or.jp/paralympic/pyeongchang2018/

▼NHK 平昌パラリンピック特設ページ
中継予定などhttps://www.nhk.or.jp/paralympic/index.html

▼日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)特設ページ
コラムなどhttps://www.parasapo.tokyo/paralympic/pyeongchang2018

(文・取材:星野恭子)